原田マハ著『暗幕のゲルニカ』を読んで2016年06月21日


原田さんにはぜひ直木賞をとってほしい。

『楽園のカンヴァス』以来、ずっとそう思ってきました。

今年こそはと、その新作に期待して、分厚い単行本を買い込んで読んでみました。

それが『暗幕のゲルニカ』です。




ピカソの大作〈ゲルニカ〉をめぐる史実に基づいたフィクションで、構想はとてもおもしろい。1937年にゲルニカの街を破壊したスペイン内戦と、2001年の米国同時多発テロから始まったイラク戦争への流れとが、二重構造となって、話が展開していきます。

そのどちらにも〈ゲルニカ〉が重要な反戦のシンボルとして存在するのですが……。

 

結論から言うと、残念ながら、今回もだめかも……。

およそ700枚を超える大作だというのに、その迫力が感じられない。人物たちの愛憎劇や情緒的なくだりは丁寧だし、史実の説明なども噛み砕いてあってわかりやすいのだけれど、全体的に繰り返しが多く、冗漫。まるで上等なフレンチローストのコーヒーを、ぬるま湯で薄めてしまった感じです。この半分の長さで書き上げたらよかったのに、もったいないことをしたのでは、と思わずにはいられませんでした。

『キネマの神様』は、スピード感にあふれ、人物のキャラもはっきりと描かれた最高のエンターテイメントでした。彼女にはこんな作風もあるのだと、才能を高く買ったのです。その直後に読んだだけに、ちょっとがっかり。

おそらくは、今度こそ『ゲルニカ』で大賞をとるべく、力が入りすぎたのかもしれませんね。「手に汗握るアートサスペンス!」とうたう広告の言葉が、むなしく見えました。

 

期待外れで読み終えた翌日、第155回直木賞候補作6点が発表されました。

本作も入っていたので、とりあえずは複雑な喜びを味わっています。

もし、素人の私の勘違いもはなはだしく、本作が受賞したとしても、それはこの作品だけに与えられたのではなく、『楽園のカンヴァス』などなど、これまでの著書すべてを賞したものということになるのでしょう。

と、逃げ道を作って、やはり私の期待外れが外れることを祈っています。

 

ご参考までに、今回の候補作は次のとおりです。 

 

 ① 伊東 潤著『天下人の茶』

 ② 萩原 浩著『海の見える理髪店』

 ③ 門井 慶喜著『家康、江戸を建てる』

 ④ 原田 マハ著『暗幕のゲルニカ』

 ⑤ 湊 かなえ著『ポイズンドーター・ホーリーマザー』

 ⑥ 米澤 穂信著『真実の10メートル手前』

 

昨年秋に、【西暦2000年以降の直木賞受賞作を読破する】という目標を達成したので、今年1月には新たに、【直木賞受賞作を発表以前に読む】を掲げました。719日には発表になりますから、目星を付けて読まないと時間がないのです。

④が期待できないとなると、やはり女性がんばれ!で⑤を次に読んでみたいと思います。






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