エッセイの書き方のコツ(8):「互いに読み合い意見聞く」という記事2012年05月03日


前回に引き続き、朝日新聞生活面のシリーズ「詩人になる」から。
シリーズ3回目は、大阪文学学校で詩とエッセイのクラスを持つ中塚鞠子さんのお話でした。中塚さんのクラスでは、互いの作品を読み合う合評会が授業の肝だとのこと。
記事の最後には、次のように書かれていました。

  合評の一番の効用は、  
    「相手に届く言葉で書くことの大切さに気づくこと」

  と中塚さんは言う。
 「人がどう読んだのか聞くことで、独りよがりにならなくて済むんです。自分で直
    していく力がつき、1年経つと、びっくりするぐらい上手になります」

私のエッセイ教室でも、作品を持ち寄って、合評スタイルで進めています。
このブログの「エッセイの書き方のコツ(2)」では、他人の目になって読み返すことをお勧めしていますが、やはり他人の目に読んでもらえれば、それに越したことはありません。自分では気づかないさまざまな点を指摘してもらえます。
誤字、言葉遣いの間違い、文のねじれなど、表記についての指摘。
構成について、情報の過不足など、文章についての意見。
さらにはエッセイに書かれた内容についての感想……。
すると、ついつい、作品はそっちのけで、内容の話で盛り上がってしまうこともしばしば……。それもまたクラスのおまけの楽しさですね。

ただし、書き手の人生や生き方にまで踏み込まない。
書き手の価値観を否定しない。
それが鉄則です。
なにもエッセイの合評だけにとどまらない、大人同士の付き合い方の基本だといえるでしょう。

エッセイの書き方のコツ(9):合評って、すごい!2012年05月13日


去る58日、銀座のデンマーク・ザ・ロイヤルカフェで、エッセイクラスが行われました。その様子をご紹介しましょう。

5月8日 エッセイクラスin銀座

3名の方が、前もって作品を提出してくれました。
それをコピーして配り、テキストにします。

Aさんは、ブランドショップで買い物する優越感を、ユーモラスにつづりました。
すると、「わかる、わかる!」の共感の声。女性はショッピングが好きですものね。

Rさんは、高校生の息子のことを書きました。いろいろと問題の多い年頃です。
同じ高校生を持つ母親たちから、同じため息が漏れてきます。
小学生の男の子を持つお母さんからは、
「うちの子も、こんなになっちゃうのかしら……」との発言。
一同、大笑い。

Kさんは、ご自分のブログから料理教室の紹介記事を提出。
カラー写真もたくさんあり、読み終えたときには、全員が、
「おいしそう! 行ってみたいです!」

楽しく感想を述べるばかりではありません。
「ここの『相手』というのは、だれのことを指しているんですか」
「『居場所』って、抽象的な意味だと思うんですけど、どういう意味で使っているんでしょう」
読み手からの鋭い指摘です。作者本人が意図したとおりに伝わっていない。そのことに気づかせてあげるわけです。

皆で読むと、発見もあります。
「収穫した獲れたてのレモン……」って、あらら、なんだかおかしい……。
「大歓迎で迎えてくれる……」って、同じ漢字の繰り返し。
さて、どう書き換えたらいいでしょうか。

「獲る」は、動物を捕らえるときに使うので、「採りたて」のほうがいい。
さらに、「収穫したばかりのレモン」とすれば、もっとすっきりしますね。
同様に、「大喜びで迎えてくれる」「大歓迎してくれる」でいいのではないでしょうか。

いかがですか。
合評形式のクラスは、楽しくて、ためになることがおわかりになるでしょう。

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☆Rさんから、クラスの感想が届きました。

  楽しいクラスに参加させていただき、ありがとうございました。
  今日も新しい出会いがあって、とても楽しかったです。
  ひとみ先生のお人柄が吸引力になって、素敵な方々を呼ぶんだと思います。
  今日お会いした皆さんからパワーをもらったので、また明日から頑張れそうです。
  7月は何を書こうかな。

デンマーク・ザ・ロイヤルカフェの公式ブログでも、当日の様子がご覧いただけます。

☆次回のエッセイクラスin銀座の予定は、

  ★日時:2012724日(火)10101145
  ★場所:銀座三越1階 デンマーク・ザ・ロイヤルカフェ
  ★参加費:5000円(教材費・ランチ代を含む)
  ★定員は7名です。
  ★お申し込みの締め切りは、10日前の714日(土)とさせていただきます。
  ★お問い合わせ・詳細・お申込みは  hitomi3kawasaki@gmail.com まで。

あなたも、合評の輪に加わってみませんか。お待ちしています。


代官山T-SITE2012年05月15日



東京の「代官山T-SITE」へ、初めて行ってきました。
蔦谷書店、レストランやカフェ、大きな木々と散歩道のある、噂どおりの素敵な空間。その場所を借りて、エッセイの個人レッスンをしたのです。
本屋さんの庭で、揺れる新緑を眺め、さわやかな風に吹かれながら、文章のレッスン。
生徒さんも私もちょっとリッチな気分です。

それにしても、平日だというのに、お昼を過ぎても、たくさんの人たち。
若い人も、お年寄りも、子連れのお母さんも、のんびりとくつろいで時を過ごしている。五月晴れの昼下がり、あくせくと働かない贅沢を味わうように。

私の家の近くに、こんな素敵な場所があったらいいな。
私の家が、この近くにあったら、もっといいのにな……。

白昼夢を見て帰宅した一日でした。

代官山T-SITE

 ☆写真は、代官山T-SITEのサイトからお借りしました。

通信添削に温もりを2012年05月20日



もう15年近く、エッセイの通信添削を続けています。
日本各地、いえ世界中に生徒さんがいて、およそ1か月に1回のペースで作品を送ってきます。それを添削し講評を書いてお返しするのです。
エッセイを書くこと自体は孤独な作業です。近くに教室があれば、お仲間と過ごす時間は楽しく充実しているでしょうし、家族や友人に読んでもらうだけでも、励みになるでしょう。
どちらもかなわない方のために、初めての読者となってコメントを述べ、アドバイスをさせていただきます。
少しでも上達してもらえるように、一字一句、言葉を選び、心を込めているつもりです。

以前はたいてい、原稿用紙に手書きした作品がポストに届きました。
今では、メールに添付したワードファイルの原稿が主流になっています。
私も、パソコンで講評を書いたり、メールで返送したりすることが多くなりましたが、それでも、郵送するときにはあえてアナログを決め込みます。
一筆箋で手書きのお便りを添えたり、季節感のある絵柄や、旬の話題の切手などを貼ったりして、手紙ならではの温もりも一緒に伝えて楽しんでいます。

今日、郵便局のポストに出してきたのは、岡山の生徒さんの作品でした。
彼は躁うつ病の治療のため、休職中。ドクターストップがかかり、泊まりの旅行はできません。
封筒には、東京スカイツリーの記念切手を貼りました。
せめて、旅心を感じてもらえたら、と思ったのでした。


通信添削に温もりを添えて……

個人レッスンのすすめ2012年05月25日


先日515日の記事で、代官山T-SITEで個人レッスンをした話を書きました。
すると、どんな内容のレッスンをするのですか、というご質問をいただきました。

生徒さんの作品を添削して講評する、という基本的なところは、通信と変わりありません。
一番大きな違いは、作者を目の前にしていること。それはつまり、読んでいてわからない個所や、作者の意図を知りたい個所があったら、すぐに尋ねることができるという利点でもあるのです。

通信添削の場合は、作者自身の意図がわからず、どのように添削したらいいのか、悩むことがたびたびあります。
作者が言わんとしたことがAだったら、A‘のように直したい。Bだったら、B’がいい。さてどっちかしら……?

個人レッスンならば、即質問して、即解決できます。
また、そんな質問をしているなかで、
「でも先生、じつは……」と、事実は別のCだった、ということもよくあるのです。
「では、今おっしゃったそのことを書いたらいかがでしょう。読み手にも事情が伝わるようになりますよ!」

昔、ギリシャの哲学者が弟子と問答を繰り返すなかから、真実を見出したという話を聞いたことがあります。
哲学ほどではないにしても、対話する、おしゃべりする、そんな言葉のやり取りから、作者自身が自分の本心を発見していく。そのお手伝いをしているのだと思っています。

ひとりエッセイを書いている方も、クラスで楽しく続けている方も、ちょっと気分を変えて、個人レッスンはいかがでしょうか。
いつもと違う先生。いつもと違う緊張感。
新しい発見があるはずです。



☆ご興味のある方は、hitomi3kawasaki@gmail.com まで、お問い合わせください。



春のエッセイ(3)「名乗ってみたら」2012年05月29日

 

   名乗ってみたら

 かれこれ15年近く前、マンションの1階の今の住まいに引っ越してきました。
 小さな庭があって、背の高い生け垣の向こうは狭い道路、朝夕は人の流れも車の往来もある。騒音が気になるのでは、と心配だったけれど、育ち盛りの子どもが3人いるわが家こそにぎやか。窓の向こうにも人々の生活が感じられ、さあ、私も今日一日がんばろう、と元気がわいてくるのでした。

「わ、見て見て」
「きもちわるーい!」
「へんな花!」
「ケータイに撮っちゃおう」
 わが家の生け垣にからまって咲いた花を、道行く人たちが話題にしては通りすぎていきます。
 花の名はトケイソウ。
 入居と同時に、庭にはレンガを敷きつめてしまったのですが、先住者が育てていたらしく、毎年庭のあちこちから芽を出してツルを伸ばし、数年後には花をつけるようになりました。
 10枚くらいの白いガクが子どもの手のひらほどにまるく広がり、その内側に細い花びらがびっしりと浮き上がっています。遠目には白と紫の三重丸のように見えて、ちょうど時計の文字盤のよう。その中央からおしべとめしべが針のような形で立体的に突き出ていて、まさに時計のような顔つき。
 何本ものツルに、つぼみが大きい順に行儀よく並んで、毎日十ほどが花開きます。咲き始めてからは、生垣の向こうの声に耳をそばだてるのも楽しみになりました。
 それにしても「きもちわるい」では、あまりに花がかわいそう。
 そこで、ある日、道路側に名札をぶら下げてみました。

  わたしのなまえは
   トケイソウ
  どうぞよろしく!

 その日から、花はべつの言葉をかけてもらえるようになりました。
「わ、見て見て。トケイソウ、だって」
「ほんと、時計みたい!」
「おもしろーい!」
「かわいい!」
 花は、笑っているように見えました。

 今年もまた、庭の片隅でトケイソウ第1号が咲きました。
 初めて通りかかる人たちのために、今年はひさしぶりに名札を付けてみましょうか。





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