自閉症児の母として(71):『52ヘルツのクジラたち』を読んで2021年05月02日


町田そのこ著『52ヘルツのクジラたち』は、今年の本屋大賞に選ばれ、今話題を呼んでいるようです。新聞広告や書評欄でも何度も目にし、朝日新聞のコラム「天声人語」でも取り上げられました。

私も興味を持ち、書店で購入。読み始めたら止まりませんでした。

子どもに対する虐待や育児放棄、さらには耳新しいヤングケアラー、トランスジェンダー、自殺などの社会問題が詰め込まれています。

とはいえ、著者のたしかな文章力で、登場人物はキャラクターがくっきりと立ち上がり、主人公を取り巻く愛すべき人々が織りなすドラマを見ているようなわくわく感も味わえます。

 

424日の「天声人語」によると、本のタイトルになっているのは、米国の西海岸に生息すると信じられてきた一頭のクジラ。仲間には届かない超高音の52ヘルツで歌い続け、「世界一孤独なクジラ」と呼ばれるのだとか。

この小説の中では、親からたばこの火を舌に押し付けられるという虐待を受け、そのショックから言葉が発せなくなった少年のことを指しています。

 

私がこの物語のクライマックスを読んだのは、前回のブログ記事で書いた『僕が跳びはねる理由』の映画を見に行く前夜でした。本を読んで、久しぶりに涙腺全開、滂沱の涙。翌朝の瞼の腫れ具合を思うと、これ以上先へは進めない。結末を読まずにそこで本を閉じたのでした。

 

そして、映画を見て、思ったのです。

自閉症の息子たちもまた、52ヘルツのクジラなのだと。

言葉を発することがなかったり、たとえ話せたとしても、自分の感情や本当の思いを伝えることができなかったりする。そんな自閉症者も同じだと思いました。

小説のヒロインのように、52ヘルツのクジラの声を聞こう。息子の本当の心の叫びに耳を傾けなければ。初心に返った瞬間でした。

これからも、息子の代弁者として、彼の声を世の中に伝えていきます。親亡き後も、息子を支援してくださる人々に、息子の声が正しく届きますように。母としての願いです。


ところで、物語の少年はどうなったか。声なき声は届いたのか。

それは、ぜひご自身で読んで、お確かめくださいね。

本屋さんがいちばん売りたい本として、一押しのこの一冊、もちろん文句なしに私からもおススメの本です。




エッセイ教室もリモートで!2021年05月18日


コロナの感染防止対策で、「不要不急の外出は自粛を」と言われるようになって早くも1年半がたとうとしています。

 

その間、私の受け持ついくつかのエッセイ教室も、お休みの時期がありました。

それぞれの生徒さんと通信添削の指導に切り替えたこともあります。

「これもオンラインのうち」と考えて、個別の通信添削と全員でのメールのやりとりとを組み合わせて、合評会のようにやってみたこともあります。

 

私は、高齢者の趣味の時間や友人との交流を、けっして「不要不急」などと軽んじてほしくありません。昨年9月のブログにも書きましたが、高齢者と呼ばれる世代だって、社会との関わりを止めてはいけない。第二の人生を歩む今、趣味のお仲間と語り合い、触れ合い、楽しい時間を共有する楽しみこそ、必要とされることではないでしょうか。QOL、つまり人生の質を高めることに大きな役割を果たします。

 

エッセイ教室も、お休みばかりが長引くと待ち疲れて、気持ちがなえてしまう。エッセイなんてもういいや、と思えてきてしまう……。

若い世代の方なら、いくらでも再開を待てるでしょう。安全が確立されてから再開しても間に合います。また、リモートなどの新しい方法で、これまでの楽しみを続けることもできるでしょう。でも、ご高齢の方にはなかなか難しい。(高齢者の領域に足を踏み入れた私自身の思いでもあります)

 

高齢者の多いエッセイ教室で、Zoomなどを利用するオンライン方法は、パソコンが苦手な高齢者には、ハードルが高いのではないか。できる人とできない人との間に分断を生んでしまうのではないか。そんな懸念がありました。

また、私自身で体験してみて、一拍遅れの映像や、音声がかぶると聞こえづらいことなど、マイナス面が気になります。やはり対面がいい、と改めて思っています。

ですから、エッセイ教室にリモートを導入することにためらいがありました。

 

でも、今年になって、何度も緊急事態宣言が延長され、教室もたびたび休会せざるを得ません。それをお知らせするメールに、横浜教室の最高齢、80代のS子さんから、お返事が来ました。

「今度こそはと思っていましたが、残念です。私の残り時間が少なくなっているのに、本当にコロナが憎いです」

その言葉にハッとしたのです。「もう待てない」と思いました。

悩んだすえ、この横浜教室で、おそるおそるZoomによるリモートを提案してみました。すると、皆さん未経験ながらも、「ぜひやってみたい」という声が多数を占め、わくわくと待ち受ける意気込みが伝わってきました。

さて当日、ほとんどの方がリモートの画面に顔を見せてくれましたが、S子さんは、どうしても声だけでお顔が見えません。

「ちょっと待っていてください」と言ったきり、音声も途絶えてしまいました。しばらくすると、ついにお顔が現れたのです。ご自身でパソコンの設定を調べ、カメラをONにして、参加できたとのこと。一同、拍手!!

普段からメールも原稿も、パソコンで操っている生徒さんなのですから、できないのではと思い込んでいたなんて、それこそ私の杞憂でした。


ご高齢の方でも、臆することはありませんね。どんどん挑戦していただきましょう。 

この横浜教室に勇気をもらい、今週はさらに稲城教室でも初リモート開催の予定で、今から楽しみにしています。

湘南エッセイサロンでは、年齢を問わずオンラインは経験済みの方も多く、すでに何回か行っています。

浜松教室は、母体であるカルチャースクールがオンライン講座を準備してきました。生徒さんは教室に集まり、講師の自宅とを結ぶ形で、講座を行っています。

 

生徒さんの本音を言えば、月に一度顔を合わせて、エッセイとは関係のない世間話や、教室の後のお食事が楽しみなのに、パソコンの画面越しの集まりだけじゃ物足りない……、というところかもしれませんね。私も、同じくです。

 

今月になって、ようやく一般の高齢者にもワクチン接種の機会が近づいてきました。パソコンは苦手、などとおっしゃらずに、せっかくのチャンスですから、ご自分でインターネット予約をなさってみてはいかがでしょう。

そして、ワクチンがすべての世代に行き渡ったら、きっとお仲間との楽しい時間が戻ってくることを信じて、もう少しの辛抱ですね。





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