映画『修道士は沈黙する』を観て ― 2018年03月21日
イタリア人の監督が、カトリック神父を主人公にした映画を作りました。それも極上の社会派ミステリーと聞くと、ぜひとも観たくなります。
原題を直訳すれば、「告解」。カトリック信徒が、司祭を通して自らの罪を明かし、神の許しを得る行為のこと。司祭には守秘義務があります。そこで「沈黙する」というわけです。

舞台はドイツ北部の海沿いに建つ高級リゾートホテル。表向きは国際通貨基金のロシェ専務理事の誕生日パ-ティという名目で、8ヵ国の財務大臣が集まります。そこで秘密会議が開かれることになっているらしい。
なぜかそこに招かれてやって来たのが、サルス神父。世界中のマネーを手玉に取っているような現代人の中でひとり、まるで中世の修道院から抜け出たような白い生成りの衣装で現れます。
その夜、ロシェは彼に告解をしてほしいと頼みます。
そして翌朝、ロシェの死体が自室で発見されました。それも、ビニール袋を頭からかぶった姿で。
自殺か、他殺か。ホテルに足止めされた人々の攻防が始まります。
「何か機密情報を知っているのだろう」と、問い詰められても、神父は表情一つ変えずに、沈黙を守ります。
抑制された美しい映像と、静かなピアノの音色とともに、ミステリーは進展します。金の亡者になった人々と、修道士との対比を感じさせながら。
酒をあおり、薬を飲み、プールで泳ぐ権力者たち。
鳥の声に耳を傾け、海で泳ぎ、犬に慕われる修道士。
やがて、エコノミストたちの秘密の企みも、ロシェの告解の内容も、少しずつ明らかになって……。
奇跡のようなファンタスティックなシーンもありながら、その一方では、リーマンショックやギリシャの経済的破綻といった言葉が取りざたされたり、巨額の資産を預けたときの暗証番号を忘れた認知症の老人が一役買ったりしている。社会的なリアリティもあり、どこか皮肉でユーモラスでもあるのです。
また、サルスは一見無垢な修道士のようでも、実は数学者として著書もある知的な神父。その微妙な役をひょうひょうと演じるトニ・セルヴィッロという俳優がすばらしい。
上質な映画だと思いました。
ぜひ、ご覧になってはいかがでしょうか。おススメです。

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