追悼 平幹二朗さん2016年10月27日

 

先日、俳優の平幹二朗さんが亡くなりました。

朝のニュースに言葉を亡くしました。

 

923日の夜、平さんの舞台『クレシダ』を観たばかりでした。

それからちょうど1ヵ月後の1023日、急逝されたのでした。

 

舞台ではもちろん、お元気そのものでした。軽やかな身のこなし、朗々とした声の響きに、だれがひと月後の死を予感できたでしょう。

連続ドラマにも出演中で、次の舞台も決まっていたそうです。まだまだ活躍してほしいと思っていました。

本当に残念です。ご本人が一番悔しい思いで逝かれたことでしょうけれど。

 

これまで、親しい友人を介して、直接平さんにチケットを手配してもらっていたので、毎回特等席でした。だからというわけではありませんが、生の演劇の魅力を私に教えてくれたのは、平さんの舞台だったといっても過言ではありません。

 

昨年2月、さいたま芸術劇場で、5月に亡くなった蜷川幸雄氏演出で上演された『ハムレット』も観ました。

このときのことは、「別世界を訪ねて」というエッセイにつづり、ブログ記にも載せました。


追悼の気持ちで、もう一度掲載します。



 

  別世界を訪ねて 

 重い扉を開けると、中は暗かった。一歩また一歩と、ゆっくりと通路を進む。空間が開けても、靄がかかっていて、なお暗い。

暗闇に目が慣れてくると、昔懐かしい古井戸が見えた。その小さな広場を、壊れかかった二階建ての木造家屋が取り囲んでいる。

突然、背後で男性の大声が聞こえた。私の横を走り抜けて広場へ向かう。

やがて、黒ずくめの服をまとった細身の男性の独白が始まる。苦しみに顔をゆがめ、ときに涙しては悲嘆にくれている。

「生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ」

 彼の口から、あまりにも有名なセリフがこぼれ出す。

2月のある日、自宅から1時間半かけて、さいたま芸術劇場にたどり着いた。舞台は蜷川幸雄演出のシェイクスピア作『ハムレット』。タイトルロールは藤原竜也だ。10年前に華々しくデビューしたのも、同じ蜷川ハムレットだった。今回、精魂込めての再演を、私は初鑑賞。彼は、一見ナイーブな美少年のイメージだが、低い声の響きも、迫力ある剣術試合の立ち回りも、じつに男性的である。

この芝居を引き締めているのは何といっても平幹二朗だ。ハムレットの父を殺してデンマーク王の座についたクローディアスと、殺された元王の亡霊との二役で、大物俳優の貫録が十二分に発揮される。その一方で、井戸の水を汲んで頭からかぶるシーンでは、80歳を過ぎた裸体を観客の目にさらすことも惜しまない。役者魂に脱帽である。

みずからの配役になりきって、よどみなくセリフを語る演者たち。人物が入り乱れるさまをスローモーションでやって見せたり、役者がお内裏様や三人官女に扮した巨大な雛壇が出現したり……と、意表を突く演出の数かず。日常を忘れ、まさしく生で創り出された別世界に引き込まれて堪能しつくした3時間半だった。




 

心からご冥福をお祈りします。

 




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