おススメの本、遠田潤子著『アンチェルの蝶』2020年09月05日

 

前回のおススメ本に続き、今回はこの本をおススメします。

 

ところで、『ザリガニの鳴くところ』の少女の母親が、なぜ子どもを置き去りにして家を出たのか。それは夫の暴力でした。子どもたちも父親に愛想をつかして出て行ってしまうのです。

この小説もまた、その部分が偶然にも同じでした。

 


物語は、主人公・藤太が大人になっている現在から始まります。痛む膝を引きずるようにして、ひとりで飲み屋をやっている。荒んだ雰囲気で、ときに強い酒をあおって酔いつぶれる。そんな藤太が、突然小学生の女の子を預かる羽目になる……。謎めいたストーリーを予感させます。

 

そして物語は過去へ。

藤太の父親も、酒に酔っては暴力をふるうどうしようもない男でした。母親が去り、父親と二人で暮らしながら、高校にも行かせてもらえない。飲んだくれの父親に代わって、小さな飲み屋を手伝わざるをえない。それでも父親は息子を殴る。どん底の暮らしでした。

 

中学生の藤太には、二人の親友がいました。同じクラスの優等生男子と、バレリーナを夢見る少女と。三人は固い友情で結ばれ、互いに信じあい、支えあいながら、中学校生活を続けるのです。

三人の共通点といえば、父親がひどすぎること。ろくに仕事もせず、賭け麻雀をしては、酒に酔い、とんでもない悪事に手を染めている……。

 

三人の絆の意味が少しずつ解明され、秘密めいた話の真実が明かされていきます。

それでも、暗く重い話の先に、藤太の明るい希望が見え隠れするのですが……

そこから先は、ご自身で読んでみてください。

 

三人の仲間も、藤太の店の常連たちも、暗い過去を抱え、世の中に背を向けているようでも、どこか正直にまっとうに生きたいと思っている。どん底から這い上がろうとしては、希望と絶望とに翻弄される。読み手は、そんな姿から目が離せない。もっともっと先を読みたくなるのです。

 

ちなみに、遠田潤子氏は、私が今一番注目している作家です。

今年上半期の直木賞でも『銀花の蔵』が候補になりました。いずれ受賞するのでは、と熱い期待を寄せています。

 



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