800字エッセイ:「別世界を訪ねて」 ― 2015年02月23日
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お待たせいたしました。
前回ご紹介した課題で書いたエッセイをお読みください。
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別世界を訪ねて
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重い扉を開けると、中は暗かった。一歩また一歩と、ゆっくりと通路を進む。空間が開けても、靄がかかっていて、なお暗い。
暗闇に目が慣れてくると、昔懐かしい古井戸が見えた。その小さな広場を、壊れかかった二階建ての木造家屋が取り囲んでいる。
突然、背後で男性の大声が聞こえた。私の横を走り抜けて広場へ向かう。
やがて、黒ずくめの服をまとった細身の男性の独白が始まる。苦しみに顔をゆがめ、ときに涙しては悲嘆にくれている。
「生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ」
彼の口から、あまりにも有名なセリフがこぼれ出す。
2月のある日、自宅から1時間半かけて、さいたま芸術劇場にたどり着いた。舞台は蜷川幸雄演出のシェイクスピア作『ハムレット』。タイトルロールは藤原竜也だ。10年前に華々しくデビューしたのも、同じ蜷川ハムレットだった。今回、精魂込めての再演を、私は初鑑賞。彼は、一見ナイーブな美少年のイメージだが、低い声の響きも、迫力ある剣術試合の立ち回りも、じつに男性的である。
この芝居を引き締めているのは何といっても平幹二朗だ。ハムレットの父を殺してデンマーク王の座についたクローディアスと、殺された元王の亡霊との二役で、大物俳優の貫録が十二分に発揮される。その一方で、井戸の水を汲んで頭からかぶるシーンでは、80歳を過ぎた裸体を観客の目にさらすことも惜しまない。役者魂に脱帽である。
みずからの配役になりきって、よどみなくセリフを語る演者たち。人物が入り乱れるさまをスローモーションでやって見せたり、役者がお内裏様や三人官女に扮した巨大な雛壇が出現したり……と、意表を突く演出の数かず。日常を忘れ、まさしく生で創り出された別世界に引き込まれて堪能しつくした3時間半だった。
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この芝居を観に行ったのは、「扉を開けると」という課題が出てから10日目のこと。とても感動しました。課題で書けないかと思ったとき、観客席の扉が頭に浮かんだのです。
あとは、思いつくままに書き、それから毎日、時間を空けては推敲していきました。何しろ3時間半の演劇を800字に収めるのですから、かなり周到な取捨選択が必要になります。
出だしは、扉の中に入り込んだ雰囲気をミステリアスに。別世界の種明かしをした後は、できるだけ具体的な解説を。そして、最後はその別世界らしさを強調して幕を引く……。
さて、皆さんはこの芝居を観てみたいと思われたでしょうか。そう思っていただけたら、このエッセイはひとまず成功したと言えるでしょう。
ちなみに、本日のコンテストで、22作品中の第2位に選ばれました。
コメント
_ kattupa ― 2015/02/24 09:14
_ hitomi ― 2015/02/24 10:46
課題には引きずられないように、手元に引き寄せて、自分で料理するくらいのほうが、うまくいくようですよ。
_ SACHI ― 2015/02/24 14:42
_ hitomi ― 2015/02/24 15:07
軌跡と言われても、ただただ、800字の作品としての体裁を整えるためには、どこを削り、どんな言葉を足したらいいか。何回も他人の目で読み返し、客観的な視点で、手直しを進めて行っただけです。
たとえば、初めはオフィーリアを演じた女優のことも書いたのです。でも、それは別世界の要素とは言えないと思ったので、バッサリ切りました。
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課題に導かれた作品ですね。私は日頃、課題に引きずられて、
まとまりのない結果になっています。これを機会に反省しましょう。