GO, GO, GO!の旅 (2)エッセイ:はりまや橋へ2022年07月27日

 


    はりまや橋へ

 

夫が「高知の牧野植物園に行きたい」と言った。

「えー、植物園? じゃあ私はその間に桂浜に言って、竜馬ぁ~~! って叫んでるわ」

 

というわけで、空港近くでレンタカーを借りて、最初に訪ねたのが桂浜。観光写真でおなじみの竜馬像が立ち、そのすぐ横には、櫓を組んで展望台が設けてあった。

年に2回の期間限定で、「竜馬と同じ目線で太平洋が眺められます」ということらしい。

100円を払って櫓に上ってみた。高さ13.5メートルの竜馬と同じ目線になっても、太平洋はほんの少し見えるだけ。松が大きくなりすぎているのだ。

あの松の木をなんとかしないと、桂浜は観光地として生きていかれないのでは、と心配になる。

 

私には、もう一つ訪ねたい場所があった。

はりまや橋である。

 

   ☆☆☆

 

さかのぼること40年以上前、大学卒業後もクラブのおおぜいの仲間たちと親しくしていた。その中には現在の夫も含まれており、結婚後も、さらには子持ちになってからも家族ぐるみでよく遊んだものだ。

 

飲み会の後には、当時流行り始めたカラオケにも行った。

そんなとき、なぜかまったく理由がわからないのだが、私が歌わされる定番の曲があった。

 

  南国土佐を後にして 都へ来てから 幾歳(いくとせ)

  思い出します 故郷の友が……

 

曲のタイトルは「南国土佐を後にして」。私たちが子どものころ、ペギー葉山が歌って大ヒットした。

カラオケで最初に振られた時から、私でもすらすらと歌えてしまったほどだ。

それにしても、なぜ私にこの歌を?

仕掛けたのはたぶんN君だ。湘南ボーイの一人で、工学部とは思えない軽いノリの男子。いつもくだらない駄洒落を考えては、自分でバカ笑いしていた。

ウィンドサーフィンを楽しみ、スポーツタイプの車を乗り回し、夏は海、冬はスキーにと、よくみんなで遠出を楽しんだ。

彼は、お酒にはあまり強くないので、飲み会に車でやって来て、家まで送ってくれることもあった。とは言え、あくまでも、一つ年下の友人の一人だった。

N君はカラオケでこの歌を選曲しては、私を指名する。お決まりの流れに、私もマイクを握って、情緒たっぷりに熱唱しては、喝さいを浴びたものだ。

 

やがて、仲間は次々と所帯を持つ。N君もピアノ講師のかわいい奥さんをもらった。やがてかわいい女の子の父親になる。

湘南の海が見える閑静な住宅街に、広い庭のあるオシャレな家を建てた。玄関の壁には海岸で拾った貝殻が埋め込まれ、娘のグランドピアノを置くための防音室もしつらえてある。誰もがうらやむほどの暮らしぶりだった。

 

しかし、人生は何が起きるかわからない。

50代で、彼はくも膜下出血で倒れた。一命こそとりとめたものの、家族とは暮らせない状態になり、ホームに入所した。

詳しい話を聞くのもつらく、いつのまにか奥さんとも疎遠になったままである。

 

   ☆☆☆

 

高知へ行くなら、はりまや橋へ行かなくては。

牧野植物園でひとり感激して歩き回る夫を残し、私は一足先にホテルへ。車を置いて、高知の街へ向かった。

 

橋は、広い道路の交差点の一角にあった。

朱塗りの欄干の太鼓橋と、その横には大きなかんざし店。

橋は、江戸時代に造られて以来、何回か架けかえられ、昭和33年に初期の朱塗りの橋が復元されたとか。今では歌の知名度も落ちただろうに、「はりまや橋公園」として整備され、昭和を偲ぶレトロな観光スポットになっている。

 

  土佐の高知の はりまや橋で

  坊さんかんざし 買うをみた

 

木造りの橋をゆっくりと踏みしめながら、マスクの中で歌った。

N君、この歌まだ覚えてる? ついにここまで来ちゃったわ。

何か、おもしろいこと言ってよ。

 



 ☆ 旅のフォト ☆


▼ご存じ竜馬像。


▼展望台の櫓が並んで……


▼竜馬さまとツーショット♡♡


▼櫓の上からようやく見えた太平洋。

 

▼日本最古で日本最長23.5キロの路面電車が通る高知市の目抜き通り。


▼感慨もひとしお。本物のはりまや橋。

 


▼橋の向こうのビルの壁面に見える掛け時計。じつはからくり時計だったと、帰ってから知りました。1時間おきに、時計の上下左右から、はりまや橋や高知城など、高知の名物が現れるそうです。あと10分待っていればよかったのに。


▼高知城。


▼高知城に沈みゆく夕日。


▼先を急いだのは、ここへ来るため。夫と二人で下調べをして厳選した、高知名物藁焼きカツオのたたきのお店。その名も「たたき亭」。


▼この店のこだわりは、注文が入ってから捌いたカツオを、無農薬の藁で焼くのだそうです。


▼塩味でいただくたたき。今まで食べたことのない美味しさ! 高知まで来てよかったと思う瞬間でした。


▼酔鯨。日本人でよかったと思う瞬間。近くの「ひろめ市場」でおみやげに買って帰りました。


 


 


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