さよなら、オデッセイ2020年10月07日

 

7年間の全走行距離25000㎞。

赤信号で停止すると、メーターが狙っていた数をぴたりと示したので、急いでハンドル越しに写しました。20日前の写真です。

 

愛車の3代目オデッセイと、明日お別れをします。4代目はありません。

24年前から乗り継いできたホンダ・オデッセイと、永遠にさよならです。

わが家のひとつの時代が終わったような気がしてちょっぴり寂しい。

 

そもそも2代目からこの3代目に買い替えたのは、母の乗り降りがしやすいように、という思いがありました。

(その時のことは、2013127日の記事に詳しく書きましたので、よかったらそちらもお読みくださいね)

 

7年前の納車時の写真です。 


ナンバーは44-55。その名も「ヨシコ号」、ヨッシーと呼んでいました。

ヨシコは母の名前です。

デイサービスの送迎にも、病院通いにも、ずいぶん活躍してくれました。

でも、今の母には車いすごと乗り込める専用車が必要で、もうヨシコ号の出番はなくなりました。


 

今年の春には、想定外の任務が待ち受けていました。息子の通勤の足となったのです。



グループホームから障害者の職場に通う長男は、コロナ禍のおかげで、電車通勤の自粛を求められました。そこで、出勤を週に3日だけに減らして、私が車で送迎することとなりました。小雪舞う季節から次々と花が咲いていく初夏の頃まで、移ろう季節の3ヵ月間、思いがけず楽しいドライブでした。息子の様子を見守ることができて、母親としては安心のおまけつきでした。


 

いろいろな機会に、ヨッシーの助手席に乗ってくれた友人も数え切れません。

仲良しグループで、にぎやかに旅行もしました。

一番の思い出は、娘とその友達を乗せて、宮城、福島と1000キロの旅をしたことでしょうか。

家族旅行もたくさんしました。最後の家族旅行は、先月GoToキャンペーンを利用して箱根へ。高原のススキの穂が揺れて、ヨッシーの引退に手を振っているようでした。


 

そして、なによりヨッシーとふたりきりのデートは、至福の時間でした。

好きな音楽を流し、車窓越しの空を眺めながら、海岸線を走り、高速道路を飛ばす時、一緒にストレスも吹き飛んでいく気がしました。

ヨッシー君、ほんとにありがとね♡ 

 

もう7人乗りは必要ありません。

これからの私に必要なのは、ドライブサポート機能が充実していること。もちろんエコなハイブリッドも。

今度は5人乗りの車に乗り換えて、まだまだハンドルを握り続け、走り続けます。たとえ、もみじマークを付けるようになっても……(たぶん)。

 

 



1年前のエッセイに、春馬君がいた2020年10月19日

 

自分のエッセイリストの中には、内容が思い出せないタイトルもたくさんあります。

今回、ここに載せるのも、そんなエッセイでした。たった1年前なのに、何を書いたか思い出せない。ひょっとしてブログにはすでに載せたろうか……などと不安に思うほどの記憶の不確かさ。

だからこそ、エッセイに書き留めておくことが今こそ大事なのだと感じるのです。

 

長い前置きはさておき、「おススメは悪天候」をお読みください。

ちょうど去年の今頃は、強暴な台風も襲来して、雨の多い時期でした。

エッセイストグループの勉強会で、テーマ「お得感」で書いた800字エッセイです。

 

 

  おススメは悪天候

 

1025日は、前日から大雨の予報だった。でも、行くしかない。

 

上野の東京都美術館で開催中のコートールド美術館展。夫が職場で招待券を2枚もらった。ただし会期半ばこの日までの期限付きだ。印象派のコレクションが展示され、タダ券とあらば行かぬ手はない。ところが、10月上旬に海外旅行をした私は、帰国後は超多忙。気がつくと最終日になっていた。

 

2日前、夫から「一緒に行く?」と誘われたのに、「絵画展は一人で見るものよ」と偉そうな口をきいて断ったので、バチが当たった。朝から土砂降りで風もある。めんどくさいな。でも、夫の手前、行くしかない。

レインコート、パンツ、スニーカーに防水スプレーをたっぷり吹きかけて出かけたけれど、徒歩4分の駅に着くまでにすでにびしょびしょ。上野の山でふたたびぐしょぐしょ。それでも、館内は優れた空調のおかげか、ほどなく乾いて、雨のことは忘れた。

 

それより、受付を通ったとたん、がらがらで驚く。いつもここでの美術展は、平日でもたいてい混んでいる。まして、大々的に宣伝され、人気のモネやゴッホが並ぶのだから、混んでいて当然。その先入観は一気に吹き飛んだのである。悪天候のせいにちがいない。

500円払って、音声ガイドを首にかけてもらった。俳優三浦春馬の若々しい声が解説をしてくれる。それを聞きながら、絵と向き合う。「理屈はわかるけど、セザンヌはつまらない」、「やっぱりモネの絵がピカイチよね」、「モジリアニの女性はどうしてこんなに不幸そうな顔なの」などと胸の中でつぶやく。春馬君と2人で見ている気分、悪くない。

 

ほとんどの絵を、真正面から近づいたり離れたりして、満足のいくまで鑑賞できた。

美術展は大雨の日に限る。タダ券がさらに三倍お得になる。

 

 



自分のエッセイの中で、今は亡き三浦春馬氏に出会いました。

改めて、ご冥福をお祈りします。

 


テーマは「思い出の曲」でつづる800字エッセイ2020年10月28日



「アルプス一万尺」

             

20代半ばのころ、ほんの4ヵ月だけロンドンで暮らした。英国人家庭にホームステイして、近くの英語学校に通ったのである。ヨーロッパの各国からやって来る学生たちと交わる生活は、毎日刺激に満ちていた。

ホームステイ先からは、住宅街を30分歩いて通う。学校はそんな地域の一角にある古いお屋敷を利用した小さな所だった。

 

帰り道は、同じ方向の生徒と一緒になる。同じ家庭に住むホームメイトのスイス人女性マリスと、別の家から通うイタリア人のファビオ。マリスはキリンのように背が高く大きな目をした社交家で、1つ年下だけれどお姉さんのように頼もしい。ファビオは黒ぶちメガネに足元は革靴。いかにもイタリアのお坊ちゃんという感じの十代の青年だ。

3人のおしゃべりは尽きることがない。3国共通の食べ物を発見したり、共通だと思っていた習慣が自国特有だと知って驚いたり……。

 

ある日のこと、マリスが、

「同じ歌をそれぞれの言葉で同時に歌ってみない?」

と提案した。それが「アルプス一万尺」だった。

「アルプスいちまんじゃーく、こやりのうーえで、アルペン踊りをさあ踊りましょ!」

ふたりも負けじとドイツ語とイタリア語で声を張り上げる。何を言っているのかわからないけれど、メロディはまったく一緒だ。

「……ラーンラランランララララ、ラララララーン、ヘーイ!

と、最後だけは声がそろった。その歓声はすぐに笑い声に変わる。言葉は違っても、曲は同じ。そんな当たり前のことを実感して、うれしくておかしくて、いつまでも笑い転げた。秋の黄昏の中、若い声が閑静な住宅街に響いていた。

 

マリスとはその後も友情が途切れず、今ではSNSでつながっている。

ファビオはどうしているだろう。今年、新型コロナのパンデミックのニュースに、ふと心配になる。

 


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