おススメの本:川内有緒著『エレベーターのボタンを全部押さないでください』 ― 2026年02月08日

さきほど読み終えたばかりですが、早く皆さんにおススメしたいと思いました。
昨年、この本についての誰かの書評を読んで、読んでみたくなったから図書館で予約をしたのだけれど、もうその書評のことは覚えていません。
ただ、大好きな本『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』の著者の初エッセイ集だというので、興味がわいたことは確かです。
6つの章に分かれていて、最初の章には、旅のあれこれ、些細なエピソードがつづられています。こんなふうに旅先の出来事が書けたらいいなあ、とうらやましく思うほどでした。
第2章には、子供の頃の話が続きます。
高橋留美子の漫画『うる星やつら』を絶賛しています。私もおとなになってから、夢中で読みふけった過去があって、大いに共感しました。
そして、このエッセイ集の長いタイトルにもなっている話が登場。抱腹絶倒というか、あきれてものが言えないというか、まるで映画のような冒険譚が展開していきます。
ただ、今なお、なぜこのタイトルを付けたのかは、よくわかりません。
まだ幼い頃、自分をとりまく世界の全てが「当たり前」だった。
作者はそうつづっていますが、作り話ではなく事実だとしたら、作者はフツーの大人にはなれるわけないわな、とさえ思えてくるのです。作者は豊かすぎるほどの子ども時代を過ごしたのですね。
第3章には、本の話や、ノンフィクション作家としての自分の話。
向田邦子さんのエッセイにもその生き方にも言及して、その魅力をつづっています。
私も若い頃、向田さんのエッセイが大好きで、読みつくしました。惹かれた理由が今初めて言葉になったようで、不思議な思いにとらわれています。
また、例の『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』の本を執筆中の時のエピソードも出てきて、わくわくしました。
作者は、白鳥さんを主人公にした映画も作っているのだと知りました。
そして、エッセイを書く私としては、推敲作業の仕方が似ている、とにんまりしたり、歩きながら書くという執筆方法には目からうろこ、やってみようと思ったり。
最後の章は、「未完成な人生に花束を」というタイトル。
人は生まれて死ぬ。
とあるように、自分のおなかの中に、待望の命が芽生えた話や、父の死、叔父の死も、心に深く残るようなエピソードをつづっています。
エッセイ集の最後の最後に、初めて泣かされそうになりました。
この本の面白さは、ひとことでは言い尽くせないけれど、しいて言えば、豊かな愛情と好奇心にあふれた川内有緒さんが、人生の冒険のかずかずを、抜群の文章力で表現したエッセイ集です。
今年の私の一押し。ぜひお読みください。

おススメのひととき欄:「今日も編む」 ― 2026年02月26日
本日、2月26日付の朝日新聞朝刊に、私のかつての生徒さんの投稿が載りました。

書き出しは、手編み帽子と友人たちとのつながり。明るい色の帽子が、手から手に渡っていく様子が目に浮かび、温もりが感じられます。
ころころと毛糸玉が転がっていった先の記憶は、昭和の子育ての頃でした。ミカンとこたつと賑やかな家族。そして、やさしい夫の姿……。
それが一転、夫は病魔に侵されて、無言のうちに向き合う老夫婦。言葉少なでありながら、作者の悲しさ、悔しさが、あふれるように伝わってきました。
500字足らずのショートエッセイで、鈴木さんは大勢の読者の心を震わせたにちがいありません。
これからも、編み物を楽しむかたわら、エッセイも書き続けてくださいね。
