追悼 小川陽子さん2013年12月19日

小川陽子さんが73歳という若さで急逝されました。
中村獅童さんのお母さんです。

30
年近く前のこと、私が通うエッセイ教室に後から入ってこられて、一緒に勉強していた時期がありました。
色白の日本的な顔立ちで、背も高く、和服姿が板についている。気さくなおしゃべりがとても楽しい明るい方でした。
書くのは初めてだったのか、はじめはあまり文章がお上手とはいえませんでした。それでも、習うことをどんどん吸収し、めきめき上達。あっという間に梨園のエッセイストとして、執筆の依頼が来るようになった、と聞きます。
なんといっても、書く内容の面白さ、そして彼女の洗練された感性が、読ませるエッセイを生み出していったのでしょう。
ほどなく、小川さんは教室を去り、会うことはありませんでした。

歌舞伎には疎く、興味も持てない私でしたが、その後、獅童さんが俳優として頭角を現してきました。
まあ、お母さんにそっくり、と思ったものです。

そして、今年の春のこと。
友人宅を訪ねて、都内の方南町駅に降り立ちました。友人の案内で駅から住宅街のなかを歩いていくと、「よろずや塾」という看板を出している落ち着いた雰囲気の和風の家がありました。
「獅童さんのお母さんのおうちよ。書道とかお花とか教えているらしいの」
堂々とした門は開き、手入れの行き届いた植木などが置かれ、おとなしそうな猫が佇んでいます。玄関の戸も開いています。ひっそりと静まり返っていますが、おけいこの最中でしょうか。
もう何年もお会いしていないけれど、お懐かしい……。私のこと、覚えていてくれるかしら。
よほど、立ち寄ってみようか、と迷いました。
でも、急だからこの次に、手みやげでも持って、と思いとどまりました。

訃報を知り、悔やまれてなりません。
あの時、ごめんください、と訪ねればよかった。
「心配なさっていた息子さん、立派になられましたね」とお伝えしたかった。
再会が果たせなかったことに、さいなまれています。

人生なんて、いつどうなるかわからない。今日できることは明日に延ばさないで、できるときに何でもやっておかないと。
わかっているはずだったのに。
でも、こうやって、また取り返しのつかない失敗をしてしまう……

どこかで、うりざね顔の小川さんが、にこにことうなずいてくれているような気がします。
ご冥福をお祈りいたします。


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