自閉症児の母として(22):続・東田直樹さんのこと2014年11月25日

東田直樹さんが紹介された番組、ご覧いただけましたか。


 

彼は、重度の自閉症で、言葉による会話はできないのに、子どものときから文字盤を使う方法を取り、思っていることを表現できるようになっていったそうです。

もちろん、ご家族の深い愛情と努力も大きかったにちがいありません。

重度の自閉症でありながら、言葉を操って文章をつづる。豊かな文学的な表現力をもち、詩作や小説も手がけている。そのことはもちろんすばらしい。世界でも本当に稀有な能力だそうです。

さらに、私が奇跡だと感じるのは、自閉症なのに、健常者の目を持っているということ。つまり、自閉症の自分自身を、客観的に表現できる。健常者からどう見えるか、どう違っているのかを、理解しているところです。

 

まるで彼の中には、言葉が話せない重度の自閉症者と、細やかな感情と豊かな表現力を持つ健常者と、二つの魂が肩を寄せ合っているかのよう。いえ、ときにせめぎ合っているのかもしれません。

神様が、世界中の自閉症の家族のために、授けてくれた才能。彼は神様から私たちへのギフトのように思えてきます。

 

東田さんの本を英訳したミッチェル氏も、彼のことを「ヒーロー」だと言いました。彼にも重度の自閉症の息子さんがいます。

番組に登場した海外の自閉症児を抱えるたくさんの家族も、彼の本を読んで自閉症の心の中を知ることができて、とても救われました。

そして、彼自身が自分の能力と役割をよくわかっていて、それを喜びと感じている。それもまた、本当にすばらしいと思います。

 

でも、ちょっと心配でもあります。

彼が、マスコミに取り上げられて、もてはやされて、疲れてしまわないだろうかと……。

彼自身が望むように、これからもひとりの作家として平和に暮らしていけるように、願わずにはいられません。







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