自閉症児の母として(55):800字のエッセイ「奇跡のメガネ」2019年01月12日



     奇跡のメガネ

 

 インターネットで、アメリカ発のこんな動画を見た。

クリスマスツリーが飾られた室内で、ティーンエイジャーの男の子が、プレゼントを開けている。出てきたのはサングラス。かけたとたん、「違う!」とびっくり。かけては外し、笑い転げている。

次のシーンは屋外。誕生日プレゼントにもらったサングラスをかけた男性は、言葉も出ないまま、まるで赤ちゃんのように、両手を握りしめて喜びを表している。左右を眺めてはまた両手を振るばかり。動画を撮る側のうれしそうな笑い声が聞こえる。

3人目の少女は、メガネをかけるなり、

「何これ。これが本当の世界? こんなふうに見えてるの?」とつぶやく。それ以後は泣いてしまって言葉が続かない。

 次の男性は、このメガネが何なのか知っていて、初めてかけてみる。すぐに外して、両目を押えて泣き始める。

 この動画に登場する7名の男女は皆、カラーブラインド、つまり色盲なのである。初めて補正メガネをかけた瞬間の感動が、見る者の胸をも熱くする。誰もが「オー、マイゴッド!」を繰り返し、誰もが涙なしではいられない。泣いている彼らに、かならず誰かが近寄って優しくハグをするのも、印象的だった。

 動画を見て、息子のことを思った。色盲の世界を知るには、カラー写真をモノクロで見ることで、ある程度理解できるだろう。でも、自閉症の息子は、相手の胸中が見えないコミュニケーションの障害だ。あげる・もらう・くれるなどの言葉が正しく使えないのは、自分と他人の区別や、その関係性が把握できないのである。彼が見ている世界は、一体どうなっているのだろう。想像するしかない。

それが見えるメガネがあったら、どなたか母親の私にプレゼントしてくださいな。 





 

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