おススメの本、荻原 浩著『海の見える理髪店』 ― 2016年08月05日
最新の直木賞受賞作、さっそく読んでみました。
6編の小説を収めた短編集で、「海の見える理髪店」は、冒頭の1編のタイトルです。

この本に出てくるのは、世の中の隅っこで生きているような、小さな不幸せを背負った人たち。
例えば、両親が離婚して、母親と二人でつれない親戚の家に身を寄せている少女や、知的障害を持ち、父親に虐待されている少年。娘を交通事故で失った両親。殺人の前科がある老人。一人暮らしをする認知症の老婦人……。
どの小説も、それぞれ違った切り口、違った筆致でつづられているのに、共通して感じられるのは、彼らがどこかで不幸を素直に受け入れていること。悲壮感もなく、淡々と暮らしている。ああ、生きることなんて難しく考えなくていいんだ……。そんな気持ちにさせてくれる小説ばかりです。
冒頭の「海の見える理髪店」だけ、ちょっとご紹介しておきましょう。
舞台は、さびれた場所に建つ理髪店。
登場するのは、その老いた店主と、わざわざ店を訪ねてやって来た男性客の二人だけ。店主の問わず語りのようなセリフと、客が観察する描写とが、交互につづられて、物語は進行します。
すごいのは、理髪業という仕事の細やかな描写。女性の美容院とはどこか異なる男の世界のようで、新鮮な驚きでした。
そして、話は鳥肌の立つような結末に向かっていくのです。
静かな感動が、いつまでも消えません。
おススメの一冊です。
