おススメの本、東山彰良著『流』 ― 2015年08月20日
ご存じ、今年上半期の直木賞受賞作品で、つまり最新の受賞作である。
【西暦2000年以降の直木賞受賞作を読破する】という目標を打ち立ててから、何年たっただろうか。いつもぐずぐずしていると、あっという間に半年ごとの選考時期が来て、新しく受賞作が増えていく。
現在は全部で41作品。増えたばかりの1編を読んでみることにした。
この作品は、目標達成のためでなかったら、食わず嫌いの私が自分から手に取ることはなかったろう。台湾を舞台にした青春ミステリー。中国人の祖父の物語……。とくに私の興味を引く内容でもないし、日常との接点も見当たらない。ノルマという縛りだけで機械的に電子本を購入し、iPad-miniに流し込んで読み始めた。
のっけから、排せつ物の話……。冗談じゃないなわぁ。
途中からは、ゴキブリの大群が出現。それだけで音を立てて本を閉じたくなる。それでも、大群はゴキブリホイホイを船のように移動させる――ホイホイの窓からも黒いギザギザの肢が何本も突き出され、まるでケンブリッジ大学のボート部のようにホイホイを漕ぎ進んだ(原文)――というシーンには、真夜中の読書の最中に声を立てて笑ってしまう。
主人公は、喧嘩ばかりする。暴力シーンがたびたび繰り返されるのも閉口した。しかも、コミック雑誌の劇画が目に浮かぶような文章だ。どうして男の人っていうのは、こういうやくざ映画みたいなのが好きなんだろうか。
これが、文才?
……などなどと、ケチばかりつけながら読み進んでいた。「おススメ本にはなりえない」と思っていた。60パーセントを読むまでは。
ところが、半分を超えると、だいぶ印象が変わってきた。主人公の骨太な人格と繊細なハートの熱さがじわじわと私を魅了し始める。家族への情の深さ、悪友への思いやり、そして、恋。
気がつけば、海を越えた壮大なミステリーのとりことなり、文字どおり、物語の奔流に押し流されていた。
いやはや、すごい小説だった。臭くて、乱暴で、熱くて、まじめで、いとしくて、せつなくて……。
面白かった。
おススメです!

