「手元不如意」という言葉 ― 2019年08月24日
ご存じでしょうか、この言葉。
私が初めて知ったのは1年前、ある生徒さんの「詐欺にご注意」というエッセイの中に出てきたのです。
――高齢者を狙った振り込め詐欺が横行している。テレビニュースなどで、何百万もの額を取られたと聞くたびに、よくもまあそんな大金をお持ちで……と驚くばかり。わが家は高齢者の二人暮らしなのに、ちっとも電話がかかって来ない。きっと、お手元不如意が看過されているのだろう――
というものでした。
「不如意」なら知っています。思いのままにならないこと。
そして、「手元」とはつまり、お金のこと。手元のお金が思うようにならない、言い換えれば、懐が寂しいとか、持ち金が少ない、という意味だそうです。
わが家はお金持ちではなかったけれど、この言葉を両親から聞いたこともありませんでした。やはり、60代以下の世代ではあまり使われていないようです。
気をつけていたところ、80歳に近い女性がこう言うのを聞きました。
「手元不如意につき、受講をやめさせていただきます」
「お金がないので」などとあからさまに言わず、奥ゆかしさを感じました。
三浦しをんさんの小説『あの家に暮らす四人の女』の中にもありました。
――私は手もと不如意でカメラを持っておらず、悔しい思いをしました。――
離婚した父親が、わが子見たさにこっそり運動会を覗いた時のことを回想する。とはいえ、その後この父親は死んでしまい、現在はカラスとなってこの世に現れ、長々と独白するというユーモラスな内容です。そんな小説にはぴたりとくる雰囲気です。
若い人の間ではすでに知られていなくとも、何かの拍子にブレイクしそうな言葉だとは思いませんか。
2年ほど前に、「生まれる言葉、消える言葉」と題して、ブログ記事を書きました。その時に取り上げた「ほぼほぼ」は、ほぼほぼ定着した感があります。
この「手元不如意」も、「よみがえる言葉」となったら楽しいかもしれませんね。
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