旅のフォトエッセイ:東松島へ(7)~続 あの店・この人~ ― 2013年07月03日
ゴローさんと一緒に写っている長身の男性が、太田さん。
東松島でお世話になったもう一人のナビゲーターである。
銀座での物産展のときには、チーム東松島を引き連れてやってきていたのだが、じつは千葉県出身で、震災の半年後に東松島に赴いたのだという。かつては青山や新宿にあるトレンディなインテリアショップで店長を務めていたこともある、というからなおさら驚く。
東松島の復興に向けて、何をしたらいいのか。それを見極め、具体化していく。彼のビジネスの能力がそんなところに生かされたのだろう。
「僕は、自分がボランティアだと名乗ったことは一度もない」
それが太田さんの矜持かもしれない。
彼が多くの信頼を得ているからこそ、彼に案内されていく先々で、娘と私が過分なおもてなしを受けたのだ、と思っている。
ケーキのジュリアンさんにも、相栄商店の高志さんにも、マルヤ鮮魚店のゴローさんにも……。
彼の愛車アウディで、あちこち案内してもらった。
太田さんのおかげで、ここでも初対面の店長に歓待を受けた。
牡蠣小屋、海鮮堂。奥松島の野蒜(のびる)という地域にある。
昨年の物産展のときに親しくなった慶子さんという女性から、この牡蠣小屋のチラシをもらった。彼女は関東の人だが、復興支援の活動を続けている。
「あっちに行ったら、ぜひ寄ってあげてね」
今回はその約束を果たしたくて、太田さんに連れていってもらったのである。
店長は、「慶子さんには、とても世話になっているんです」と言って、私たちにごちそうしてくれる、という。彼女の代わりでいいのだろうか。
恐縮してしまった。でも、ありがたくごちそうになった。
まずは、大粒の牡蠣を選んで、ざざっと鉄板にあけて……
O157の被害が出てからは、保健所からのお達しで、かならず、ふたをして蒸し焼きにしなくてはならなくなったそうだ。
待つこと5分。ふたを開けると……
片手に軍手をして殻を持ち、片手にナイフを持ってこじ開ける。ちなみに私たちは、親子そろってのサウスポー。
店長は、カメラを向けても顔を伏せてしまう。
「写真は魂を吸い取られるから、困る」という。東北の男性はシャイである。
「写真は魂を吸い取られるから、困る」という。東北の男性はシャイである。
一口食べると、濃厚な牡蠣の味が広がった。なんて美味しいのだろう。
今まで食べてきた牡蠣は何だったの?
何も味付けはしないが、臭み、苦みはまったくない。ただただ、豊かな海の味。
こんなふうに殻付き牡蠣を鉄板で焼いて食べたのは初めてだ。またしても、人生のヨロコビが増えた。
店長、ごちそうさまでした。
慶子さん、太田さん、ありがとうございました。
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野蒜は本当に被害の大きかった地域です。
がれきだけは片付いたものの、まだまだ復興には程遠い印象です。それでも、去年に比べたら、お客さんが増えた、と店長は言っていましたが……。
慶子さんに代わって、お願いします。
皆さんも、ぜひ奥松島の海鮮堂へお出かけください。
このバケツ1杯で1,500円という良心的な価格。
都会では味わえない本物の牡蠣の美味しさを、ぜひどうぞ。
(もう少し続く)
都会では味わえない本物の牡蠣の美味しさを、ぜひどうぞ。
(もう少し続く)
旅のフォトエッセイ:東松島へ(8)~松島へ~ ― 2013年07月07日
今日は、七夕。
七夕を別名「笹の節供」といい、今日は「笹かま」の日でもあるそうです。
七夕祭りといえば、仙台。「笹かま」といえば、宮城県の名産品ですね。
明治時代に、この辺りでヒラメの大漁が続き、消費地である仙台に盛んに運び込まれても持て余すほどだったそうです。そこで眼先のきく魚屋がヒラメで蒲鉾を作ってみたが、蒲鉾独特の腰の強さがない。試行錯誤の末、鰹節で味をつけ、みりん・酒・砂糖・卵白などで練り合わせて焼くことで、パリッとして保存のきく、笹の葉っぱの様な形の蒲鉾ができあがった。
これを「笹かま」と呼ぶようになったのは、仙台藩主伊達家の家紋「竹に雀」の笹にちなんでいるそうです。(「暮らし歳時記」Facebookページより)
七夕を別名「笹の節供」といい、今日は「笹かま」の日でもあるそうです。
七夕祭りといえば、仙台。「笹かま」といえば、宮城県の名産品ですね。
明治時代に、この辺りでヒラメの大漁が続き、消費地である仙台に盛んに運び込まれても持て余すほどだったそうです。そこで眼先のきく魚屋がヒラメで蒲鉾を作ってみたが、蒲鉾独特の腰の強さがない。試行錯誤の末、鰹節で味をつけ、みりん・酒・砂糖・卵白などで練り合わせて焼くことで、パリッとして保存のきく、笹の葉っぱの様な形の蒲鉾ができあがった。
これを「笹かま」と呼ぶようになったのは、仙台藩主伊達家の家紋「竹に雀」の笹にちなんでいるそうです。(「暮らし歳時記」Facebookページより)
瑞巌寺の参道で見かけた伊達家の紋章。
というわけで今回は、清美さんが連れていってくれた松島の「松かま」という蒲鉾屋さんを紹介しましょう。
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東松島からは車で30分ほどで、松島に着く。
日本三景の一つ、風光明媚な観光地である。
松島湾に浮かぶ島々のおかげで、大津波をまぬがれ、被害も小さかったという。
笹かまぼこの老舗「松かま」は、のり工房矢本とも取引があるそうだ。
これが、松かま門前店。
モダンな作りで、2階は松美庵カフェというおしゃれなカフェになっている。
津波の後は、この辺り一帯の道路も冠水した。店舗の中には汚泥が入り込んでいた。それでも、3か月後には営業を再開したという。
店頭の巨大笹かまの模型にすり寄るオバサンふたり。
店内では、笹かま手焼き体験ができる。
娘がかじっているのは、「むう」という名のお豆腐揚げかまぼこ。社長さんからのサービスで、こっそりいただいたもの。
アツアツの焼きたてで、甘くてとてもおいしかったです! ごちそうさま。
あ、ありました! のり工房の塩のり発見!
屋上テラスからは、松島湾の絶景が見渡せる。
お盆には、花火見物に最高の場所。(ただし、VIPのみご招待だそうです)
帰りには、瑞巌寺の五大堂を見物。
伊達正宗が再建した桃山建築だといわれる。重要文化財だ。
その小島に渡るために架けられた「すかし橋」。
橋げたの隙間から下に海が見える。五大堂へ行くときに気持ちを引き締めることができるように、と造られたという。
ゴールデンウィークのさなかで、松島は観光客でにぎわっていた。
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エッセイの書き方のコツ(18):磨きあげる ― 2013年07月19日
今日は、月に一度の「エッセイクラブ稲城」の日でした。このクラブの講師として、稲城に通うようになって早13年になります。
メンバー6名は市民の皆さん。エッセイを楽しむ自主的な活動をしています。
稲城市は、東京都西部の多摩川沿いに位置しており、昔から梨作りが盛んな土地です。
そろそろ、収穫の近づくころ、梨畑をこっそりのぞいてみました。
茶色い紙のドレスの中では、梨の実がだいぶ大きくなっていましたよ。
メンバー6名は市民の皆さん。エッセイを楽しむ自主的な活動をしています。
稲城市は、東京都西部の多摩川沿いに位置しており、昔から梨作りが盛んな土地です。
そろそろ、収穫の近づくころ、梨畑をこっそりのぞいてみました。
茶色い紙のドレスの中では、梨の実がだいぶ大きくなっていましたよ。
梨の花は毎春、桜が終わったころに満開になるのですが、さて、この9月、もうひとつの「なしのはな」が咲く予定です。
グループの作品集『なしのはな』第5号が発行になるのです。
この作品集には、過去のエッセイのなかから1人2編を自選して掲載します。
すでにクラスでの合評を終えた作品ですが、発行にあたって、もう一度書き直して合評をします。
「よりよい作品になるように、磨きあげるのですね」
そう言ったのは、現在、会の代表を務めるNさん。最若手の50代の女性ですが、今回の作品集の責任者として、頼もしい存在です。
作品を磨き上げる作業は、推敲という作者自身の孤独な仕事であるはずです。
でも、仲間がいれば、合評を通して、そのためのヒントやアドバイスを、たくさんもらえます。
「切磋琢磨」という言葉もあります。
エッセイに限らず、同じ楽しみを持つ仲間は、本当にありがたいものですね。
エッセイクラブ稲城では、お仲間を募集中です。
稲城市中央公民館に通える方であれば、市民でなくてかまいません。
例会は、毎月第1・第3金曜の午後。
ご興味がありましたら、ぜひ一度、見学においでください。
写真は、『なしのはな』第2号と第4号。
4号の表紙の絵を描いたのは、メンバーのYさんです。
手作りの温もりが伝わってきますね。
旅のフォトエッセイ:東松島へ(9)~大高森に登って~ ― 2013年07月28日
松島は、天の橋立、宮島と並んで、日本三景の一つである。
その松島の美しい景色を眺める四つのスポットが、「松島四大観」。それぞれ、壮観、麗観、幽観、偉観と呼ばれている。
今回はその一つ、壮観をめざして、太田さんの案内で、大高森へ。東松島市南端の宮戸島にある標高106mの山だ。
「20分ぐらい、山を登るんだけど、大丈夫っすか」
やさしい太田さんが気遣ってくれる。よほどのお年寄りと見られているらしい。
「地下鉄に乗るときも、エスカレーターは使わないで、鍛えてるんだからね。平気よ、これぐらい」
と、ちょっとオーバーに、ちょっと強がって答える。
身長185㎝の太田さんが、長い歩幅ですたすたと登っていく後ろから、ちょこちょことついていく。
見よ、この軽快な足取りを……!
その松島の美しい景色を眺める四つのスポットが、「松島四大観」。それぞれ、壮観、麗観、幽観、偉観と呼ばれている。
今回はその一つ、壮観をめざして、太田さんの案内で、大高森へ。東松島市南端の宮戸島にある標高106mの山だ。
「20分ぐらい、山を登るんだけど、大丈夫っすか」
やさしい太田さんが気遣ってくれる。よほどのお年寄りと見られているらしい。
「地下鉄に乗るときも、エスカレーターは使わないで、鍛えてるんだからね。平気よ、これぐらい」
と、ちょっとオーバーに、ちょっと強がって答える。
身長185㎝の太田さんが、長い歩幅ですたすたと登っていく後ろから、ちょこちょことついていく。
見よ、この軽快な足取りを……!
途中、奥松島縄文村が見下ろせた。
このあたりは、津波の被害が少なかったそうだ。
ヘタることもなく、見晴らし台に無事到着!
西側に臨む松島湾には、春の息吹が満ちあふれている。
煙るような山には新緑が芽吹いている。樹木の花々も満開。
何も言うことはない。絶景そのものだった。
が、しかし……
北側には、野蒜から大曲浜、その先の石巻まで、海岸線が続いている。
大きな被害を受けた地域だ。
震災前の眺めと比べることはできないのだが、たしかに海岸沿いには何もない。剥げ落ちてしまったかのような印象を受ける。
島々のおかげで難を逃れた地域と、そうではなかった地域。ここに立つと、それを見て取ることができた。
自然はときとして猛威を働く。そのとき、命を守ってくれるのも、地形という自然そのものなのだ。
震災から2年もたってしまったけれど、ここを訪れた意味はあった、と思った。
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次回をもって、「東松島へ」シリーズは最終回とするつもりです。
長い間お付き合いくださった皆さま、どうもありがとうございます。
教材は……ジュリアンのゼリー!? ― 2013年07月29日
ジュリアン。
覚えてくださっていますか。東松島の美味しい洋菓子店です。
その中でも、この夏一番のお気に入りなのが、2種類の和菓子風味のゼリー。
覚えてくださっていますか。東松島の美味しい洋菓子店です。
その中でも、この夏一番のお気に入りなのが、2種類の和菓子風味のゼリー。
日本酒ゼリーは、地元宮城のお米だけで仕込んだ純米酒と、日田天領水という名水で作り上げた奇跡の美味しさ。
まろやかなお酒の香りがふんわりと広がり、幸せな気分になれること請け合い!
もう一つは、黒酢ゼリー。
酸味もほどほどで、青梅がごろんと丸ごと入っていてうれしくなる。甘さと爽やか
酸味もほどほどで、青梅がごろんと丸ごと入っていてうれしくなる。甘さと爽やか
さが見事に調和した美味しさです。
さて今日は、その2つを袋に詰めて、準備完了。
明日は、銀座三越デンマーク・ザ・ロイヤルカフェのコミュニケーション・プレイスです。エッセイクラスにご参加の皆さんに、召し上がっていただくのです。
え、これが教材……!?
そうなんです。ここからエッセイがひらめいてくる……というわけです。
食べてみたかったわ、と残念がっている方は、通信販売でも買うことができます。
「復興デパートメント」のサイトで、ぜひどうぞ!
(写真も当サイトからお借りしました)
次回のエッセイクラスは、9月24日(火)。お申し込みを受け付けています。
すでに定員の半分ほどが予約済みですので、お早めにどうぞ。
銀座のエッセイサロン ― 2013年07月30日
今日は、銀座三越のデンマーク・ザ・ロイヤルカフェで、エッセイ・プレイスを開催しました。
今回の参加者は、これまで最多の9名の方がたです。
そのうち、初めての方が5名。
エッセイ・プレイスの特色は、参加型の講座だということでしょうか。
事前に作品を書いて提出してもらいます。
提出しない方も、どんどん感想や意見を言っていただきます。
今回の作品は3編。
まず、「学生のとき以来、初めて作文を書いてみました」と言われたSさん。
アイスクリームの思い出や魅力にあふれていて、読んだ人は誰もが、今すぐ食べたい、と思ってしまうようなエッセイ!
アイスクリームを愛してやまないSさんの思いがあふれた楽しい作品でした。
続いて、今回が5回目の参加というYさんの作品。
さすがに心得たもので、セリフを実際と少しだけ変えて読みやすくする工夫があり、皆さんのお手本になるような書き方でした。
自分の怒りや悔しさを率直に表現されて、Yさんご自身は少々気恥ずかしさも感じられていたようですが、その素直な自己開示こそが、読み手の共感を得たのだと思います。
最後は、猫を飼っていた頃の思い出をつづったTさんの作品。
猫たちを描きながら、ご家族やご近所の人々とのふれあいが、浮かび上がっています。
シリーズで書き続けることで、自分史、家族史にもなるような、じつは貴重な記録なのだ、とあらためて感じさせられる味わい深いエッセイでした。
写真は、店内中央に据えられたロングテーブルでの、毎回同じようなショットです。でも、これが最後。
次回のエッセイ・プレイスのときには、このテーブルがリニューアルされているそうです。
楽しみでもあり、ちょっぴりさびしくもある今日のランチでした。
デザートは、フルーツの盛り合わせ。
見た目も楽しくカラフル。フルーツの酸味は蒸し暑い夏にぴったりのさわやかさです!
昨日のブログでもお伝えしたとおり、おみやげは、東松島ジュリアンのゼリー。
味わいながら、どんなエッセイが生まれるのでしょうか。
手にしているのは、昨年、銀座で開催していた東松島物産展でお友達になったOさんです。来週、東松島の近くの女川町に転居されます。
新天地に行ったら、いろいろ見たこと感じたことを、たくさん書いて、どんどん発信してくださいね。これからも、ずっと応援しています!
コミュニケーション・プレイスのサイトでも、今日の様子が紹介されています。
ぜひ、ご覧くださいね。
http://www.theroyalcafe.jp/blog/
次回のエッセイクラスは、9月24日(火)。お申し込みを受け付けています。
残席わずかになっていますので、お早めにどうぞ。
ダイアリー・エッセイ:いつものように ― 2013年07月31日
今朝も、6時過ぎに目覚まし時計が鳴った。
スヌーズ2回目で完全に止める。
起きだしてリビングのカーテンを開けると、夫も起きてきた。
短く「おはよ」。
いつものように、朝食はパンとコーヒー。
各自でかんたんなサンドイッチやピザトーストをこしらえて、無言で食べる。
冷えた桃をむく。甘くておいしい。
じゃ、行ってきます。
今日は特別気をつけてよ。
今日何かあったら、これまで頑張ってきたのが台無しだからな。
――めずらしく冗談を言いあったので、笑顔で送り出すことができた。
38年勤続の夫、とうとう最後の出勤の朝。
庭の窓辺の朝顔がいくつも花をつけていた。
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