自閉症児の母として(45):50周年に感謝です2017年09月18日



先日、社会福祉法人「嬉泉(きせん)」の50周年のお祝いに招待されました。

自閉症の長男が3歳の時からお世話になってきたところで、私の子育て人生を全面的に支えてくれたと言っても過言ではありません。

今でも、30歳を過ぎた息子とともに、お世話になることもあります。この先もずっと、関わりを切らすことはないでしょう。

 

転勤で静岡に住んでいるとき、2歳半の長男は自閉症と診断されました。

当時、NHKの教育テレビで放映されていた自閉症の療育番組で、嬉泉が運営する東京都世田谷区の施設の様子を見たのです。

ここに行こう。ここに行けば、きっと治る……。

そう思って、翌年の春には転勤を希望して東京に戻ってきました。

3歳からの幼稚園代わりに、テレビで見た「めばえ学園」に通い始めました。その園長先生からは母親もたくさんのことを教わりました。

「子どもの犠牲にならないで。自分の人生も大事にしてね」

今でも私の座右の銘です。

 


先生は、すでに80歳とのこと。この写真を見て、「あらやだ、おばあさんに撮れてる」と言われましたが、なんのなんの。相変わらず歯切れよい話しっぷりも、背すじのピンと伸びたところも、とてもお年には見えませんでした。

 

 

嬉泉の誕生には、感動的なエピソードがあったのです。会のはじめに挨拶された2代目理事長が、それを語ってくれました。



 

昭和40年ごろ、日本の自閉症研究の草分けともいえる石井哲夫先生が、日本女子体育大学で児童心理学を講義されていた。その中で、「まだ日本には自閉症児のための施設がない。ぜひ、広げていきたい」と述べたそうです。その講義を受けていたのが、理事長の妹さん。家に帰って父上に石井先生のことを話したところ、父上は関心を示し、石井先生から直接話を聞きました。そして、先生の情熱に感銘を受け、私財をなげうって支援することを決意されたのです。こうして財団が設立され、翌年には社会福祉法人となり、父上が初代理事長に就任しました。

彼は、戦後おせんべい屋さんで財を成したのですが、日頃から私利私欲はなく、収益はすべて世のため人のために使う、という考えの持ち主だったそうです。お子さんたちにも「美田」は残さなかったとか。

50年前に、石井先生の受容的交流方法という愛情あふれる自閉症の療育方法と、初代理事長の稀有な福祉の心とが出会いをはたした。そして嬉泉が誕生したというわけなのです。

日本の自閉症児の家族にとって、なんとありがたい出会いだったでしょうか。

 

さらに、2代目理事長のスピーチは続きます。

「石井先生初めたくさんの先生方、各方面で関わってくださった方がたに支えられて、50年目を迎えることができました。でも、忘れてはならないのは、それぞれの施設で、毎日食事を作ったり、お掃除をしたりと、裏方で働く方がたのおかげだということです」

そう言って締めくくられました。

組織のトップが、組織の底辺のことまで気にかけている。なかなかできることではありません。温かい気持ちになり、いいお話を聞いたと思いました。

 

現在、嬉泉は、東京と千葉県にいくつもの事業所や施設を構え、大きな組織になりました。地域にも根を下ろし、療育・相談・保育という三つの柱で、支援を必要とする人々のために活動を展開しています。

初代理事長はとうに亡くなり、石井先生も3年前に他界されましたが、若い後継者の方がたが、嬉泉をしっかりと受け継いでいくことでしょう。



 

ところで、この日の会場は、ホテルオークラ東京のアスコットホール。200名近い招待客は、その後、中華料理をごちそうになりました。

余談ながら、奇しくも35年前、このホテルの金屏風の前に座ったのは、ほかならぬ花嫁姿の私。時の流れに感無量のひとときでもありました。

 

 



コメント

_ 片割れ月 ― 2017/09/20 21:37

こんばんは♪
すっかりご無沙汰して(*゚.゚)ゞポリポリ
記念式典は盛会だったようで、なによりも元気そうで何よりです。
気分転換になったのでは?
奇しくも・・・(笑)
さぞかし綺麗な花嫁さんだったことでしょう(*^^*)ポッ

_ hitomi ― 2017/09/21 20:45

片割れ月さま、
こちらこそすっかりご無沙汰しております。
片割れ月さんも、しばらくお父さまの介護をしていらしたから、その大変さはお分かりいただけることと思います。
精神的なストレスが重くて、ブログもなかなか書けなくなりました。片割れ月さんのコメントも来なくなったし、何度も止めてしまおうかと思うのですが、その勇気もありません。
片割れ月さんはどうしているのでしょう……と覗いてみれば、私とさほど変わらないマイペースで楽しいエッセイを書いておられるので安心しました。だれの制約もないのですから、私ものんびりと書けるときに書きたいことを書けばいい、と思うことにしました。
ありがとうございます。
清川虹子、南沙織、天地真理……懐かしいですね~♪

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