南フランスの旅のフォトエッセイ:⑪エッセイ:「4」にご用心! ― 2025年03月11日
大変お待たせいたしました。
「南フランスの旅のフォトエッセイ」を半年ぶりに再開します。
今回は、1800字のエッセイにまとめましたので、お読みください。

「4」にご用心!
ニースに着いた翌日、朝からマティスやルノワールのゆかりの場所を訪ねたあと、ステファニーさんに教わったおすすめのレストランで、夕食をとることにした。予約をせずにお店に向かったので、室内は予約で満席だったが、テラスの席に案内してもらえた。外のほうがさわやかで気持ちがいい。
南仏のワインと言えば、ロゼ。まずはそれを頼んで乾杯してから、翻訳アプリを使ってはメニューを解読し、次々と注文していく。
「大好きなラタトゥイユは外せないよね」
「ニースに来たんだから、ニース風サラダじゃなくて、ずばりニースサラダだね」
「牛肉の料理も食べたいね」
「デザートは、ラベンダーの香りのクレームブリュレにしてみようか」
いつものようにおしゃべりに花が咲く。料理は期待以上に美味しい。なんとも形容しがたいスパイスの利いたラタトゥイユの美味しさに感激し、紫色のクレームブリュレに驚き、ワインも進んだ。
すっかり心地よくなったところで、テーブルで会計を頼む。レシートには手書きの文字で10種類ほどの料理やドリンク名が並んで、最後に合計149.5とあった。2人で26000円あまり。円安のせいでけっして安くはないけれど、ニースならではの食事が楽しめたのだから、気分は上々、満ち足りていた。
若いHiromiさんに、いつも2人分の現金を入れた財布を預けて、支払いを任せている。
「150ユーロと、あとチップを少し足せばいいんじゃない」
と、私は言ったつもりだった。軽くうなずいて、彼女は店内のトイレを借りるついでに、室内で支払いもすませてテーブルに戻ってきた。
「200ユーロとチップ、渡してきた」
「え? なんで。細かいの、なかったの?」
「だって、199.5ユーロでしょ」
「ええ? 149.5よ。ほら見て」
手書きのレシートを見せた。

たしかに4ではなく9にも見える。その隣には、アルファベットのgのような数字の9があって、彼女は錯覚してしまったようだ。
どうしよう! と困り顔のHiromiさん。
満席の店内で、会計担当の従業員は忙しくてよく見ないままお札を受け取り、たくさんのお金が入ったザルのようなお皿の上に、ぽいと置いたというのだ。
「私がいくら払ったか、もう確かめられないと思う」
「大丈夫、取り返してくるから」
50ユーロは見過ごせない。日本円で8600円なり。たとえチップとしても取り過ぎだ。
私たちのテーブルの担当だったウェイターをつかまえて、手書きのレシートを見せながら、つたない英語で事情を説明した。読み間違えてごめんなさい。でも、お返しくださったら、とてもとてもうれしい、とかなんとか……。
彼は数秒考えたのち、
「50ユーロでいいんですね。OK!」
と、気持ちよく紙幣を1枚返してくれた。2人でほっと胸をなでおろした。いいお店でよかったね。

レストランの名は、シェ・ダヴィア。ダヴィアおばあさんが始めた店で、もう70年以上も家族で営んできた。地元では人気のイタリアンレストランだという。シェフは京都や大阪でも経験を積んだそうで、奥さんは日本人。そういえばデザートメニューの中に「キョウコのお菓子」というのがあった。
日本人だから信用してもらえたのかもしれない。
ふと思いついて、昨年のパリオリンピック2024のポスターを見てみた。案の定、数字の4の横棒が縦棒を突き出ていない。9にも見える。▼

『地球の歩き方』のフランス編をパラパラめくっていたら、「フランス人の数字の書き方」というコラムがあった。0から9までの手書きの数字が並び、
「特に日本人にわかりにくいのは1、4、7だ」と書いてあった。▼

