映画『シェイプ・オブ・ウォーター』を観て2018年03月06日



今日は、本当は美術展に行くつもりでした。会期終了間近になると混んでくるから、一日も早く観に行かなくてはと思っていたところに、ひょいと空いたスケジュール。午前中にいそいそと出かけました。

が、見事に定休日のシャッターに阻止されたのでした。

 

そこで向かったのは、映画館。アカデミー賞に輝いたばかりの『シェイプ・オブ・ウォーター』を観てきました。



「美女と野獣」のようなラブストーリーです。口の利けない障害を持った孤独な女性と、エラとウロコに覆われた両生類のような不思議な生物との恋。

それはそれで、ファンタスティックでロマンティックでユーモラスです。

 

でも、舞台は米ソが冷戦状態だったころのアメリカの秘密研究施設。そこにはソ連のスパイが潜んでいた。生物をめぐって両国の対立が起こり、スパイと言えば生きるか死ぬかのバイオレンスが繰り広げられるのがお決まりのようです。

どんな映画でも暴力シーンが苦手な私は、何度客席から飛び上がったことか。

 

R15指定です。年齢的には十分すぎるほどなんですけど……。映画の余韻に浸るよりも、暴力シーンのショックから立ち直るのに、時間がかかりました。

この映画に、これほどの暴力シーンが、本当に必要でしょうか。

二人の愛の純粋さを際立たせるためにも、愚かな人間の血なまぐさいシーンが必要なのでしょうか。

 

ただ一つ印象に残ったのは、彼女が〈彼〉のことを手話で表現したこの言葉です。

「不完全な私じゃなく、ありのままの私を見てくれる」

愛の本質を言い得ているではありませんか。

そして、愛する〈彼〉のために、身の危険をかえりみず、〈彼〉を逃がそうと手を尽くします。

「何もしないなら、私たちも人間じゃないわ」



ご興味のある方は、映画のサイトで予告編をどうぞ。



映画『修道士は沈黙する』を観て2018年03月21日



イタリア人の監督が、カトリック神父を主人公にした映画を作りました。それも極上の社会派ミステリーと聞くと、ぜひとも観たくなります。

原題を直訳すれば、「告解」。カトリック信徒が、司祭を通して自らの罪を明かし、神の許しを得る行為のこと。司祭には守秘義務があります。そこで「沈黙する」というわけです。




 

舞台はドイツ北部の海沿いに建つ高級リゾートホテル。表向きは国際通貨基金のロシェ専務理事の誕生日パ-ティという名目で、8ヵ国の財務大臣が集まります。そこで秘密会議が開かれることになっているらしい。

なぜかそこに招かれてやって来たのが、サルス神父。世界中のマネーを手玉に取っているような現代人の中でひとり、まるで中世の修道院から抜け出たような白い生成りの衣装で現れます。

その夜、ロシェは彼に告解をしてほしいと頼みます。

 

そして翌朝、ロシェの死体が自室で発見されました。それも、ビニール袋を頭からかぶった姿で。

自殺か、他殺か。ホテルに足止めされた人々の攻防が始まります。

「何か機密情報を知っているのだろう」と、問い詰められても、神父は表情一つ変えずに、沈黙を守ります。

 

抑制された美しい映像と、静かなピアノの音色とともに、ミステリーは進展します。金の亡者になった人々と、修道士との対比を感じさせながら。

酒をあおり、薬を飲み、プールで泳ぐ権力者たち。

鳥の声に耳を傾け、海で泳ぎ、犬に慕われる修道士。

やがて、エコノミストたちの秘密の企みも、ロシェの告解の内容も、少しずつ明らかになって……。

 

奇跡のようなファンタスティックなシーンもありながら、その一方では、リーマンショックやギリシャの経済的破綻といった言葉が取りざたされたり、巨額の資産を預けたときの暗証番号を忘れた認知症の老人が一役買ったりしている。社会的なリアリティもあり、どこか皮肉でユーモラスでもあるのです。

また、サルスは一見無垢な修道士のようでも、実は数学者として著書もある知的な神父。その微妙な役をひょうひょうと演じるトニ・セルヴィッロという俳優がすばらしい。

上質な映画だと思いました。

 

ぜひ、ご覧になってはいかがでしょうか。おススメです。



映画「修道士は沈黙する」公式サイトはこちらです


 

 


旅のフォトエッセイPortugal 2018(5)コインブラへ~前編~2018年03月22日




コインブラには、ヨーロッパでも屈指の古い歴史を持つコインブラ大学がある。ポルト滞在の2日目にはそこを訪ねることにしていた。長距離バスで1時間半ほど。バスターミナルの場所も地図で調べた。

シャンパン付きのおいしい朝食をたっぷり取り、快晴の空を見上げながら、気分よく出かけていった。

ところが、歩いて5分ほどの距離にあるはずのバスターミナルが見当たらない。ようやく奥まったところにバスの発着所があって、ほっとする。

「看板の一つも出しておけばいいのに」と、一言文句が出た。

 

止まっていたバスの運転手に、コインブラ行きのバスに乗りたいのだけど、と尋ねると、ない、と言う。どうやら廃止になったらしい。

前日のワイナリー見学にしても、バス路線にしても、日本のガイドブックはあてにならないということだろうか。まして、シーズンオフの観光客は、現地の観光案内所を訪ねるべきなのかもしれない。

さて困った、どうしようか。

運転手の男性は、ポルトガル語で何か説明してくれている。彼は伝わるようにと、2度、3度繰り返した。すると、地図を見ながら聞いているうちに、彼の言うことがすべて理解できたのだ。

「この道をまっすぐに行けば、地下鉄のカンポ・ヴィンテクワトロ・デ・アゴスト駅がある。そこから二つ目のカンパニャン駅まで乗って、カンパニャン駅からコインブラまで電車で行きなさい。1時間で着く」

ツアーだったら、バスの廃止もあり得ないし、雪で遅れるフライトに肝を冷やすこともないのだろう。そのかわり、こんなふうに言葉も通じない現地の人の親切に救われる、小さな感動のハプニングもないのだ。

「サンキュー! オブリガーダ!」

私たちも何度も繰り返して、地下鉄の駅に向かった。

 

▼そうして、たどり着いたコインブラの駅舎。(午後3時、大学からの帰りに撮った写真)


モンデゴ川に沿って歩くと、ポルタジェン広場に出る。▲


コインブラ大学は小高い丘の上にある。ここから、石畳の坂道をいくつも登っていく。賑やかな商店街を避けて、あえて住宅街を抜ける近道を選んだ。








 

コインブラ大学に到着。これは旧大学。世界文化遺産にもなっている。




ジョアン3世の像。

ここに初めて大学がおかれたのは13世紀初め。その後も、リスボンに移ったり戻ったりしたが、16世紀、時の王ジョアン3世が改めてここに礎を築き、現代にいたっているという。


時計塔。定時には鐘が鳴り響く。▼



鉄の門。かつては鉄の扉がついていた。中庭側から見る。

この向こうに、新大学の現代的なビルが並ぶ。現役の大学としてもポルトガル随一の名門である。

外側から見ると、こちら。つまりここが入り口となっている。当時の王の像や学問にかかわる女神像が飾られている。▼



大学内のサン・ミゲル礼拝堂は、17世紀から18世紀にかけて美しい内装が施されたという。天井も壁も、オルガンさえも、きらびやかな金泥細工と鮮やかなアズレージョ(タイル模様)に目がくらむ。▼






学位授与などに使われた帽子の間。もとは宮廷の広間だったそうで、装飾も施されているが、修復中で内部には入れなかった。▼





 

モンデゴ川の悠久の流れ。

赤茶色の屋根に降り注ぐ暖かな陽光。

穏やかな空気。

心地よく解放感に満たされていく。


                   〈次回に続く〉

 

 




旅のフォトエッセイPortugal 2018(6)コインブラへ~後編~2018年03月30日




▲この立派な建物の内部が、ジョアニア図書館になっている。18世紀初頭に造られたという。

以前にも紹介した内部の様子。(絵葉書です)▼


 

ところで、前回も書いたが、ハリー・ポッターの著者J.K.ローリングは、おそらくここコインブラにも訪れているに違いない。

ゴージャスな図書館のインテリアも、学生たちが今なお身につけている黒いマントも、ハリー・ポッターを彷彿とさせる。旧大学にはほとんど学生がいないので、一人だけ黒マントを見かけたが、写真は撮り損ねた。

 

大学のバルコニーから見下ろすと、茶色い旧カテドラルが見える。大学を出て、そちらに向かった。▼



 ▲旧カテドラルの正面。12世紀建立のロマネスク様式。

回廊も残されている。▼



 


歩き続けていたので、さすがにおなかが空いて、カテドラルの前のカフェで一休み。サングリアとエッグタルトのランチ。おいしい。



 

電車の時間もあるので、ふたたび、石畳の坂道を下りていく。

深い時を刻んだ家々のたたずまいに魅了される。




 キリストの画像のアズレージョ。▲


こちらの玄関は、聖アントニオの画像。▼




このお菓子の家のような建物が、銀行とは!▲

わが家の近くにあったら、毎日お金を預けに通ってしまいそう。




   〈次回は、食べて飲んでのお話です〉


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