自閉症児の母として(5):保育士の皆さんに向けて2012年11月30日


日本保育協会の研修会で、障害児の母として、お話をさせていただきました。
東京・品川の会場では、東日本から参加された約300名の保育士さん、大阪・難波の会場では、西日本の200名近い保育士さんが、「障害児保育」というテーマで、私の話を聴いてくれました。

品川の会場で



障害児・者の保護者としての気持ち。そして、保育に何を望むか。
それをお伝えするのです。
さて困りました。母親の気持ちならいくらでも話せますが、長男は、3歳になる前に自閉症と診断されましたから、普通の幼稚園にも通わなかったし、むろん保育を受けたこともありません。
とはいえ、その幼児期にとても適切な療育を受けたので、それが26歳の現在でも生きている。彼がここまで確かな成長を遂げることができたのも、その療育のおかげである、と私は断言できるのです。
「三つ子の魂百まで」です。

まず、17年前にNHK教育テレビで放映された「療育の記録」という番組の一部を見てもらいました。
わが家の中にまでカメラが入って撮ることになった、長男の療育の記録です。



テレビ番組の冒頭のワンシーン。



療育施設での様子。


長男は、3歳の春に、社会福祉法人「嬉泉」という自閉症専門の療育施設に出会うことができました。スーパーバイザー石井哲夫先生が提唱し、指導する〈受容的交流方法〉は、名前は固いですが、まず子どもをあるがままに受け入れて、安心を与え、そこから少しずつ心を通わせて、指導を進めていく、という心やさしい療法です。
息子は、療育に通う4年間のうちに、自閉症特有の強いこだわりも、少しずつほぐされて、周囲の人々と関わりが持てるようになっていったのです。
親にとってみれば、ひたすら忍耐の子育てではありました。でも、気がつくと、息子は少しずつ変わっていった。旅人のマントを脱がせたのは激しい北風ではなく、暖かいお日さまだったように。

そこでは、親もたくさんのことを学びました。専門家の先生の指導は、温かい言葉の一つ一つが、自閉症児の親となった私の心にしみました。
信頼のおける指導であり、支えであり、癒しでもありました。

その後、地元の小学校の普通学級に通学。卒業後は、中高一貫の養護学校に進み、やがて、社会に出て働くようになりました。
自閉症の息子が社会のなかで生きるには、たくさんの困難を乗り越えなければなりません。そんなときでも、今なお幼児期の療育が生きています。我慢すること、周囲の人たちとコミュニケーションをとること……、どれも療育を通して芽ばえた彼なりの成長です。
今では親もすっかり対処の方法が身について、「大変なことは何ですか」と聞かれても、「さあ……」考え込むほどになりました。彼のこだわりを理解して、社会と折り合いをつける方法を、自然に思いつくようになっているのです。

最後に、現在の長男が、障害者雇用の喫茶室で働く様子を見てもらいました。
「自閉症を知ってください」という、2年前の政府インターネットテレビの番組です。

一時は、「モトさんに就労は無理ですね」と太鼓判を押されてしまったこともありましたが、今では喫茶室の店員として、自分の役割を立派にこなし、さらに指図されなくとも自分からやるべきことを見つけて働いています。
そんな様子を見るにつけ、人としての息子のプライドを感じます。

保育士の皆さん、まずは親御さんの気持ちに沿ってあげてください。そこから、信頼関係が生まれてくるはずです。そして、一緒になって子どもの理解に努め、かわいがり、育てていってください。
たしかに理想ではあるけれど、現実は難しい。――そんな声も聞こえてきそうですが、息子はそういう先生方が療育してくれたのだと思っています。

講演は、映像も含めて1時間ほど。
なかなかすべてをお話しすることは無理でしたが、たくさんのエピソードは私の本の中に書かれています、とお勧めしました。
両会場で、多くの方に買っていただきました。
この研修会のご縁に感謝、そして、お読みいただくご縁にも感謝です。



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