ご報告のためのエッセイ:「未来のために、今」 ― 2022年12月20日
病気の話は暗くなりがち。できればエッセイに書いたりブログに載せたりしたくない。ずっとそう思っていました。
でも、今回ばかりは、避けられません。治療のために、ご迷惑をおかけすることになるからです。きちんと説明ができるように、エッセイにしたためてみました。
ご理解いただければ幸いです。
還暦を過ぎた頃、健康診断で骨密度不足を指摘された。骨粗しょう症である。
治療を始めたが、月に一度の飲み薬は副反応で熱が出た。サプリに切り替えてウォーキングやジム通いを続けても、骨密度は一向に改善しない。それでも医師は、
「加齢とともに下降線をたどるのが普通です。減らないだけで良しとしましょう」と、計測のたびに繰り返した。
今年の春、人間ドックで高カルシウム血症だと言われた。骨密度が低いのは骨からカルシウムが溶け出しているからで、副甲状腺の異常が疑われるとのこと。
寝耳に水だった。副甲状腺がどこにあってどんな役割をしているのかも知らなかった。
その後、骨粗しょう症専門のドクターに診てもらった。骨密度47パーセントという低さに驚き、すぐ大学病院の内分泌内科に紹介状を書いてくれた。
副甲状腺は、喉の下に四つほど米粒大のものが並んでいる。そこから出るホルモンは、体内のカルシウムのバランスを調えるのだ。ところが、このホルモンが過剰に分泌されると骨のカルシウムをどんどん放出してしまう。副甲状腺機能亢進症と呼ばれ、骨密度の低さはそこに原因があるらしい。
病院ではたくさんの検査を受けた。喉元に超音波を当てると、4つのうちの1つが大きく腫れていることがわかった。さらに精度の高いシンチグラムという検査では、微量の放射性物質を注射して映像化し、腺腫を特定する。その腫瘍が悪さをしているのだ。
「4つもあるんだから、1つ取ってしまえばいいんです」と、担当医はこともなげに言う。私は若い頃に、2つの卵巣のうち1つを摘出して一命をとりとめた。そのあとでも、ちゃんと3人の子を授かっている。人間の体はうまくできているのだ。
「何が原因で、腺腫ができたんでしょうか」
「それがわかればノーベル賞ものですよ。がんと同じです」
この腺腫のがんの確率はほんの1パーセント。映像を見てもまず良性だと聞いて、安心する。
骨折したこともなければ、何の自覚症状もない。それでも喉を切り裂く手術を受けるべきか。迷いはあった。
女優のアンジェリーナ・ジョリーは、乳がんの遺伝子を持ち、発症確率が高いので、両方の乳房を切除したという。そこまでの勇気は必要ない。
そして、万一手術の後、骨密度増加の効果が出なかったとしても、手術をしないまま、びくびくと行動にセーブをかけたり、ましてや手を突いただけでポキッ、くしゃみしただけでポキッとなったりするよりはずっといい。後悔だけはしたくない。
医学を信頼して手術を決めた。
病院に通い始めて半年、ようやく本格的な治療が始まる。
手術は来年2月13日に決まった。なんと、昨年亡くなった母の、生きていれば100歳の誕生日に当たる。
母の長寿を受け継ぐのだ。未来は明るいにちがいない。
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