南フランスの旅のフォトエッセイ:③マティスのロザリオ礼拝堂へ2024年07月04日

 

そもそも、私がこのマチスの礼拝堂の存在を知ったのは、昨年の夏、東京でのマティス展でした。その展示と動画を見た時、ここへ行きたい。次にヨーロッパへ行くなら、この教会のある南フランスへ。そう思ったのでした。

 

▲昨年のマティス展で購入したA5サイズのクリアファイル。見開きにポケットもあり、今回の旅ではバッグに入れて便利に持ち歩いていました。

 


礼拝堂のステンドグラスを透した光が美しいのは午前中、とりわけ冬の11時ごろだ、とマティス自身も言っていたそうです。ステファニーさんに朝早く出発してもらったのですが、ヴァンスの街に着いた頃にはあいにくの曇り空になっていました。


▼まず、道路わきに車をとめると、屋根から伸びた細くて華奢な十字架が目に入ります。向こうの黄色い建物はドミニコ修道会のものです。

 

▼道路と反対側に回ると、庭があり、ブーゲンビリアが咲き、ブドウ棚の葉も茂っていました。見晴らしがよい丘の中腹に位置することがわかります。


▲ここが入り口。憧れのチャペルにはるばるやって来たことに胸ときめかせながら、足を踏み入れたのですが、中に入ると、まず礼拝堂の手前にあるのは、美術館のような展示スペース。2016年に訪れる人々のために設けられたのだそうです。チャペルの中は撮影禁止なので、ここでたくさんの写真を撮りました。

そして、ようやくその奥へ。


(▲上2枚の写真は、絵はがきを写したもの)


それは小さな礼拝堂で、50人も入れば満席になりそうな椅子が並んでいる。奥まった位置には別の椅子が並び、それはシスター(修道女)たちの座る場所だそうで、祭壇は、一般の人びととシスター席の両方に向くように、斜めに据えてありました。

祭壇の背後には、何かの植物の絵のステンドグラスが……。切り絵をモチーフにしたその柄をよく見ると、黄色いのは葉ではなく花で、ネイビーの部分が楕円形の葉だと気づきました。そう、サボテンです。そういえば教会の庭にも同じ形のサボテンがありました。

(▲これも絵はがきです)


▲サボテンのステンドグラスの外には、本物のサボテンが負けじと大きく茂っていました。

 

横の壁には、天井まで届きそうな細い窓がいくつも並び、ステンドグラスには、ネイビーと黄色の大胆で鮮やかな切り絵の葉が、コバルトグリーンを背景に描かれています。「生命の木」と呼ばれているそうで、ここから日が差し込めば、天国のような光に満ちた空間が生まれるのでしょう。

▼これは、展示スペースにある写真。作者マティスが写っています。


白いタイルの壁には、晩年のマティスが好んだシンプルな黒い線で描かれた聖母子像や、十字架の道行きの絵がありました。

下の写真は、その聖母子像の下絵を描いているマティスの写真です。



 

この「十字架の道行き」というのは、キリストが死刑判決を受けてから、十字架を担って歩き、三度倒れ、十字架にはりつけにされて死に、墓に葬られるまでの14の場面を描いたもの。一般的に教会では、それぞれの14枚の絵が礼拝堂の壁に順を追って掛けられているのですが、マティスはコンパクトに一枚の絵に収めています。

ステファニーさんは、私が「道行き」という言葉を使ったことに耳をとめ、その日本語を確認していました。ガイドとして、今なお日本語のブラッシュアップを心がける姿勢に頭が下がります。


 

マティスは晩年、がんに侵されます。その療養中に献身的な看護をしてくれた女性がいたのです。話し相手でもありモデルとしても、画家に尽くしました。やがて彼女がドミニコ会の修道女となり、会のための礼拝堂を作りたいと望んでいることを知り、マティスは自分にやらせてほしい、と申し出ました。そして、4年の歳月をかけて、彼の芸術のすべてを注ぎ込んで完成させたのだそうです。

その3年後、彼は天に召されました。

ピカソもシャガールも、芸術を通して深い親交があったはずなのに、彼の葬儀に姿を見せなかったといいます。マティスがロザリオ礼拝堂を請け負ったことに嫉妬し、その出来栄えにも嫉妬したのかもしれません。

そんな人間臭いエピソードが、聖なる場所である礼拝堂に絡んで語られる。じつにおもしろいと思いました。

光に満ちたニースの空、風、海、植物たち。そしてこの地にやってくる芸術家たちの人間模様。何もかも神様は微笑みながら見ておられる。マティスのことも、やさしく天国に迎え入れたことだろうと、ひそかに想像してみました。

 

マティスが亡くなったのは、私の生まれた年。それもほんの2ヵ月前だったのです。ここまでやって来たのはたんなる偶然だとわかっていても、日常を離れた旅先で、不思議な巡りあわせを感じました。


                (④に続く)

 


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