エッセイの書き方のコツ(23):どきどき・ドキドキ2014年11月09日


先日、添削講師の勉強会を主催しました。

そのなかで、こんな発言がありました。

「擬音語はかたかなで、擬態語はひらがなで書く。その原則どおりに直したほうがいいのでしょうか」

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音や声をまねてできた言葉、例えばゴロゴロ、ワンワンのような擬音語はかたかなで書き、様子を表す言葉、例えばふらふら、にやにやのような擬態語はひらがなで書く。――日本語の現代表記には、そのような原則が定められています。

でも、これは戦後に定められた「現代かなづかい」の流れのなかで決められてきたルールです。生涯学習としてエッセイを楽しむ方々の中には、戦前の教育を受けたご年配も大勢いて、なじむのは難しいのかもしれませんね。

そこで、上のような添削講師の悩みが起きてくるのでしょう。

 

私が添削をさせてもらっている受講者のなかにも70代・80代が多く、さらには90代の方もおいでです。

私なら「ちょっと出かける」と書くところを、「チョット出掛ける」、さらには「一寸出掛ける」と書かれる方もいます。私にはどう転んでも、「一寸」は一寸法師の一寸で、いっすんとしか読めないのですが。

 

世代を超えた言葉の問題もあります。

例えば、いよいよこれからステージに立つ。こんなとき、緊張した自分の体の状態をどんなふうに表現しますか。

――手はぶるぶる震えて、足もがくがく、胸はどきどき……。

では、そのステージが終わった安堵感をどんなふうに書きますか。

――ほっとしました。

「どきどき」は、擬態語としてひらがなで書きますか。でも、もとはといえば鼓動の音から生まれた言葉ではないでしょうか。実際に、口から心臓が飛び出しそうなときにはドキドキという心音が聞こえたりしませんか。

「ほっと」も、広辞苑を見ると、

「一回息を吐くさま。緊張が解けて、安心したり心が休まったりするさま」と出ています。つまり、ため息の音から派生した言葉のようです。ではかたかなで書きましょうか。

私はといえば、どちらもひらがなで書くことのほうが多いです。とくに、ほっとしたときには、「ホッとした」と書くよりも、その時の安らかになれた心持ちを字面からも表しているような気がします。

この字面から発する印象もあなどれない、と私は思っています。

ひらがなにするか、かたかなにするか。原則で割り切れない言葉もたくさんあるのです。

 

もう一つ、星が光るさまは、どうでしょう。

きらきら、ちかちか。

でも、キラキラ星のように、かたかなのほうが見慣れている気もしますね。

ちかごろのアニメでは、一瞬きらめくときに、ごていねいに「キラリン!」という効果音が入ったりします。そんな影響もあるかもしれません。

 

原則を踏まえたうえで、このエッセイの中ではどう書くのがいちばんふさわしいのか、あえてこだわってみるというのも大切ですね。

 

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冒頭の質問には、そんな例をいろいろと話し合った後、

「原則はきちんとお伝えしましょう。そのうえで、受講者の年齢、作品の雰囲気などを考慮しつつ、臨機応変に対応していきましょう」というコメントを述べました。

 

だらだらと書いてしまいました。最後まで読んでくださってありがとうございます。

これも、「ダラダラと書いてしまいました」とすると、くだけた感じになりますね……

 





コメント

_ 村上 好 ― 2014/11/09 18:29

hitomi 先生

文章、エッセイを書くうえでとても大切なことを分かりやすく解説していただき、ありがとうございます。

<字面から発する印象もあなどれない>

ほんとうにその通りだと思います。エッセイは「読むもの」であると同時に「見る」ものでもあるように感じます。
適度の段落がつけられていたり、会話文が地の文の中に埋め込まれているのではなく、改行・独立して書かれたりしていると、見やすく、読みやすく、分かりやすいと感じます。文章のメリハリも感じられます。

勉強になりました。
ありがとうございます。

村上 好

_ hitomi ― 2014/11/10 18:33

村上さん、
具体例を挙げればきりがないですし、抽象論だけでも面白くないですね。
続きは教室の皆さんの作品で……というところでしょうか。

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