篠田節子著『夏の災厄』を読んで2020年04月19日

 



1997年に『女たちのジハード』で直木賞を受賞した篠田氏が、その2年前に発表したのがこの小説。今、いちやくクローズアップされています。

325日の朝日新聞に、「脅威と向き合うために、読むべき一冊」として紹介されていたので、さっそく読んでみました。

 

物語のプロローグは、インドネシアのブンギ島で、奇病が広まって島民が全滅するところから始まります。早くもこれが災厄となる病だろうと予想されるのですが……。


舞台は埼玉県のとある市。

ある春の夜のこと、夜間救急診療所に、男性患者がやってくる。熱もあり、頭が痛くて、という。さらに、まぶしさを訴え、ありもしない花のようないい香りがする……とつぶやきます。

ここで読者は、はは~ん、ブンギ島の奇病と同じだ、と気づくのです。

私たちは現在、嗅覚と味覚が失われる症状に脅かされているけれど、小説では花の香りがするという。現実と創作との違いに、ほっと気が緩むのですが、それもつかの間、同じ症状の患者が、一人、二人とやって来ます。そして、その後は高い確率で死んでいく。

さらに、発病するのはなぜか市街地から離れた小さな地域に限られていて、当時の厚生省もまともに取り合ってはくれない……。そこで、保健センターの職員が感染源を突きとめ、ワクチンを手に入れようと、話が展開していきます。

 

例えば、ごみ処理業者の不正、ワクチンの危険性、情報の隠蔽と暴露、行政の怠慢、保健所の疲弊、はたまた生物化学兵器にいたるまで、なんとまあ作者はよく調べて練り込んであることでしょうか。

しかも、これは、4半世紀も前の作品だというのに、感染地域の風評被害、住民たちの限度を超えた不安、買い占めや宅配業者の繁忙、経済活動への打撃などなど、現在の日本が直面している状況を、見通していたかのような作家の想像力の豊かさ、正確さに驚きます。

それでも、わかりやすい語り口と、ドラマのような生き生きとした描写力で、恐怖と隣り合わせの面白さを十分楽しめました。

 

さて、この本をお勧めしたいかというと、難しいところです。

私は電子本で読んだので、スマホで読んでいる最中にも、画面に最新ニュースが刻々と現れます。

「〇〇県で15人感染」、「××県で2人死亡」……。

現実の不安と物語とが相まって、恐怖は倍加していきました。

それでも、好奇心を優先して読んでみますか。

たださえコロナ禍の真っただ中、いたずらに不安をあおるような本は読まないでおきますか。

どちらを選ぶかはもちろん、あなたしだい。

 

でも、もし読み始めたら、最後の一行まで読んでくださいね。

そこで本当の戦慄が待っていますから。

 

 



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