おススメの本、真藤順丈著『宝島』2020年06月23日

 


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昨年1月、第160回直木賞を受賞した作品です。

 

1年前の今日、この本を紹介して、おススメしたいと思いました。

とはいえ、1年前の手帳を開いてみれば、あまりの多忙な日々、それに続いて風邪でダウン……、今年の6月とは打って変わって、スケジュールはびっしりでした。

 

当時、この本を読んで、以下のようなメモを残していました。

 

物語は、沖縄の戦後から返還までのリアルな現代史であり、若者たちの冒険譚でもあり、壮大な沖縄民族叙事詩を読んでいるようでもある。

文章には、カチャーシーのようにリズム感がある。少年漫画のように、暴れん坊たちのギラギラした瞳、叫びやうめき、疾走する土煙が、次から次へと漫画の枠をはみ出すようにあふれてくる。劇画がはじけている。

あるときは音楽のように、美しすぎる沖縄の海と太陽の色づかいが、息づいて聞こえてくる。

彼らは、絶望しているのに、悲壮なのに、どこかに希望を隠し持っている。

その熱が、読み手に伝わって、最後まで読み続けた。

 

今日は、沖縄慰霊の日。

日本の中で、唯一地上戦が行われ、県民の4分の1にあたる人々が凄惨な死を遂げたといいます。戦後75年間、沖縄がどんな歴史をたどってきたのか、私には知らなかったことが多すぎる。11年前に沖縄旅行をした時にも、同じことを思いました。

 

そんな私から、おススメの本です。

 

 



おススメの本、ソン・ウォンピョン著『アーモンド』2020年06月05日


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韓国人女性作家の小説で、2020年本屋大賞の翻訳小説部門で第1位になりました。すでに13ヵ国で翻訳され、日本でも重版されています。

推薦の言葉は本屋さんにお任せするとして、私の個人的な興味をお話ししましょう。

 

主人公の少年ユンジェは、生まれつき脳のアーモンドと呼ばれる扁桃体の部分が通常より小さい。それは感情がわからないという障害を意味するのです。家族が通り魔に襲われる事件に巻き込まれても、顔色ひとつ変えませんでした。

 

はじめに新聞広告でその内容を知った時、すぐに読もうと思いました。私には二つのことが頭に浮かんだのです。

まず一つ目は、脳の障害を持つわが子のこと。感情がわからないというわけではないし、不幸な事件も起きずにこれまで成長してくれました。

それでも、相手の心が読めないという同じような特質はありそうです。

子どものころ、絵本の文字が読めないと、「これはなあに」と聞いてくるのですが、本は自分に向けたまま、私からは見ることができませんでした。

今でも、電話での会話で、「今日は何を買ったの」のような質問に、

「これ」と答えることもしばしば。相手には見えていないということがわからないのです。

 

ユンジェのお母さんが、彼を専門家に診てもらったところ、自閉症のような発達障害ではない、という診断でした。それでも、わが子のために猛特訓。人の感情を学ばせようと、必死にあれこれ教える場面では、わが身とダブりました。少しでも困らないように、世の中で通用するように、生きるすべを身に着けてほしい。障害児の母の一途な思いは、どこの国でもどんな障害でも同じなのですね。

 

もう一つ思い出したのは、天童荒太著『ペインレス』という小説。体の痛みを失った男と、心の痛みを感じない女、どちらも文字どおりの意味です。

まるで官能小説かと思いきや、医学的見地というメスでスパッと切られ、哲学的見地という問いかけに苦しめられる。とにかく衝撃的で、エネルギーを吸い取られるような小説でした。

これまで優しいまなざしを持った『永遠の仔』や『悼む人』と同じ作者だとは、どうしても思えませんでした。

 

話を『アーモンド』に戻しましょう。

ユンジェの語り口は、感情がわからない分、無駄がなく、透明な水の流れのように読む者の胸にしみてきます。彼の純粋さが感じられるのです。

私は、二つの関心事などは忘れて、ユンジェの成長を見守り続けました。


「感動のラスト」には、あえて触れないでおきましょう。

皆さんにぜひともおススメしたい今年一押しの本です。

そして、作者にはぜひとも続編を読ませてほしいと願っています。



高嶋哲夫著『首都感染』を読んで2020年05月10日


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『夏の災厄』を読んでからは、もう読むまいと心に決めていたパンデミックの小説を、やはり読んでしまいました。

グルメの友人が、食事の支度もそっちのけで読みふけったと聞き、その気になったのです。アマゾンでも売り切れで、隣町の大型書店に買いに走りました。『夏の災厄』を電子本で読んだら、「家族や友人に回したかったのに」と後悔したので、今度は文庫本を買ったのです。

 

発端は、中国雲南省。インフルエンザのような感染症で、いくつもの村が死滅していきます。おりしも北京ではサッカー・ワールドカップを開催中。国の威厳を守るために、なんとしてもワールドカップが終了するまでは、秘密裏に封じ込めを進めたい。こうして中国共産党本部は、情報開示を遅らせる……。

どこかで聞いたような話です。

これは10年前に発表された小説なのですが……!

 

中国での感染拡大が隠ぺいされたがゆえに、サッカー観戦を終えた世界中の旅行者たちが自国に戻り、世界的な感染爆発を起こしてしまう……。

が、しかし。

日本には頼もしいリーダーたちがいた。当時の総理大臣と、その息子の医師、彼は元WHO感染症対策チームのメンバー。そして、総理の同級生であった元医師の厚生労働大臣の3人が、強い絆のもと対策本部を取り仕切っていきます。

まずは、国内の国際空港をすべて封鎖し、中国からの旅行者は全員、ウィルス潜伏期間の5日間、空港内に拘束するなど、水際対策を強行するのですが、やはり都内に感染が始まります。

そこで、対策本部は大胆な策に打って出ます。感染の広まった部分、東京の河川と主要幹線道路とに囲まれた都心部を、自衛隊や警察を総動員して、ぐるりと完全封鎖する。ロックダウンです。誰一人例外なく、どんな理由があろうと、出ることも入ることも禁止されます。

こうして感染は、720万人の都民が住む封鎖エリア内だけに閉じ込められるのですが……

 

その先は、ぜひご自身でお読みください。

安心しておススメできるのには、それなりに理由があります。

 

まずこれはあくまでもフィクションです。

国会を通さずにこれだけの権力乱用を許され、しかも信頼を得ているリーダーは、残念ながら日本には存在しません。それだけに、小説として割り切って読める。感染と戦う誰もがかっこよく、疲れ知らずで能力があり、安心して手に汗握りながら読書に没頭できるというものです。

さらに、この感染症は、感染者数も致死率も非常に高い。最終的に世界で125千万人が亡くなったというのですから、新型コロナとは桁違いのパンデミックです。現実を振り返ると、むしろ冷静になれるのです。

 

ちなみに、総理の息子の医師は、暗い過去を抱えて、ひげを生やし、アルコールに溺れる一歩手前のような男。それでも、プロの感染症対策の知識を持ち、的確かつ大胆な指示を出せる。ほれぼれする指揮官、どこかで見たような……と思い当たったのは、映画「シン・ゴジラ」の長谷川博己が扮する内閣官房副長官でした。彼に無精ひげでこの役をやってほしい。(個人的な願望です♡)

 

それでいて、「未来のノンフィクション」ともいえる。これは、本書に解説を載せている成毛眞氏の言葉です。

著者の高嶋氏は、かつて原子力研究所のメンバーでした。膨大な知識には、科学者としての裏付けと洞察力があってのこととはいえ、驚嘆に値します。

彼の小説『TSUNAMI 津波』は、東日本大震災の6年前に発表されたものだそうです。20メートルの高さの津波が押し寄せ、原発はメルトダウン直前までいくのだとか。そう聞いただけで彼の予言者ぶりがうかがえるではありませんか。

 

新型コロナの報道で、「サイトカインストーム」という言葉を耳にしました。ウィルスそのものの感染よりも、二次的な症状として血栓が起きる場合があり、それはサイトカインストームのせいだ、というものでした。

小説の中にも出てくるのです。多臓器不全に陥り、内臓が侵されて出血して死に至る、とあります。凄惨な死体の描写もありました。

 

また、先週から、レムデシビル、アビガン、イベルメクチンなど、新型コロナの治療薬のニュースも増え、希望をもたらしてくれています。

ちょうどそのころ、私の手中の物語も終盤、格段に効果のある新薬がスピーディに認可され、ワクチンもドラマチックに開発が進むという段階に入りました。

 

こんなふうに、現実と架空とを行ったり来たりする読書を楽しみながら、私の外出自粛の日々は過ぎていきます。



篠田節子著『夏の災厄』を読んで2020年04月19日

 



1997年に『女たちのジハード』で直木賞を受賞した篠田氏が、その2年前に発表したのがこの小説。今、いちやくクローズアップされています。

325日の朝日新聞に、「脅威と向き合うために、読むべき一冊」として紹介されていたので、さっそく読んでみました。

 

物語のプロローグは、インドネシアのブンギ島で、奇病が広まって島民が全滅するところから始まります。早くもこれが災厄となる病だろうと予想されるのですが……。


舞台は埼玉県のとある市。

ある春の夜のこと、夜間救急診療所に、男性患者がやってくる。熱もあり、頭が痛くて、という。さらに、まぶしさを訴え、ありもしない花のようないい香りがする……とつぶやきます。

ここで読者は、はは~ん、ブンギ島の奇病と同じだ、と気づくのです。

私たちは現在、嗅覚と味覚が失われる症状に脅かされているけれど、小説では花の香りがするという。現実と創作との違いに、ほっと気が緩むのですが、それもつかの間、同じ症状の患者が、一人、二人とやって来ます。そして、その後は高い確率で死んでいく。

さらに、発病するのはなぜか市街地から離れた小さな地域に限られていて、当時の厚生省もまともに取り合ってはくれない……。そこで、保健センターの職員が感染源を突きとめ、ワクチンを手に入れようと、話が展開していきます。

 

例えば、ごみ処理業者の不正、ワクチンの危険性、情報の隠蔽と暴露、行政の怠慢、保健所の疲弊、はたまた生物化学兵器にいたるまで、なんとまあ作者はよく調べて練り込んであることでしょうか。

しかも、これは、4半世紀も前の作品だというのに、感染地域の風評被害、住民たちの限度を超えた不安、買い占めや宅配業者の繁忙、経済活動への打撃などなど、現在の日本が直面している状況を、見通していたかのような作家の想像力の豊かさ、正確さに驚きます。

それでも、わかりやすい語り口と、ドラマのような生き生きとした描写力で、恐怖と隣り合わせの面白さを十分楽しめました。

 

さて、この本をお勧めしたいかというと、難しいところです。

私は電子本で読んだので、スマホで読んでいる最中にも、画面に最新ニュースが刻々と現れます。

「〇〇県で15人感染」、「××県で2人死亡」……。

現実の不安と物語とが相まって、恐怖は倍加していきました。

それでも、好奇心を優先して読んでみますか。

たださえコロナ禍の真っただ中、いたずらに不安をあおるような本は読まないでおきますか。

どちらを選ぶかはもちろん、あなたしだい。

 

でも、もし読み始めたら、最後の一行まで読んでくださいね。

そこで本当の戦慄が待っていますから。

 

 



『感謝離 ずっと一緒に』を90歳で初出版!2020年03月22日

 

エッセイ仲間の河崎啓一さんについて、昨年7月の以下のブログで紹介しました。覚えていらっしゃるでしょうか。

 

 2019714 反響を呼んでいる「断捨離」のエッセイをご存じですか。

 

5月、朝日新聞に「『感謝離』ずっと夫婦」という投稿が載り、多くの読者に感動を与えました。亡くなった奥さまの遺品に、感謝しながらお別れをする愛情たっぷりで軽妙なエッセイです。

まず、「断捨離」の提唱者やましたひでこさんが、新聞紙上で読んで感激し、ブログに取り上げました。

世の中には、先立たれた家族の遺品と別れることができない人が大勢いるのでしょう。反響も大きかったので、朝日新聞はさらに特集記事を載せています。

ツイッターでもリツイートが続きました。

関西のラジオでも取り上げられました。

さらに、やましたひでこさんの番組、BS朝日「ウチ、断捨離しました!」の中で、やましたさんが河崎さん宅を訪問し、ご対面が実現しました。

 

そして、反響はとどまるところを知らず、大手出版社、双葉社からオファーがあり、河崎さんの本を出版することになったというわけです。



 

河崎さんのエッセイは、ユーモアと軽妙な語り口のなかに、情の豊かな品格のある文章が持ち味です。

この本では、独り語りのような文体に編集されており、本来の持ち味とは一味違っています。だからこそ、ご高齢の方にも読みやすく、読書の習慣があまりなくても、同じ境遇の方々に手に取ってもらえることでしょう。
そして、少しでも明るい気持ちになってもらえるならば、著者として本望なのではないでしょうか。

読売新聞の広告にも掲載され、売り上げが伸びているようです。

 

皆さまにも、ぜひお読みいただければ、と思います。

アマゾンのサイトでお買い上げいただけます。

 

また、やましたひでこオフィシャルブログでも紹介されていますので、よろしかったらご覧ください。

 

河崎さん、90歳の快挙、本当におめでとうございます! 

奥様の一周忌に、最高のプレゼントとなりましたね。

 

 



直木賞受賞作『熱源』を読んで2020年03月18日

 


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今年1月に第162回直木賞を受賞した川越宗一氏の長編小説である。

明治初期の文明の波を乗り越えようとするアイヌたちと、祖国の独立を願うポーランド人。樺太の地で出会い、やがてヨーロッパや東京、果ては南極大陸にまで出向いていき、人生を賭けた冒険の道を走り続ける壮大な物語だ。さらにそこに、明治の重鎮大隈重信、言語学者の金田一京助、作家の二葉亭四迷、南極探検家の白瀬中尉などなど、著名な人々が彼らと関わっていく。

 

「病気の種を体に入れるなんて、気持ち悪い」

そう言ってワクチンを拒んだアイヌの村人たちが、天然痘やコレラに、次々と感染して死んでいく。そのすさまじい場面には思わず目を覆いたくなった。

期せずして現在の人類もまた、未知のウィルスとの闘いを強いられているが、その比ではない。

また、祖国を奪ったロシア帝国に反逆罪で捕らえられ、残虐な拷問を受ける男たち。流刑地シベリアに送られ、家畜以下の扱いを受けてなお、生きることを諦めない。

私たちは、アイヌの何を知っていたと言えるだろうか。

社会主義が生まれるまでに、どれだけの血が流されたのか、何も知らない。

知らなかったということを、この小説はいとも簡単に教えてくれる。

読んでいて、けっしてつるつると腑に落ちる文体ではない。どこかユーモラスな文体で、何度も読み返しながら、時間をかけて物語と取り組む。それが苦ではなかった。なんとなく劇画調というか、コミック漫画を読んでいるような印象があったからかもしれない。

 

以前にも似たような印象の小説を読んだ。

真藤順丈著『宝島』。ちょうど1年前の直木賞受賞作である。

自分たちの祖国、故郷、家族、友達……それを奪うものとは、とことん戦おうとする。生き抜こうとする。そんな沖縄の人々を描いている。

どちらも、圧倒的な迫力だった。

(どちらの著者も同じ41歳。コミック世代なのだろうか?)

「熱源」とは、生きようとする力。私はそう読み取った。

 

どちらも、おススメの本です。



おススメのエッセイ集:『あの日のスケッチ』松本泰子著2019年12月19日

 


古くからのエッセイ仲間でもある友人の泰子さんが、満を持して、エッセイ集を編みました。

 



落ち着いたサーモンピングの表紙を埋め尽くすように散りばめられたイラストは、すべて彼女の次男くんの描いたもの。素敵でしょう!



表紙だけではなく、ページのあちらこちらに、そのエッセイにふさわしいカットが飾られています。オリジナルのしおりまで作って挟みました。

  

ところで、泰子さんとは、20163月にふたりでパリ旅行をしているのです。

その時のエッセイ「女友達との旅」も載せてくれました。そして、そのエッセイには、白ワインのグラスの挿絵が添えてあるではありませんか。

思わず、にんまり……!

あの日の思い出が、シャブリの香りとともに、懐かしくよみがえりました。

どうもありがとう、泰子ちゃん。


 

あの旅のことを、私はほとんど書き残せなかったのです。帰国したその夜に、母ががんに侵されていることを告げられ、それからは超多忙な日々で、エッセイを書く余裕はありませんでした。

でも、今からでも、あの充実したパリの旅を書いておきたい。泰子さんの本を読んで思いました。

私が、エッセイの中でどんな登場をしているのか、って? うふふ、それはぜひ、買って読んでみてくださいな。

 

そのエッセイに限らず、どのエッセイにも、彼女の感性が光り、味わいがあり、同世代としても共感でき、聡明な女性の文章が心地よく胸に落ちるのです。

アマゾンでお求めになってお読みいただけたら、私もうれしいです。

 

また、彼女は、書き溜めたエッセイを本にまとめていく作業を、自分の「エッセイ工房」というサイトに詳しく書いています。エッセイに興味のある方、ご自分も本を出したいと思っている方、必見です。とても参考になりますよ。

こちらもおススメのサイトです。





直木賞候補たち、あっぱれ!!2019年07月02日



先月17日に、2019年上半期の直木賞候補作6点が発表になりました。

な、な、なんと、全員が女性!! 直木賞史上初だとか。

 

 朝倉かすみ『平場の月』

 大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』

 窪美澄『トリニティ』

 澤田瞳子『落花』

 原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』

 柚木麻子『マジカルグランマ』

 

いつもいつも、女性作家に頑張ってほしいと思っていました。闘争や殺戮ではなく、愛と平和に満ちた女性的な視点で、人間を見つめ、世界を描く、そんな小説が読みたい、と願っているのです。

今回は、もう言うことなし。誰が受賞してもうれしい!

 

私の予想というか希望としては、原田さん、柚木さん、窪さんといったところでしょうか。

私が最初に読んだ原田さんの作品は、『楽園のカンヴァス』。美術の好きな私は、こういう小説を待っていた、と思いました。その後も、実在の芸術家や作品をモチーフにした作品を次々に発表してきました。この手の小説を書かせたら、以前美術館のキューレーターの仕事に就いていたという彼女の右に出る人はいないでしょう。

美術とは関係のない小説、例えば『キネマの神様』『本日は、お日柄もよく』など、とても痛快で面白いのに、なぜか美術ネタとなると、力が入りすぎているように感じてしまうのは私だけでしょうか。どちらかというと優等生の模範答案のようで、非の打ちどころはないけれど、もう少し、ガツンと来る部分、毒を含むような何かがあってもいいのでは、と思わなくもありません。

とはいえ、美術の魅力を小説でも味わえるようにしてしまったこと、多くの人に広めたこと、その功績は、高く評価していいと思います。

ちなみに、今回の候補作『美しき愚かものたちのタブロー』は、国立西洋美術館の松方コレクション展とリンクした内容だそうで、さっそく読み始めたところです。美術館にも足を運んで、受賞を待ちたいですね。

 

窪さんの小説も好きです。昨年の候補作で、僅差で受賞を逃した『じっと手を見る』も良かったですが、私は数年前の『晴天の迷いクジラ』に感動しました。弱さを持った人々に向けた優しさが印象的で、好感の持てる作品でした。

彼女には、個人的な親しみも感じています。出身が東京都稲城市とのことで、私が20年もエッセイ教室を続けている町なのですね。そして、カリタス学園の卒業生でもあり……、応援したい気持ちが強いのです。

 

柚木さんの2年前の候補作『BUTTER』には圧倒されました。実在の死刑囚木島佳苗をモデルに、それを取材する女性記者が主人公という重い話。女性の心理にいまひとつついていけない気もします。でも、食の描写はじつに素晴らしい! よだれが出ました。

今回の候補作がグランマ、つまり高齢の女性のコメディタッチのお話と知り、ちょっと面食らっています。

若い頃から何度も候補になっているようで、素人予想では、彼女が本命かもしれませんね。

 

誰が受賞しても、めでたしめでたしの直木賞。

決定は今月17日、楽しみです。


おススメの本、星野源著『いのちの車窓から』2018年04月03日

 


始まりましたね、新年度。

私は初日早々、長男から風邪をもらって熱を出し、寝込んでしまいました。用意してあったエイプリルフールのネタも使えず、備えあれば憂いありの心境に陥ったのでした。

 

NHKの朝の連続テレビ小説も新しくなりました。

あら、と耳を澄ませば、テーマソングはほかならぬ源ちゃんの声。そこで、この本について書いたエッセイを皆さんにも読んでいただこうと思いつきました。

 

読んだのは1年ほど前ですが、ずっと紹介したいと思っていたのです。

最近になって、エッセイ仲間の勉強会で、「エッセイと私」というテーマが出され、ようやく書くことができました。

1600字のエッセイです。



 

目からうろこの1冊

 

4半世紀を超えて、エッセイを書き続けてきた。書きたいことは絶えずあったが、いつもすらすらと文章が生まれるわけではない。

最近では、ますます書きあぐねることが増えてきて、恒常的なスランプ状態だ。理由はわかっている。年を重ねるにつれ、これを書いたらいけないだろうかと気になったり、読み手を意識しすぎたりするうちに、書きたいことが書けなくなる。本心が、見栄と思惑とで着ぐるみのように覆われてしまって、自分は何を書きたいのかわからなくなるのだ。

エッセイに限らず、SNSやブログでの発信しかり、仲良しグループのラインの言葉もしかり。なんとなく窮屈な思いをするようになった。

そんなときに、1冊の本を手に取った。

『いのちの車窓から』というそのエッセイ集の作者は、星野源、36歳。旬のマルチタレントとして注目されている。けっして長身イケメンでもないし、歌や芝居が特別うまいわけでもないのに、主演ドラマも自作の主題歌も大ヒット。よくあるタイプのしょうゆ顔で、そういえば娘の彼氏にちょっと似ている。最初はそんな単純な興味だけだった。

 ところが、彼が3年前にクモ膜下出血で倒れ、完治して復帰したという事実を知って驚く。クモ膜下出血といえば、ひと昔前は若い人の急死の代名詞のようだった。ミーハー感覚のみならず、病気への無遠慮な好奇心も加わって、さらに興味が膨らんだのである。

本の冒頭のエッセイには、読者の期待に応えるように、手術のことが書かれている。「わかさぎ釣りの氷上の穴の如く額の骨を丸く削ってポコッと取り」、そこからメスを入れて脳の出血を止める手術をした。その傷痕は、直径7センチの円を描いて盛り上がったままだ。それがまるでコックピットの扉のように思えるという。

体という乗り物を星野源という精神が操縦していることの奇跡の実感が、手術後はさらに明らかに、リアリティを持って湧いてくる

 ここまで読んで、はたと気づいた。これこそ、自分を客観的に見つめるというエッセイの極意ではないか、と。

 エッセイの最後は次のように結ばれていた。

人生は旅だというが、確かにそんな気もする。自分の体を機関車に譬えるなら、この車窓は存外面白い

こうして彼は、「目の奥に張り付いた景色の残像と、自分の心の動きを、できるだけありのままに文章に落とし込む」という書き方をするようになった。どうやら彼は、一命をとりとめる手術を受けたことで、エッセイの本質をつかんだのかもしれない。

 この本は、雑誌『ダ・ヴィンチ』に連載されたエッセイをまとめたものだ。彼の仕事を取り巻く人々、子供のころの思い出など、内容は多岐にわたっている。何を書いても、具体的なエピソードがわかりやすく、心の機微もうまく表現されている。素直な文体も文章のテンポもよく、ウィットに富んだ表現もある。なおかつ全体を包み込む自然体の雰囲気が、読んで心地よい。「文は人なり」というがごとく、彼の人柄なのだろうか。人気があるのもうなずけるような気がする。

そもそも彼はメールを書くのが下手だったから、書くことを仕事にして文章修行を自分に課したという。一行コラムから始まり、上達するにつれて任される字数も増え、やがて書くことが楽しいと言い切れるまでになった。

タレントのエッセイなんて本人が書いているわけじゃない、といううがった見方もあるだろう。たとえ「チーム星野源」でも構わない。私はすっかり魅了されてしまった。

そう、彼のように書けばいいのだ。何を見たか、何を感じたか。それを素直につづってみよう。どう思われたいか、などという雑念は捨てて。

本を閉じると、まるで白内障の手術を終えた人のように、目の前がとても明るくなった。

 

 お断り:「紫色」の部分は、原文のままです。




いかがでしょう。おススメの1冊です。


第156回直木賞、速報!2017年01月19日

 



 以下の候補作品の中から、が受賞しました。

 

① 冲方 丁『十二人の死にたい子どもたち』

 ② 恩田 陸『蜜蜂と遠雷』

 ③ 垣根 涼介『室町無頼』

 ④ 須賀 しのぶ『また、桜の国で』

 ⑤ 森見 登美彦『夜行』

 

おめでとうございます。

いつも女性作家を応援しているので、今回はぜひ、『夜のピクニック』の恩田さんに受賞してほしいという思いから、『蜜蜂と遠雷』を電子本で読んでいるところでした。

残念ながら、まだほんの少し読み始めたばかりですが、とりあえず予想的中ということで喜んでいます。

続きを読む楽しみも倍増しました。


物語はピアノコンクールのシーンから始まります。

音楽というものが言葉で表現される。当然のことながら、その魅力にひかれつつ読み進んでいます。


皆さんも、読んでみませんか。

 

  




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