おススメの本、ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』2020年09月04日


今年は、本の当たり年!

コロナ対策の自粛生活のおかげで、本を読む時間が増え、いつもよりたくさん読めているだけではなく、いい本に巡り合っている気がします。

友人が回してくれる本はどれもすばらしい。いつか読もうと思って本棚に眠らせている本の中にもいいものがありました。じっくり味わう心の余裕があるのも一因かもしれません。

 

2019年にアメリカで最も売れた本 600万部突破」

という新聞広告に目がとまりました。読者のコメントには、感動の言葉が並んでいます。これは面白いにちがいない、読んでみようと思ったのが、この本。さっそく電子本で読み始めました。


 

「湿地の少女」と呼ばれる主人公は、環境の悪い地域に暮らす貧しい階層の家族の末っ子でした。ある日、母が去り、姉たちも、仲の良かった兄も、最後まで残っていた父親までも家を出ていき、彼女は置き去りにされてしまいます。

それでも、温かい救いの手を差し伸べてくれるのは、黒人の夫婦。やはり差別の中で生きる人々でした。

孤児に教育を受けさせようと、役所の担当者が現れて、学校に連れていくのですが、[dog]のつづりも知らないのかと笑われ、二度と学校へは行きませんでした。彼女は幼いながらもプライドを持ち、自由であることを選択したのです。

 

たった一人で小屋に住み、孤独と闘いながらも、湿地の生物たちと友人のように心を交わします。とはいえ、ただのサバイバル小説ではありません。彼女は知性を持ち、字を覚えると、たちまちたくさんの本を読み、生物学的な知識を持った湿地の研究者に成長していくのでした。


やがて思春期を迎え、人並みに恋を知ります。それでも、宿命のように置き去りにされ、ふたたび孤独が訪れる。孤独と偏見と差別に苦しみながらも、彼女はけなげに生きて抜いて、一人の女性として自立していきます。

 

物語は、過去と現在を行き来しながら、もう一つの殺人事件を追っていくのです。その事件と彼女との関係が明らかになって、裁判へと発展していく頃には、読み手はがっちりと物語に捕らわれてしまい、もう逃げられない……。

叙情豊かな文章の中にも、陪審員裁判というリアルな現実が入り込んできて、その落差に揺さぶられるような読書感覚でした。

 

これだけ書いてしまっても、たいしたネタバレではないはずです。

アメリカの根強い人種差別問題などが盛り込まれ、しかも手に汗握るエンターテイメントとして十分読める。ベストセラーになった理由がわかりました。

ぜひ本をお手に取ってみてください。

読み終えるころには、こんな下手な紹介文で想像するよりも10倍面白かった、と言われることでしょう!




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