モダンアート展にて2012年04月17日


従姉から招待状が来て、上野の東京都美術館まで出かけました。彼女はモダンアート協会の会員で、作品が出展されているそうです。

上野の桜は、もう葉桜になりかけて、風もないのに、はらはらと散り続けていました。
それでも、シートを広げて昼間から宴を楽しんでいる人たちがいっぱい。それをまた楽しそうに見物している外人観光客もいて……。
暖かくてのどかな昼下がりです。

都美術館の展示場に一歩足を踏み入れたとたん、そこはもう別世界でした。
いくつもの広い部屋があり、明るい照明に照らされた室内には、びっしりと絵が並んでいます。それも、ほとんどが抽象画で、100号以上の大作。畳1枚は優に超えるようなサイズです。
絵を見るのは好きですが、これほどの数の抽象画を集めた展覧会にはめったに来たことがありません。

鑑賞する人もあまりなく、室内は静まり返っている。その静寂の中で、作品たちのなんとにぎやかなこと! 
あるとあらゆる色の叫び、線の唸り、形の笑い、マチエールのさざめき……。
おおぜいの作家の、ひとつひとつの作品が、訪れた私に饒舌に声をかけてくるのです。
どの作品も、ものすごいエネルギーを放っている。そして、その大きさ、その数……。
目に見えるすべてに揺さぶられ、圧倒され、引き裂かれるかのような感覚を味わっていました。

ふと立ち止まって、ある思いに捕らわれました。
ここにある抽象画が表出しようとするものは、受け手によって何通りにも変容する可能性を持っている。けれども、言葉を用いたエッセイには、それがない。広がりがない。なんてつまらない弱いものだろうか……。
そんなふうにさえ思えてきました。
たくさんの絵を前にして、疲れていたせいでしょう。

そのとき、友人から聞いた話を思い出しました。彼女は60歳を過ぎてから抽象画を習い始めたそうで、その先生が、
「本物だけをたくさん見なさい。展覧会に行ったら、1等賞の絵だけ見ればいいんですよ」と言われたとか。
そこで私も、賞を取っている作品だけを見ていくことにしました。
すると、受賞作品には共通点があることに気がついた。
それは、独創性。オリジナリティ。
たとえば、こんな絵があります。まるでボールペンの試し書きのように、グルグルグルと黒いコイルを描いただけの絵。しかもその黒いコイルが、キャンバスの隅から隅まで万遍なく描かれている。ばかばかしいと言えばそれまでだけれど、芸術とはその斬新さが評価されるのだろう、と思えてきます。
受賞していない作品のなかには、たしかにきれいで魅力的だけど、流行りのように同じような絵があったりするのです。

ようやくそこで、あたりまえのことに気がつきました。
エッセイはモダンアートにあらず。
独創性も斬新さも必要ない。言葉には言葉の力と役割があるはずです。
大事なのは、だれにでも理解してもらえる、きちんと伝わる文章を書くこと。
そして、読む人の共感を得たり、その心をちょっとでも動かしたりできれば、そこにエッセイの価値が生まれるのではないでしょうか。

帰り際にやっと出会えた従姉のオブジェは、織物を用いたタペストリーのような作品でした。
着物の帯のように、2色の布で結び目を作り、それを数個並べてある。素朴な素材のぬくもり、結びというイメージのやさしさ。
ほっと気持ちの和む作品でした。

従姉の作品


コメント

_ 村上 好 ― 2014/11/16 16:43

hitomi さん

美術とエッセイの違い。
おもしろい見方だと感じます。

どちらも表現できることもある、
美術でないと表現できないこともある、
エッセイでないと表現できないこともある、

そんな風に思います。

私は美術を余り楽しめません。美術をこころゆくまで楽しめ、自在にエッセイを書ける hitomi さんがうらやましいです。

村上 好

_ hitomi ― 2014/11/19 10:17

村上さん、
美術は、無理に理解しようとなさらなくとも、面白い、楽しい、変なの……!でいいと思います。何かを感じるところから始められてはいかがですか。

_ 村上 好 ― 2014/11/20 10:10

hitomi さん

アドヴァイス、ありがとうございます。

そのように眺めてみます。

今後とも、美術鑑賞のてほどきをお願いします。

村上 好

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