おススメの本、ソン・ウォンピョン著『アーモンド』2020年06月05日


(スマホの方は、こちらでお読みください)

韓国人女性作家の小説で、2020年本屋大賞の翻訳小説部門で第1位になりました。すでに13ヵ国で翻訳され、日本でも重版されています。

推薦の言葉は本屋さんにお任せするとして、私の個人的な興味をお話ししましょう。

 

主人公の少年ユンジェは、生まれつき脳のアーモンドと呼ばれる扁桃体の部分が通常より小さい。それは感情がわからないという障害を意味するのです。家族が通り魔に襲われる事件に巻き込まれても、顔色ひとつ変えませんでした。

 

はじめに新聞広告でその内容を知った時、すぐに読もうと思いました。私には二つのことが頭に浮かんだのです。

まず一つ目は、脳の障害を持つわが子のこと。感情がわからないというわけではないし、不幸な事件も起きずにこれまで成長してくれました。

それでも、相手の心が読めないという同じような特質はありそうです。

子どものころ、絵本の文字が読めないと、「これはなあに」と聞いてくるのですが、本は自分に向けたまま、私からは見ることができませんでした。

今でも、電話での会話で、「今日は何を買ったの」のような質問に、

「これ」と答えることもしばしば。相手には見えていないということがわからないのです。

 

ユンジェのお母さんが、彼を専門家に診てもらったところ、自閉症のような発達障害ではない、という診断でした。それでも、わが子のために猛特訓。人の感情を学ばせようと、必死にあれこれ教える場面では、わが身とダブりました。少しでも困らないように、世の中で通用するように、生きるすべを身に着けてほしい。障害児の母の一途な思いは、どこの国でもどんな障害でも同じなのですね。

 

もう一つ思い出したのは、天童荒太著『ペインレス』という小説。体の痛みを失った男と、心の痛みを感じない女、どちらも文字どおりの意味です。

まるで官能小説かと思いきや、医学的見地というメスでスパッと切られ、哲学的見地という問いかけに苦しめられる。とにかく衝撃的で、エネルギーを吸い取られるような小説でした。

これまで優しいまなざしを持った『永遠の仔』や『悼む人』と同じ作者だとは、どうしても思えませんでした。

 

話を『アーモンド』に戻しましょう。

ユンジェの語り口は、感情がわからない分、無駄がなく、透明な水の流れのように読む者の胸にしみてきます。彼の純粋さが感じられるのです。

私は、二つの関心事などは忘れて、ユンジェの成長を見守り続けました。


「感動のラスト」には、あえて触れないでおきましょう。

皆さんにぜひともおススメしたい今年一押しの本です。

そして、作者にはぜひとも続編を読ませてほしいと願っています。



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