おススメの本『月の立つ林で』2023年04月02日



 

昨年の9月におススメした『赤と青とエスキース』の著者、青山美智子さんの最新刊です。新聞広告を見て、すぐに図書館で予約しました。

 

読みやすくて、おもしろくて、おしゃれで、心優しくて。

この4つだけでおススメ条件は十分ではないでしょうか。

これだけで読んでみたいと思われたら、この続きは読まないほうがいいかもしれません。ネタバレでごめんなさい、という意味で。

 

①読みやすい。

設定は現代。子どもから高齢者まで、幅広い年齢層の登場人物たち。セリフも多く、言葉遣いもナチュラルで、こんなふうにさりげない文体でエッセイも書いてみたい、と思います。

 

②おもしろい。

5つの章立てで、ひとつの物語となっています。まるで短編集のようではあるのですが、そうではない。1章では脇役だった人物が、2章では新しく主人公として描かれる。1章の主人公は5章でキーパーソン的な端役としてちらりと出てくる……といった具合に、人物たちが現れては影を潜め、また現れて少しずつ物語の全体像が見えてくる。推理小説を楽しむようなおもしろさがあります。

その他にも、タイトルの一部「月」が、構成のうえでも、素材としても、天文学的にも、文学的にも、重要なテーマになっているのです。

さらに、お笑い芸人が必死でネタを考える場面では、笑ってあげたくなるし、今どきのアマゾンミュージックからポッドキャストを聞くなんて、今どきの新しさにも興味が湧きます。

 

③素材がおしゃれ。

手作りのワイヤーアクセサリーとか、切り絵アートとか、美しいものたちがイメージされて楽しめる。この著者は、物語の空間を情緒豊かに彩ることがとても上手で、惹かれます。

ほかにも、アイパッドでグーグルのポッドキャストをネット視聴するなどと、新しい現代のアイテムが持ち込まれ、しかも、若い人が高齢者に手ほどきをしているので、読み手もなるほど……と、置いてきぼりにならずにすむのです。

 

④心優しい。

とにかく癒されます。「誰かのために何かをしたい」と、主人公たちは皆思っているのですが、なかなかうまくいかない。傷つくこともある。それでも、誤解が解けて、本当のやさしさが通い合う。よかったなと心が温まるのです。

話が逸れますが、私は直木賞の作品を読むという自分なりの課題を持っています。最近は戦国時代の作品を続けて読みました。それ以外にも、あまりに殺戮シーンの多い作品は、読むのを休止中にしてしまっているのもあります。

そんな時に手にしたこの本、なんと穏やかでやさしいのだろうか。「癒し系」はべつに好みではない、と自覚していたはずなのに、しみじみと癒されて、読んでよかった、と思えました。

 

うららかな春爛漫。

とはいえ、出会いと別れの季節でもありますね。

疲れた夜には、読書もいいものです。

そんな時に、おススメの一冊です。


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