旅のフォトエッセイ:Vacance en France 3 モンマルトルの丘であの人と出会う! ― 2014年07月31日
○
○
パリで一番高い場所といえば、モンマルトルの丘。ここは外せない名所だ。
ここから見下ろすパリの街を、娘にも見せたい。
新婚旅行で訪ねたかどうかはまったく記憶にないのだが、まだ独身のころ、ここへ来た忘れられない思い出がある。
○
それは、私が25歳になったばかりの、クリスマスを過ぎたころのことだった。
人通りもまばらになった夜のモンマルトルの街を、スイス人の友達マリスとふたりで歩いていた。
マリスは、ロンドンで同じ家庭にホームステイをして、同じ英語学校に通った仲良しだ。年は一つ下だけれど、何もかもお姉さんのようだった。秋学期が終わり、クリスマスはスイス・ベルン郊外のマリスの実家に招かれ、その後、二人でパリにやって来た。
この日、モンマルトルに住んでいるという彼女の友人に電話をしてみると、今夜はパーティをするから遊びにおいでよと言われた。
高級住宅街にある彼のアパルトマンには、たくさんの友達が集まっていて、パーティが始まっていた。とつぜんの訪問者も歓迎されて、仲間に加えてもらう。
ちょうど、ケーキを切り分けるところだ。ケーキといっても、殺風景な丸い焼き菓子。でも、この中に小さなマリア像が一つだけ入れてあり、それをゲットした人が今晩の主役になれる、という楽しい仕掛けがある。残念ながら、私の食べた中には入っていなかったけれど、それを手に入れた人は紙で作った王冠をかぶり、うれしそうに威張って見せた。
隣の部屋にも、別のグループがいた。
「あちらは、ハッシッシよ」とマリスが小声で教えてくれた。最後まで、こちらの部屋と交わることはなかった。
○
○
そして、今、あの日の私と同じ年齢になった娘を連れて訪ねてきた。
まず、メトロをアベス駅で下車。改札を出てから、のぼりの螺旋階段がぐるぐるぐると続く。やれやれ……と思ってふと見ると、この階段の壁が楽しい。次々と絵が変わっていく。
いかにもパリだわ……と感心している間に、つらさも感じないで(いやちょっとだけ感じながら)出口に到達できる仕組みになっているのだ。
○
階段を上りきると、アベス広場に出る。
さてどちらに向かうのでしょうねぇ、ときょろきょろしていたら、向こうからやって来る女性に目が留まった。
中山美穂さんだ!
黒髪で長めのボブスタイル。大きなサングラス。特徴のある口もと。細身の体。地味なモノクロファッションだが、一瞬でわかった。
パリに住んでいるという彼女が、最近日本のマスコミでも何かと騒がれている。日本人の観光客なんて、一番関わりたくないのだろう。そそくさとメトロの階段を降りていってしまった。
ミーハーの私がかろうじて撮った1枚。
アベス広場の向かいには、「ジュテームの壁」がある。
落書きではなくて、ちゃんとした現代アートだという。250の言語で書かれた、愛の告白の言葉。
○
サン・ジャン・ド・モンマルトル教会。
エッフェル塔が作られたのと同じ時期に、鉄筋コンクリートで作られた珍しい教会だ。神聖な空間というより、どこか少女趣味的なかわいらしさのある建物。いかにもパリらしいと言えなくもない……?
○
○
娘の地図を頼りに、丘の頂上を目指す。
坂道があり、階段があり、おっと、登山電車まであった。その名もフニクレール。
○
○
○
○
○
駅から、15分ぐらいてくてくと登ってきたろうか。
ようやく、サクレクール寺院の前の広場に出た。
○
○
なんだかたくさんの人で、にぎわっている。
空に人がいる! 街灯に登って曲芸をやっている。
よく見ると、サッカーボールまで足で動かしているのだ。空中ドリブル!?
○
○
パリを見下ろす階段にも、サクレクール寺院にも、観光客がいっぱい。もちろん、お祈りのために来た人も。
内部のモザイクは20世紀に入って完成したという。
新しいキリスト像は、ちょっとハンサム過ぎ……。
学生のころ、ここを訪れてパリの街を見下ろした覚えが、確かにある。そのときの記憶の眺望には、エッフェル塔があった。
が、それはどこからも見えなかった。
かすんだ記憶は、夢の中の景色だったのか、絵の中の景色だったのか……。
「わあ、すごい!」
と喜ぶ娘の横で、自分の記憶の不確かさに、茫然としていた。
〈続く〉