GO, GO, GO!の旅 (1)エッセイ:高知に行きたい2022年07月05日

 

この春、夫とふたりで、高知から広島まで、34日の旅をしました。こんなに長く夫婦だけで旅行をしたのは、新婚旅行以来ではないでしょうか。

「あなたのエッセイには、あまりご主人が登場しないわね」

とよく言われる私ですが、お待たせいたしました、今回は、恥ずかしながら、たっぷり書かせていただきます。

旅行中に拾ったエッセイのタネをどこまで咲かせることができるか、時間をかけてゆっくりと、書いていくつもりです。

おかしなタイトルですって? いずれお分かりいただけるでしょう。

では、写真とともにお楽しみください。

 

 

    高知に行きたい

 

コロナ禍になってからは、友人との旅行が難しくなり、同行者は夫になった。

「こんどGoToが再開したら、どこに行く?」

テレビでコロナ情報の番組を見ては、そんな話題になる。

ある時、「高知に行きたい」と夫が言った。

 

彼は定年後の1年間、ハローワーク主催の講座で造園業を学んだ。花好きな義母の影響もあって、植物には親しんでいるのだ。

講座終了後は、都内の熱帯植物館でパートの職に就いた。週3日の勤務で、マイナスイオンを浴びながら体を動かす仕事なら、健康にもいいだろう。毎日在宅になるのを恐れていた私はほっとした。

 

その勉強中に、高知市にある牧野植物園のことを知ったらしい。いつか行ってみたいのだと言う。自分で調べて計画を立てて出かけるほどのマメさはない。妻頼りの他力本願だ。

私にとって四国は未踏の地。これを機に初上陸も悪くない。

ゴールデンウィーク直後が、価格的にも混雑状況も、ねらい目だと聞く。梅雨入りにもまだ早い。GoTo再開を待っていては、いつ行けるかわからない。夫の背中を押すように、この5月、彼の出勤日と私の都合とをすり合わせて、3泊の旅行計画を立てた。

 

かくして5月下旬の朝、羽田から高知へ飛ぶ。機体右側の席で、雲の上に頭を出した富士山を眺め、旅は始まった。

座席のテーブルの上に昨日の新聞を取り出す。旅行前はいつも忙しくて新聞を読む暇もないから、旅立ちにはバッグに新聞を忍ばせるのが習慣になっている。持って出たのは、生活・文化の記事がほとんどの週末限定版だ。

めくっていて、あら? と手を止めた。見開き2ページの大きな特集記事だった。写真には花々の咲き乱れる花壇が写っている。手前には大きな口を開けて笑う背広にゲートル姿の男性がいる。

記事は、「はじまりを歩く」というテーマで、毎週その道の開拓者を取材している。今回は「日本の植物分類学・高知県」とある。わが目を疑った。なんと、今日これから訪ねていく牧野植物園ではないか!

 

写真に写る破顔の男性こそ、ほかならぬ牧野富太郎氏。日本の植物学の草分けで、江戸末期に南国土佐の豪商の家に生まれた。親から譲り受けた財産はすべて植物研究につぎ込んでしまう。おう揚な人柄で、周囲の人たちからは愛されたらしい。そんな偉人の功績を残すためにできたのがこの植物園だ。来年春のNHK朝ドラ、神木隆之介主演「らんまん」は、彼の人生がモデルとなっている。

「はい、今日の予習ね」と、夫に新聞を手渡すと、へぇ……と興味深く読んでいた。

それにしても、なんという偶然だろう。導かれてやって来たみたいだ。

 

さらに、植物園に到着すると、「ガンゼツラン特別公開」の看板があった。ふだんは非公開の場所で育てているその花が咲いたので、今だけ公開中だという。

「えーっ、ガンゼツランが咲いてるの?」

夫は職場で長いこと育てているが、いまだかつて咲いたことがないと言う。それが見られるなんて。なんという幸運!

 

木立の中の斜面一帯に、たくさんの株が植わっていた。クマザサのような細長い葉の間から30センチほどの茎が延び、子どもの手をすぼめたような形の黄色い花がいくつも咲いている。花の中心のしべの先だけが少し茶色い。華やかなランのイメージからは程遠いけれど、夫には憧れの開花なのだ。

「みんなに見せて、うらやましがらせてあげよう」と、しゃがんで花を接写する夫は、まるで小学生のようだ。好きなことにはとことんのめり込む。人との会話はあまり得意ではないのに、知っている花を見るとその名前を口にせずにはいられない。牧野博士に似たところがあるのかもしれない、と思った。

「ここでガンゼツランに出会えるとはなぁ」

にこにことご満悦な夫に、「誰のおかげ?」と口には出さずにおいた。

 



☆ 旅のフォト ☆

 

▼目にするのはいつも、車のフロントガラスの向こうだったり、新幹線の車窓からだったりする富士山を、珍しく見下ろしました。


▼これが、ガンゼツラン。



▼牧野先生とツーショット。


来年春から始まる朝ドラが、今から楽しみ。

 

▼新聞記事の写真と同じ場所のこんこん山広場には、手入れの行き届いたガーデンが広がります。園は、標高146mの五台山の上に造られているので、高知市を見下ろす風景も、絵のように美しい。お天気にも恵まれました。




 


▼ちなみに、これが機内で見た新聞紙。旅の記念にとってあります。



コメント

_ kattupa ― 2022/07/08 07:07

お久ぶりです。
夫婦(めおと)エッセイ面白く拝読しました。
旦那さんを書いたエッセイは読んだことはありません。
お続けください。

_ hitomi ― 2022/07/08 10:18

kattupaさん、お久しぶりです。
夫婦エッセイは、つい愚痴になってしまうので、気をつけて書かなくてはと肝に銘じております。がんばります。

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