ダイアリーエッセイ:再会2017年05月01日


去年の夏のこと、多摩川の花火大会を近所の高台で見物しようと、住宅街を歩いていたら、自宅から5分の所に新しいお店を見つけた。

Café Lotus。夜だから明るい照明の店内がよく見える。カウンターの中で働くエプロン姿の男性に、見覚えがあった。いつか訪ねてみよう、と思った。

 

それから半年が過ぎた。

最近、ウォーキングを始めて、この店の前をよく通るようになった。通りすがりに見る彼は、いつもかいがいしく働いている。ほぼ間違いない。今度長男と二人で食べに来よう。

 

ゴールデンウィークの2日目。夫は連休というと出勤が多く、今日も長男とふたりで留守番だ。お昼にあの店に行ってみることにした。

真っ青な空の下、日差しが惜しげもなく降り注ぐ。新緑が風に揺れ、家々の生垣には花々が咲き誇っている。

 


そして、カフェ・ロータス。緑色の屋根がさわやかだ。




店内は天井のない造りで、テラスにもテーブルがあり、広々とした空間だ。カウンターの向こうに彼がいた。




メニューを持ってきてくれた時に、思い切って聞いてみた。

「失礼ですけど、新作小学校の卒業生ですよね……?」

すかさず答えが返る。

「そうです。石渡さんですよね」

まあ、よく覚えていてくださって!

私は彼の名が思い出せなかったのだが、岡本です、と名乗ってくれた。

岡本君は、長男の小学校の同級生だったのである。同じクラスには一度もならなかった、と彼は言うのだが、それでも学年2クラスしかなかったから、ほぼ同級生のようなものだろう。

自閉症の息子は、入学のときに特殊学級(現在は特別支援学級と呼ぶ)に入るよう勧められた。それでも、ぜひ1年でも2年でも健常児のなかで過ごさせたいという親の思いから、普通学級に受け入れてもらった。学年の誰もが知る「変わった子、特別扱いの子」だったのである。

 

私が彼のことをよく覚えているのは、忘れられない小さな思い出があるからだ。

まだ、低学年の頃だった。私は、息子の送り迎えをしたり、保護者会の係をしたりと、何かと学校に出向くことが多かった。息子が学校で問題を起こしていないだろうかと、いつも心配な日々だった。

そんなある時、彼が私のそばに来て言った。

「あの、おばさん、モト君お大事に……」

息子の障害を、病気と同じように解釈していたのだろう。

思いがけない彼の言葉が、胸に沁みた。子どもはなんと純粋でやさしい心を持っているのだろう、そう思った。ふっと緊張がほぐれた。

岡本君、あの時は本当にありがとう。おばさんはとてもうれしかったです。

 

息子は就学猶予で1年遅れて入学した。だから、1つ年下の岡本君は、今年30歳になるはずだ。この土地に店を構えて2年が過ぎたという。若くても、りっぱなマスターである。

今でも、笑うと白い歯がきれいで、あの頃と同じやさしい笑顔だった。



小学校卒業から18年ぶりの再会だった。

地元に根を下ろして生きる若者を、これからも応援していきたい。

また、家族や友達をたくさん連れて来るからね。




コメント

_ 直ちゃん ― 2017/05/02 21:42

すてきなお話をありがとうございます。映画をみてるような、小説を読んでるような気分になりました。すばらしい繋がりができましたね。たくさんの良い出会いが訪れることでしょう

_ hitomi ― 2017/05/02 22:20

〈直ちゃん〉さん、
こちらこそ、すてきなコメントをありがとうございます!
この連休は、何も予定がなくて、つまらないな~と思っていたら、こんなにハッピーな出会いがありました。

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