自閉症児の母として(17):ジェットコースターに乗せられて③2013年11月05日


手術センター

 ここから先は手術センター。付き添いの私も入ることができない。

「じゃ」

「じゃ!」とモトは手を挙げた。こんなにいい笑顔で。
 今見ると、泣けてくる。


病院の天使たちと

 明るいユニフォームの看護師さんたちに連れられて、手術室に向かう。彼女たちが、付き添いの天使に見えた。

 前日、この中の看護師さんが一人、病室にやってきた。 
「手術に立ち会いますので、どうぞよろしく」
「こちらこそ、お世話になります」
 彼女のお子さんも、自閉症児だそうだ。まだ4歳だが、言葉が出ていないという。
「ずいぶん立派になるんですね」と、モトの成長をほめてくれた。
「大丈夫、20年もたてば、お子さんもこうなりますよ。成長しない子どもはいないわ」
 先輩ぶって、彼女を励ましたけれど、うれしくなったのは私。こんなところにもお仲間がいて、ちょっと緊張がほぐれたような、ふっと安心できたような……。
 働くお母さん、がんばって!



モトの腕時計をして待つ。

 前回の手術の時と同じように、モトが四六時中つけている腕時計を、私の腕につける。麻酔で眠っている間の、時の番人。そして、一緒にこの時を闘うのだ。

 それにしても、モトはなぜ、手術をするほどの病を背負うのだろう。全身麻酔の手術もこれが3回目。この7月にも、おでこの粉瘤を部分麻酔の手術で除去したばかりだ。
 それらは、自閉症というコミュニケーションの障害とは直接関係はない。やはりどこか身体的にも弱いものを持っているのだろうか。
 こうした試練のたびに、どうしてモトは、こんなにいいかげんな母親の私のところに生まれてきたのか、と不思議に思う。
 最近は、その答えがわかるような気がする。
 私は包み隠すことが苦手で、何でも話して、聞いてもらって、何でも書いて、読んでもらう。そうすると、苦しみは減って、喜びは膨らむ。息子のこともそうやって乗り越えてきた。
 現在では、フェイスブックやブログのおかげで、ますます簡単に自己開示ができるようになっている。
 27年前、神さまはそれをお見通しで、私にモトを授けてくれたのだ。

病室の窓から
病室の窓から

 病室で待っていると、台風一過で、空はどんどん晴れ上がっていく。
 手術はかならず成功する。疑いようもなかった。
 雲の上から、神さまがぐっと親指を立てているのが、見えるようだったから。

雲の上に……

                              (続く)



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自閉症児の母として(18):ジェットコースターに乗せられて④2013年11月07日

 

 手術は予定どおり、1時間半で終わった。
 主治医の先生は、
「年季の入ったヘルニアでしたよ」と言われた。ずいぶん前から出ていたのではないか、と。
 もっと早く気がついてあげればよかった。かわいそうに……と一瞬思った。
 いやいや、そんなこと言ったって、いくら知的障害があるからって、27歳の息子のコカンをチェックする母親なんてどこにいるものか。それは無理というもの。父親だって、そうそう観察することもないだろうし。
 運が悪かった、ということにしよう。とにかく、腸がはみ出さない処置をきちんとやってもらったのだ。もう大丈夫。
 とはいえ、再発の可能性はゼロではない。右側が治ったとしても、左側に起こることもありうるそうだ。あとは、本人が今回の異変をよく覚えておいて、おかしいと思ったら、すぐ教えてくれることだ。その点も、もう心配ないだろう。

酸素マスクをつけながら、しゃべるモト。

 酸素マスクをつけて、病室に戻ってきた。
 麻酔から覚めて、少し興奮状態にあるようで、何やらよくしゃべる。
「ステラは、買ってきた?」
 ああ、ステラね。

 NHK
出版の「週刊ステラ」は、毎週水曜発行のテレビ番組のガイドブックだ。
 小学校に上がるころには、彼の愛読書の一つになっていて、発売日の朝一番にこれを買わないと落ち着かなかった。自閉症児のこだわりである。
 ところが、「ザ・テレビジョン」や「週刊テレビガイド」に比べたらマイナーな雑誌なので、どこの本屋にもあるというわけではない。彼を安心させるために、私が買って学校に届けたり、旅先では売られている本屋を何軒も探し回ったり、ずいぶんと苦労してきた。
 今では、毎週水曜日の朝、自分で駅の売店に買いに行く。震災の直後は発売が遅れて、親はひやひやしたが、彼は状況を理解し、落ち着いて待つことができた。成長を感じたものだ。

 この日の朝も、病院内はもちろん、近くのコンビニも探してみたが、やはり置いてなかった。夜になったら、私が買ってくるという約束をしておいた。
「あとで、いちど家に帰ったときに、駅で買ってきてあげるから、待っててね」 
 聞き分けよく、納得してくれた。本当に偉くなったと思う。

 その夜。
 息子は、翌朝の回診まで、寝たままの状態でいなければならなかった。半身を起こすことも許されず、トイレは尿瓶だった。
 1回目は、看護師さんが手際よく処理してくれた。室内のトイレに流せばいいだけのこと。2回目は私が同じようにやっておいた。わざわざ看護師さんを呼ぶまでもない、と思ったのだ。
 それが、悪夢の始まりだった。
 昨夜の台風で寝不足だった私は、消灯時間とともに深い眠りに落ちた。……が、2時間後には、モトに起こされた。どうやら点滴のせいで、尿意を催すらしい。やれやれ、と処理をして、また爆睡。また起こされる。その次は1時間後だった。
 よほどナースコールのボタンを押そうかと迷った。でも、付き添いの母親のプライドが眠たい脳裏をちらりとかすめて、それを拒むのだ。
 とうとうその夜は、一晩で7回、おしもの世話をするはめになってしまった。出産直後の夜中の授乳を思い出していた。寝たと思うと赤ちゃんの泣き声で目を覚ます。そんな昔もあったっけ。
 翌朝、看護師さんにそれを愚痴っても、笑って相手にしてくれなかった。
 あらら、何か変。あなた方のお仕事ではなかったのかしら。入院費用に含まれているはず。患者本人が、付き添いの母親でなくては用が足せないというならいざ知らず、私は夜勤の看護師ではないんだけどな……。
〈呼んでくれたらよかったのに、お母さん〉と、その一言がほしかっただけなのかもしれない。それとも、付き添っておきながら、やはり私の勝手な言いぐさかしら。
 モトは、看護師さんのほうがよかったと思うけど、ね……

 回診の結果、特に異状もなく、トイレに行ってよいという許可が下りた。
 朝ごはんも食べてよし。最初は全粥食だと聞いていたのに、出てきたのはリッチなパン食。白米大好きな彼は、ちょっと不服そうだったが、きれいにたいらげた。もう心配ない。
スープにはウインナも入っていた。撮る前に食べられた。


 私はといえば、夜も眠れない2日間の付き添いで、心身ともに疲れ果て、限界だった。今夜からは泊まらないことを決意する。
「母さんは、家に帰って寝てきてもいい?」
 ちょっと考えてから、彼の返事。
「じゃあママは、おひらきだ!」


退院!

 その後の経過も順調で、当初の予定どおりに45日で退院することができた。
 最後は、看護師さんに手首のネームバンドを切ってもらう。

 ママ業がお開きとなる日も、そう遠くはなさそうだ。


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 皆さま、お見舞いの言葉、励ましの言葉をありがとうございました。
 ジェットコースターは、少し高くなったところで静かに停止したようです。


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並木エッセイの会2013年11月10日


この秋、新しく誕生したエッセイサークルをご紹介します。
その名も、「並木エッセイの会」。横浜市金沢区並木で活動しています。



今年の4月、並木コミュニティハウスの主催で、全10回のエッセイ講座が始まりました。それが終わったところで、自主的なサークルになったのです。
メンバーは40代から70代までの男女10名ほど。エッセイへの関心が高い方がたばかりで、まとめ役の方も自然と決まり、順調にスタートしました。

エッセイの内容はというと、闘病のことや、大切な人を亡くした悲しみが綴られることもあれば、プロ野球観戦の実況中継さながらの文章や、トンビに襲われるという笑える話まで、実に多彩。
毎回充実した2時間があっという間に過ぎてしまいます。
月に一度の課題を書くだけでなく、公募エッセイなどにも挑戦しようと、情報を集めて、意欲的です。

私は、引き続き、サークルの講師を務めています。
自宅からは、みなとみらいを抜けて、横浜のベイエリアを見下ろしながら、40分ほどの爽快ドライブ。これもまた、ひそかな楽しみなのですね。



金沢区並木は、その名のとおり、豊かな並木道が続く住宅街。春にはツツジの花が咲き、初夏にはヤマモモの実がなり、今月の初めにはイチョウが色づき始めていました。訪れるたびに、四季の移ろいが目を楽しませてくれます。



現在のところ、メンバーの追加募集はしていませんが、ご興味のある方、また、ご自身でエッセイのサークルを作って楽しんでみたいという方、ご相談に応じますので、お気軽にお問い合わせください。

hitomi3kawasaki@gmail.com


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銀座エッセイサロンのご案内2013年11月14日




以前からご案内しているエッセイサロンin銀座。
銀座三越のデンマーク・ザ・ロイヤルカフェで開催のコミュニケーション・プレイスの一講座として行われます。

このコミュニケーション・プレイスのコーディネーターである大戸尚美さんは、古い友人です。長男が小学校1年のときに、彼女のお嬢さんも同じクラスでした。つまり、「ママ友」なんていう言葉もなかった時代のママ友。家も近く、道端でおしゃべりしたものです。障害のある息子をいつもあたたかく見守ってくれました。
その後、ご主人の転勤でアメリカへ。かつて国際線のキャビンアテンダントだった彼女は、帰国後もいろいろとキャリアを積み、能力を生かしたお仕事をしてきました。コミュニケーション・プレイスもそのひとつです。


この秋、彼女はNaomi Place という会社を立ち上げました。コミュニケーション・プレイスのほかにも、イベントプロデュースなどをてがけていくそうです。

これからも、彼女の活躍を、応援していきたいと思います。



さて、次回エッセイサロンは、1126日(火)に開催します。
銀座はクリスマス一色で、華やいだ雰囲気です。
ちょっと早起きして、お気に入りのおしゃれをして、銀座までお越しください。
新しい出会いと、楽しい語らいと、とっておきの料理が、お待ちしています。
朝は寒くても、帰りには体も心も温まってお帰りいただけることでしょう。

初めての方でもまったくご心配はいりません。
エッセイを書いてお持ちくださっても大歓迎。作品を皆さんで読み合いましょう。

お問い合わせ・お申込みは、コメント欄にお書きください。
または、hitomi3kawasaki@gmail.com まで。

詳細は、コミュニケーション・プレイスのサイトをご覧ください。
そちらからもお申し込みいただけます。


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ダイアリー・フォトエッセイ:鎌倉へ2013年11月16日

今日は、所用があって、家族と鎌倉へ。
用事をすませて、ちょこっと散策。

裏道の塀の上に、ピラカンサスの枝が。
まるで真っ赤なノラ猫が塀を乗り越えようとしているみたい。




長谷駅の近くに、オリーブオイル専門店Fresh Oliveがオープン。
オリーブジェラートは、さわやかなおいしさ。



住宅街のなかに発見、レストラン・マンナ。
次回はここでディナーがいいかな……。





 てくてく歩いて、由比ガ浜へ。
 「わ、海が見えた!」 この瞬間が好き。




穏やかすぎる海。
サーフィンは無理でしょ。



  ♪砂に書いた名前消して 波はどこへ帰るのか……
  大好きな歌が口をついて出る。




地震を感じたのは、この写真を撮った6時間後だった。





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ダイアリーエッセイ:いい夫婦の日だそうで2013年11月22日

朝の番組は、フジテレビ。長男が番組決定主導権を握ったときからだ。
長いことポンキッキを見ていたっけ。
今では、朝起きると、すでに「めざましテレビ」が始まっている。
最近では、長男が8時からNHKの朝ドラを見るようになったので、私はめざましテレビがニュースではなくなると、早めにNHKの「おはよう日本」に切り替えてしまう。

今朝もいつもどおり、娘が7時に出勤すると、次は夫が起きてきた。
テレビはすでにNHK。
息子たちが起きる時間まで、しばらく夫と二人きりでテーブルに向き合った。
すると、折あしくといおうか、
「今日、1122日は『いい夫婦の日』です!」
と、一段と明るい声がテレビから聞こえてきた。NHKの好きそうな話題だ。
まずい! こういうのを夫婦で見るのは大の苦手である。
二人とも、テーブルの向こう側とこちら側で、首を90度曲げて、黙ってテレビを見ている。金縛りにあったように、チャンネルを替えることもできない。
わざわざこの日を選んで婚姻届を出すカップル。手をつないで仲良しを体現してみせる夫婦。見ていると恥ずかしくて脂汗が出そうだ。
「夫婦円満の一番の秘訣は、よく話をすることだそうです」
それも、二人無言で聞いた。


さて、夜になった。
3人の子どもたちが、みな夕食にそろわない。じつに珍しく夫婦二人だけの夕食と相成った。
仕方がない。ボジョレーヌーボーに合いそうなおつまみをこしらえて、楽しい話題を提供してあげることにしよう。やれやれ……。

ここ数年、結婚記念日すら忘れたふりをしている私たち。(いや、私だけ?)
「いい夫婦の日」ぐらい仲良くしなさい、という神様のいたずらか、はたまた、おしおきなのかもしれない、と思ったのだった。




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ダイアリーエッセイ:いい風呂の日だそうで2013年11月26日

「いい夫婦の日」が終わって、やれやれと思ったら、今日は「いい風呂の日」だそうで。語呂合わせだけではなく、本当にお風呂がありがたく、いとしく感じられる時期でもある。

今年は特に、あらまあ、と思った。
昨日から3日間の予定で、マンションの4軒隣に住む母が、お風呂のリフォームの真っ最中なのだ。文字どおり、「いい風呂の日」ではないか。
母は90歳になるが、身の回りのことは自分でこなして、なんとか独り暮らしを続けている。

この夏、築25年のマンションのわが家を大々的にリフォームした。
もちろん、浴室も新しくした。明るいし、温かいし、気持ちいいことこの上ない。それを見た母がうらやましくなって、「うちも」と言ったのである。
母の浴室はこれまでも、入口や浴槽に手すりをつけてもらっていたが、最近のお風呂はさらに段差もなく、浴槽も低くなって、入りやすい。
母をTOTOのショールームに連れていくと、浴室のタイプ、壁や浴槽の色など、自分の好みにこだわって選んだ。
明日の出来上がりを楽しみにしているところだ。


ところで、本邦初公開のわが家のお風呂は……


四方のピンク色の壁には、このレース編みのドイリーのような模様が、湯気のなかに、ぽわんぽわんと見え隠れする。それを眺めながら、ゆっくりと湯につかる。気持ちまでやわらかくなって、一日の疲れが溶け出していくようだ。

今年からは365日、いい風呂の日になった。


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