エッセイの書き方のコツ(30):初めての花が咲いたとき ― 2016年09月19日
先日、植物園でアルバイトをしている夫が、「欲しかった花がようやく手に入った」と、小さな鉢をうれしそうに抱えて帰ってきました。
たくさんの葉をつけた30センチほどの茎が、ひょろりと伸びています。なんでも、ハイビスカスの一種で、じつにかわいらしい花が咲くのだとか。どんな花かと尋ねても、まあ咲くまでのお楽しみ、と言うだけでした。
その数日後、茎の先端、葉の間から花柄が伸びて、白っぽく細長いつぼみがぶらさがっていました。枯れてしまうのではと思うほど、頼りない糸のような細さで、下を向いています。
翌朝起きて見ると、出窓の白いカーテンを背景に、花は咲いていました。
わあ、きれい、線香花火みたい! まず、そう思いました。
薄紅色の花びらは、まるでレース編みのフリルように繊細で、四方に反り返っている姿は、一瞬の火花のようです。しかも花は下を向き、小さな赤い舌を垂らすように、しべが伸びています。
大きさは、子どものこぶしほどでしょうか。それでも、あの柿の種ほどのつぼみが、一晩でこんなにみごとな花になるのです。
ため息が出るようでした。
……と、ここまで読んで、どんな花か想像していただけたでしょうか。
よくわからないかもしれませんね。
では、写真をお見せしましょう。


いかがですか。
やっぱり、百聞は一見にしかず、ですね。どんなに詳しく描写したところで、文章は写真ほど正確に伝えることはできないかもしれません。
だからこそ、その時に感じたこと、心でとらえたものをつづってみるのです。
写真には写らないものを自分の感覚でとらえ、自分の言葉で伝えることこそ、エッセイの本領といえるのではないでしょうか。
ちなみに、この花の名前は、フウリンブッソウゲというそうです。
なにやら物騒な名前ですが、漢字で書くと、風鈴仏桑華。風鈴に似ているということから付いた名前のようですね。
やはり風鈴でしょうか。線香花火に見えませんか。
翌日にはぽとりと落ちて、はかない命を終えてしまったところも、似ているような気がしました。
