切ないひな祭り2020年03月07日


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1ヵ月のご無沙汰でした。

ご多分にもれず、私も新型コロナウィルスの拡大防止のため、たくさんの予定が、中止や変更になっています。

ところが、タイミングがいいことに、ちょうど2月の下旬から、家中の模様替えを始めたところで、出かける予定がつぶれるたびに、手を付ける箇所が広がっていくのです。連日朝から軍手をはめて、古い家具を処分したり、クロゼットの棚を片づけたり、さらには大型4Kテレビや新しい家具を買い入れたり……と、断捨離と大掃除にどっぷり浸かってしまいました。いまだに終わりそうにありません。

 

先日、都内に暮らす娘に、「たまには帰れないの?」と電話をしました。

「私たち若い人は発症しないだけで、もうウィルス持ってるよ。みんなそう思ってる。家に帰ったりしたら、うつしちゃうから、帰らないほうがいいでしょ」

なんだか悲痛な叫びに聞こえて、こちらも切なくなりました。

学校は一斉に休みになっても、企業戦士たちは感染リスクが高い満員電車で出社して、働き続けなくてはならない。テレワークや時差出勤を推奨されたって、そうはいかない職種もある。職場では社員同士でそういう話をしているらしい。

わが身の危険も顧みず、身を粉にして働いていた横浜港のクルーズ船の職員たちのようだわ、と思いました。

 

遅ればせながら、桃の節句の翌日、雛人形をクロゼットの奥からようやく運び出し、2年ぶりに飾りました。帰らない娘の無事を祈りながら。





 



自閉症児の母として(63):今なすべきこと2020年03月14日

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新型コロナウィルスの感染防止対策で、テレワークや時差出勤が奨励されています。長男の職場も、930分の開始時刻が30分遅くなりました。

 

今お世話になっているグループホームからは、「この時期も福祉施設としてのサービスに努める」というお知らせがあり、ほっとしていたのですが、数日後には、

「電車通勤はリスクが高いから、しばらく会社には行かずに、同じ系列の生活介護の施設に通ってもらえないだろうか」という連絡が来ました。

 

息子は片道15分ほど電車に乗ります。とはいえ、手洗い、マスク着用など、普段から徹底しているし、体も丈夫で基礎疾患などもない。その点では一般的な社会人とほぼ変わりません。

グループホームの側からしてみれば、一人でも感染者が出れば、スタッフも利用者も全員が濃厚接触者となり、大変なことになるのは目に見えている。最善の策を取りたい気持ちもよくわかります。

その申し出に即答はできませんでした。

 

息子は世の中のニュースにとても関心を持っています。自閉症の彼にとって、この世界は混沌としている。だからこそ彼を取り巻く世界を、彼なりに理解し、把握していくことが、心の平穏を保つことにつながります。

ところが、現在の彼を取り巻く世界といったら、エレクトーンのレッスンもしばらく休止。大好きなJリーグも開催延期。大相撲も無観客で行われる。オリンピックさえも危うい。そして何より新型コロナウィルスはまだまだ感染の予測が難しい……。経験したことのない現在の状況のなかで、彼なりにやむを得ない事情を理解し、緊張しながらも耐えているのです。


そんななかで、大きな支えとなっているのは、日常のルーティンを続けること。グループホームで自立した生活を送り、時間は少しずれてもいつもどおりに出勤し、プライドを持って仕事を続けていくことだろうと思うのです。それなのに、未知の施設に通うとなると、それこそ彼の支えはなくなり、精神的な安定も崩れてしまうのではないだろうか。そう思えました。

 

一日考えて出した答えは、息子には今までどおり通勤を続けさせようということでした。そのため、電車通勤が心配ならば、その時間を少しでも短くして、リスクを減らすことに協力する。というわけで、その日34日の終業時から、息子を職場の近くでピックアップして、グループホームまでアッシー君を務めることにしたのです。朝の出勤時だけは協力が難しいので電車を使わせてもらう。それでも、週末の帰宅も合わせれば、電車の利用は半分以下になります。

苦渋の決断でしたが、グループホームには快く受け入れてもらうことができました。

 

もともと車大好きな息子は、新たなルーティンが気に入ったようで、車での移動には問題なし。

職場の昼休みにかならず電話をかけてきて、「いつもの駐車場で待ってるからね」という母の言葉を確認して安心するようです。

車内ではまず用意したおやつを食べ、それからくつろいだ様子でゲームを始めます。

私にとって、毎日夕方2時間近い時間を取られるのは、けっしてお安い御用とはいかないけれど、息子同様もともと車が大好き。西に向かうフロントグラスには、西日がまぶしかったり、たなびく雲がダイナミックだったりと、早春の空に意外な発見があって楽しめます。コーヒー片手にサザンを聴きながら、ストレス発散のためのドライブだと思うことにしました。

 

もっとも、毎日こんなことができるのも、私のエッセイ教室や趣味の集まりがすべて中止になったからです。

小中高の学校が休みになって、仕事を持つ保護者の皆さんはさぞやお困りのことでしょう。想像に難くありません。

私もいつまでアッシー君を続けるのか、そろそろ予定を決めていかなければ。予測不能の出来事が苦手な息子のためにも。

 

今日も、みぞれが降りしきる中、昨日からわが家に泊まっていた息子をホームまで送ってきました。

 


 


直木賞受賞作『熱源』を読んで2020年03月18日

 


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今年1月に第162回直木賞を受賞した川越宗一氏の長編小説である。

明治初期の文明の波を乗り越えようとするアイヌたちと、祖国の独立を願うポーランド人。樺太の地で出会い、やがてヨーロッパや東京、果ては南極大陸にまで出向いていき、人生を賭けた冒険の道を走り続ける壮大な物語だ。さらにそこに、明治の重鎮大隈重信、言語学者の金田一京助、作家の二葉亭四迷、南極探検家の白瀬中尉などなど、著名な人々が彼らと関わっていく。

 

「病気の種を体に入れるなんて、気持ち悪い」

そう言ってワクチンを拒んだアイヌの村人たちが、天然痘やコレラに、次々と感染して死んでいく。そのすさまじい場面には思わず目を覆いたくなった。

期せずして現在の人類もまた、未知のウィルスとの闘いを強いられているが、その比ではない。

また、祖国を奪ったロシア帝国に反逆罪で捕らえられ、残虐な拷問を受ける男たち。流刑地シベリアに送られ、家畜以下の扱いを受けてなお、生きることを諦めない。

私たちは、アイヌの何を知っていたと言えるだろうか。

社会主義が生まれるまでに、どれだけの血が流されたのか、何も知らない。

知らなかったということを、この小説はいとも簡単に教えてくれる。

読んでいて、けっしてつるつると腑に落ちる文体ではない。どこかユーモラスな文体で、何度も読み返しながら、時間をかけて物語と取り組む。それが苦ではなかった。なんとなく劇画調というか、コミック漫画を読んでいるような印象があったからかもしれない。

 

以前にも似たような印象の小説を読んだ。

真藤順丈著『宝島』。ちょうど1年前の直木賞受賞作である。

自分たちの祖国、故郷、家族、友達……それを奪うものとは、とことん戦おうとする。生き抜こうとする。そんな沖縄の人々を描いている。

どちらも、圧倒的な迫力だった。

(どちらの著者も同じ41歳。コミック世代なのだろうか?)

「熱源」とは、生きようとする力。私はそう読み取った。

 

どちらも、おススメの本です。



『感謝離 ずっと一緒に』を90歳で初出版!2020年03月22日

 

エッセイ仲間の河崎啓一さんについて、昨年7月の以下のブログで紹介しました。覚えていらっしゃるでしょうか。

 

 2019714 反響を呼んでいる「断捨離」のエッセイをご存じですか。

 

5月、朝日新聞に「『感謝離』ずっと夫婦」という投稿が載り、多くの読者に感動を与えました。亡くなった奥さまの遺品に、感謝しながらお別れをする愛情たっぷりで軽妙なエッセイです。

まず、「断捨離」の提唱者やましたひでこさんが、新聞紙上で読んで感激し、ブログに取り上げました。

世の中には、先立たれた家族の遺品と別れることができない人が大勢いるのでしょう。反響も大きかったので、朝日新聞はさらに特集記事を載せています。

ツイッターでもリツイートが続きました。

関西のラジオでも取り上げられました。

さらに、やましたひでこさんの番組、BS朝日「ウチ、断捨離しました!」の中で、やましたさんが河崎さん宅を訪問し、ご対面が実現しました。

 

そして、反響はとどまるところを知らず、大手出版社、双葉社からオファーがあり、河崎さんの本を出版することになったというわけです。



 

河崎さんのエッセイは、ユーモアと軽妙な語り口のなかに、情の豊かな品格のある文章が持ち味です。

この本では、独り語りのような文体に編集されており、本来の持ち味とは一味違っています。だからこそ、ご高齢の方にも読みやすく、読書の習慣があまりなくても、同じ境遇の方々に手に取ってもらえることでしょう。
そして、少しでも明るい気持ちになってもらえるならば、著者として本望なのではないでしょうか。

読売新聞の広告にも掲載され、売り上げが伸びているようです。

 

皆さまにも、ぜひお読みいただければ、と思います。

アマゾンのサイトでお買い上げいただけます。

 

また、やましたひでこオフィシャルブログでも紹介されていますので、よろしかったらご覧ください。

 

河崎さん、90歳の快挙、本当におめでとうございます! 

奥様の一周忌に、最高のプレゼントとなりましたね。

 

 



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