ダイアリーエッセイ:自粛の日々が明けて ― 2020年06月17日
東京アラートも消え、新しい生活様式で経済を回そうという時期に入った。
昨日、3ヵ月ぶりに、電車に乗って買い物に出かけた。友人へのプレゼントの品を探して、大型ショッピングセンターに足を踏み入れる。平日の昼間とはいえ、客足はまだ半分程度。どの店頭にも消毒液が置いてあって、店を替えるたびに利用する。
美しく並んだ商品、それらを照らし出すきらびやかな照明。還暦祝いの赤い色を求めて歩いていると、心が弾んでくる。
小ぶりの花柄のバッグを手に取り、赤かピンクかと迷っていると、若い店員が精いっぱいの笑顔で寄ってきた。彼女も久しぶりの出勤を喜んでいるにちがいない。
「作家ものの手作りなんですよ」
「どの柄も素敵ね」
売るほうも買うほうもマスク越しだけれど、ショッピングの楽しさを分かち合う。
その後、地下売り場の一角にあるお目当てのケーキ屋さんのコーヒーショップへ。このショッピングセンターに来ると、よくここで一息入れたものだ。やっとお預けだった楽しみが返ってきたのだ。
店内をのぞくと、明らかにテーブルの数が減っている。スタッフの数も少ない。入ろうとすると、止められた。
「手を消毒なさって、こちらにかけてお待ちください」
マスクの上にフェイスシールドをつけ、青い手袋をはめたウェイトレスが、前の客の食器を片付け、丁寧にテーブルや椅子を消毒液で拭いてから、私を案内してくれた。
香り高い熱いコーヒーと、さわやかな甘さのレモンタルト。ああ、おいしい……!
透明のカーテン越しのレジで、レシートを受け取ると、思わず声をかけた。
「しばらくは大変でしょうけど、頑張ってくださいね。またいただきに来ますから」
「ありがとうございます。またぜひお越しくださいね」
泣きそうな笑顔が返ってきた。
自粛の日々は明けた。感染を防ぎながらも、生の声をかけ合えることが何よりうれしいと思った。
▲客の出入りのたびに、てきぱきと消毒作業を繰り返すスタッフの人たち。