旅のフォトエッセイ:旭山動物園2012年10月07日


9月2日からシリーズで書いてきた北海道の旅も、ちょうど7回目のラッキーセブン、今回で終わります。
最終回は、旭川にある旭山動物園。誰に聞いてもこの動物園を薦めてくれたのです。

それでは、hitomi版ガイドで、旭山動物園をお楽しみください。

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8月23日。この日も朝から快晴。雲一つない空の下、旭川の街が広がっている。

 暑くなりそうだ。

 この日は動物園まで、娘が運転する。碁盤の目の道路で、渋滞もなく、のどかなドライブですぐに到着。 

旭山動物園正門。

 この日本最北の動物園は、知恵を絞って、動物の生き生きとした本来の姿を見られるような工夫をほどこした。それからは、遠くからもお客さんが来てくれるようになったという。 
 その目玉の一つが「もぐもぐタイム」。餌を食べるときこそ動物の特徴が見て取れる。そこで、それぞれの食事時刻が表示されていて、その時間に見に行くと、係の説明を聞きながら、観察ができるというわけだ。

 

 アシカのもぐもぐタイム。そばでウミネコが見張っている。おこぼれをもらうの?

 ペンギンのもぐもぐタイムは水中。マイクがなくても、絵や文字が書かれたボードをめくって解説。

「エサはオキアミです」→「水のていこうがすくない体の形」→「尾と足はかじとりとブレーキにつかう」→「目は水中でも陸上でもよくみえる」→「食べにきませんでした。ごめんなさい。またきてね!」→「おしまいです」
 紙芝居みたいで、大人だって楽しい!

 もう一つの工夫は、手作り看板。飼育係の手作業でこしらえている。
 どの看板も「かわいい動物たちのここがおもしろい!」といわんばかり。動物に対する愛情があふれている。




 手を入れる穴を覆っているのは、台所の流しのふた!
 中身は……ご想像にお任せします。

                  卵のお母さんはだあれ!?

 こんな仕掛けもある。
 シロクマの歩き回る地面には、のぞき窓のドームが。
 地下には梯子があって、ヒトが順番を待って行列していた。


 クモザルは、するすると上っていき、高いところでオシッコをする。当然、下を歩くヒトに降りかかる。



 私の大好きなネコの親類たち。
 暑くてたまらん、という態度のヒョウ、トラ。


 さすがに百獣の王は、涼しい顔をしている。
 そのたてがみは、いかにも暑そうだが、いい顔だ。キングと呼ばれるだけのことはある。改めて惚れなおした♡



 サルたちには、そりゃ親近感がわくというものだ。
 チンパンジーの子どもたちは元気。でんぐり返しを何回もしている。
 このオバアサンはでんと構えているのだが、ときどきこのポーズ。
 娘いわく、母さんが「今日は何ぽ歩いたかしら」って、ポケットから万歩計を取り出してるところとそっくり。
 こらぁ!

 テナガザルの敏捷な動きが気に入って、連れて帰ることにした。
 クロか、茶色か……


 かなり迷ったが、茶にした。


 キリンは物憂げな目をしている。

 ふるさとアフリカの雲を思い出しているのか……。


 鳥たちも近くで見ると面白い。
                 二頭身のペリカン。

         北海道だもの丹頂鶴。

 フラミンゴは美しい色に魅せられた。
 首をぐるりと捻じ曲げて背中に置き、一本足で立ち、休んでいる。
 
 
          

 7月には仲間が1羽逃げ出したという。その捕獲のため、おとりに使われた2羽が犠牲になった、というニュースもあった。


ペンギンのチュッ!? ナイスショット by 娘。


 ペンギンが泳ぐ池の底には、ペンギンがヒトを観察するためのトンネルあり。



 娘の大好きなカピバラ!!!

 水に入っても、ぼーっと立っているだけ。そのまんまで、天然ゆるキャラ。


 お土産に買った名刺大のマグネット。一緒に暮らすカピバラとクモザルの楽しいイラストだ。

 冷蔵庫にぺたんと貼って、開けるたびに思い出す。
 ああ、カピバラ……なぜか笑いたくなる。

   ☆☆☆
     

動物園を後にして、まっすぐ小樽へ向かった。

この日もあまりの暑さに、旭川ラーメンを食べる気にはなれず、前日同様、アイスクリームが昼食代わり。その分、小樽の夜は「寿司屋通り」に出かけて、美味しいお寿司を堪能した。

翌日、私は午後の飛行機で帰宅。娘は札幌にもう一泊。一人で市内を見て歩いた。

 

見逃した所も、食べそこなった物も、買えなかったおみやげも、たくさんあるけれど、それは次回のお楽しみということにしよう。5日間で準備してやって来たわりには、お天気にも恵まれて、上出来の旅だった。

この次は、もう少し東の方まで足を延ばして、釧路湿原をドライブしてみたい。


 

……と総括したところで、北海道の旅のフォトエッセイもおしまいです。

長い間のお付き合い、どうもありがとうございました。


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旅のフォトエッセイ:ドライブin富良野(3)2012年09月23日


 新富良野プリンスホテルでたっぷりとエネルギーチャージをして、ふたたびハンドルを握った。

 まず、ラベンダー畑で有名な富田ファームへ。娘は、中学生のときに一度、祖母と一緒にここを訪れている。が、ほとんど記憶にないという。


 なぜか、空にぽかりと、メロンのバルーンが……。


 ラベンダーの花の時期は終わり、切りとられた株だけが並んでいたが、それ以外の花がきれいに栽培されている。ラベンダーのように見える紫色の花は、ブルーサルビア。
 トラクターも、バイクも、みんなラベンダー色。




 富良野は盆地だから暑いと聞いてはいたが、お天気も良くて、本当に暑い。
「今日のお昼はラーメンね」と話していた予定など、とっくに汗とともに流れた。

 人気のソフトクリームを食べる。ラベンダー味と、夕張メロン味。冷たくて甘さ控えめ。景色も一緒に食べているようで、さわやかでおいしかった。




 ふたたび車に乗り、北上して美瑛をめぐるドライブ。
 娘はガイドブックと地図とをにらめっこしながら、私に指示を出す。言われるままに、のどかな風景の中を縦横無尽に走り回る。
 富田ファームだけは混んでいたけれど、どこを走っても、人も車も圧倒的に少ない。快適なドライブ。娘に代わってあげたいが、私にナビは無理。ごめんね。

 



 


 クリスマスツリーの木。てっぺんに星が載ったモミの木の形に見える。

哲学の木。ちょっと傾いで、物思いにふけっている。雲もそれを真似ているような……

 親子の木。たしかに、子連れの両親に見える。


「四季彩の丘」で車を降りる。

 干し草のロールで作られたロール君。直径だけでも私の背丈ほどある。
 田園地帯を走っていると、このロールをたくさん積んだ大型トラックを、ときおり見かけた。

 自然が描く空と雲の絵画、そして人間が織りなす花畑の縞模様。
 その美しさを語る言葉はない。




「ぜるぶの丘」にも降り立つ。
 花畑の上に人の影が伸びている。午後5時を回ったというのに、強烈なこの日差し。
 暑い!




 さらに北上して、旭川へ向かう。
 この日の気温は33度まで上がったそうだ。結局、昼間は暑すぎて、ケーキとソフトクリームしか口にできなかった。
 今夜の宿は、ちょっとレトロな雰囲気の旭川グランドホテル。そのレストランで、昼食の分も補うべく、北海道のソイという魚のグリルや、道産のビーフステーキを食べた。もちろん、地元のビールに舌鼓を打ちながら……




 部屋の窓からは、三日月が見えていた。
 Good Night!



  〈続く〉

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旅のフォトエッセイ:ドライブin富良野(2)2012年09月16日

これまで、「旅のエッセイ」として書いてきましたが、今回からはますます写真が主役。そこで、「旅のフォトエッセイ」として、続けていくことにします。

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 私たちの世代にとって、富良野といえば、『北の国から』。言わずと知れた倉本聰のドラマだ。いたいけな純と蛍の小さいころの映像は、今でも目に焼きついている。さだまさしのスキャットのさわりが流れるだけで、涙ぐんでしまうほどだ。
 でも、そのロケ地や使われたセットなど、観光名所となっている場所を訪ねたいとは思わなかった。あのドラマは、私の中でもう完結しているのだろう。

 富良野はラベンダー畑でも有名だが、7月中が見ごろとか。8月後半では、とても期待できそうにない。
 最近まで札幌に住んでいた友人に聞くと、「風のガーデン」を薦めてくれた。なんでも、同名の倉本聰のドラマの舞台として、実際にイングリッシュガーデンをこしらえてしまったらしい。
 やはり倉本ドラマなのだ。でも残念ながら、このドラマは見ていない。
「読んでから見るか、見てから読むか」。原作本のある映画のキャッチコピーだが、こちらは、「見てから行くか、行ってから見るか」となる。もちろん、出発までに時間がないのだ、「行ってから見る」ことにしよう。帰ってから宿題があるのも悪くない。

 「風のガーデン」は、新富良野プリンスホテルの広大な敷地の中にあった。







 一番奥には、グリーンハウス。撮影当時のセットがそのままに置かれている。





 


 ガーデンを出て、「森の時計」という名のコーヒーハウスに向かう。
 これも、倉本ドラマ『優しい時間』の舞台である。
 富良野に来て、結局、『北の国から』に続く二つのドラマの舞台を訪ねたことになる。その三つのドラマが「富良野三部作」といわれているそうだ。
 


 玄関には番人のように、フクロウがたたずんでいる。
 木のドアを開けて、中に入る。
「カウンターがいっぱいなのですが、テーブルでもよろしいでしょうか」
 何も知らずに、「はい」と答えた。
 待つことしばし……

 

「カウンターが空きましたので、カウンターになさいますか」
 それほどに言われるなら、と大きな窓の前のカウンター席に着く。ケーキセットを注文すると、おもむろにコーヒーミルが出てきた。
 予備知識もないままに訪れて、サプライズも大きかった。どうやら、これが売りのようだ。カウンター席だけの特典。
 ご自分で挽いてください、と言われて驚く。

 

「森の時計はゆっくり時を刻む」
 味わいある文字で、そう書かれた額が、壁に飾られている。
 言葉をかみしめるように、ゆっくりとミルを回す。

 挽き終えると、それをボールに入れてくれて、「香りも、どうぞ」。


 あとは、マスターがゆっくりとていねいに淹れてくれるのを待つ。


 和風のカップ&ソーサー。〈珈琲〉という字がふさわしい。
 北海道の食材だけで作られたふわふわクリームのロールケーキと一緒にいただく。
 どちらもおいしかったのは言うまでもない。





 マスターの背中の向こう、窓辺まで森の緑が迫っている。
 日を浴びて、まるで輝くスクリーンのようだった。

 思いがけず、至福のひとときを過ごした。
 
 心身ともに、エネルギーチャージ完了。
 ふたたびフィットに乗って、富良野のドライブへ……!

 



 
   〈続く〉

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旅のエッセイ:ドライブin富良野(1)2012年09月08日


 北海道をレンタカーで走り回る、と話すと、誰もが本気で心配してくれた。
 北海道は事故が多いのよ。
 運転が荒っぽい、って聞くわ。 
 あちこちで取り締まりをやってるから、スピード違反でつかまらないように。
 とにかく鹿の飛び出しだけは気をつけて……

 車の運転は大好きだ。体も小さいし、かけっこもいまいちの私は、マシンを操り、車の力を借りて速く走ることが楽しいのだと思う。
 自慢にはならないが、スピード違反でも、一時停止無視でも、シートベルト不着用でも、切符を切られて罰金を払った経験がある。
 前が見えないほどの土砂降りや霧の中も走ったし、ジャッキで車体を持ち上げてチェーンを取り付けて走ったこともある。
 いちばん怖かったのは、日暮れてから、降りしきる雪の東北道をノーマルタイヤでスリップしながらも走り抜けたこと。東京に着いて、雪が雨に変わって、なんてクリアな視界なんだろう、とほっとしたのを今でも覚えている。

 それでも、今回の旅は出発まで緊張した。レンタカーを乗り回した経験だけは、皆無だったのである。
カーマガジン風ショット!

 しかし、借りたホンダのフィット・ハイブリッドを、おそるおそる走らせてみると、想像以上に乗りやすかった。ただハイブリッドの特徴なのか、アクセルを踏む自分の足のほかに、もう1本別の足が車を動かしているような感触で、少し違和感がある。が、それもすぐに慣れると、あとは快適だった。
 何も心配することはなかったのだ。市街地でも道は広いし、信号は少ないし、何より見通しがきく。道民の方には申し訳ないが、ここの運転に慣れたら、東京に帰って狭い街の中や首都高なんか走れなくなるかも……。別の心配がわいた。
 


 トマムを出て、富良野へと向かう。
 針葉樹林が続く。本州とは明らかに違う。木々も空も雲も……

富良野に向かって。



 たしかに、鹿のジャンプする絵の黄色い標識が、たくさん立っている。
 でも、出会ったのは、鹿ではなく、路上でひかれた動物の死体。うす茶色で猫ほどの大きさ、耳がとがり、しっぽの先が白かった。キタキツネだ。
 走りながら見た一瞬の光景が胸に突き刺さる。私には、100本の標識よりも、鮮烈な効果だった。


まっすぐな道。

道路の左右に広がる畑。
 

 まっすぐな道。前後の車も遠く、すれ違う車も少ない。
 畑、丘、広い広い空、ダイナミックな雲の群れ……
 ハンドルを握りながらもそれらを存分に楽しむことができる。

 湖にも出合った。


金山湖

 地図を見て、「金山湖」という名前がわかった。
 看板も広告も、無機質なものは見えない。
 車を降りて深呼吸。自然のままの景色も一緒に吸い込む。

 助手席の娘は、ナビをしながら、もっぱら写真を撮る。
 いくら運転が上手とはいえない彼女でも、ここなら問題なさそうだが、私が交代しないのには、わけがある。私が車に酔うのである。自分で運転しているかぎりなんでもないのに、助手席でナビ&写真係を始めたら、途端に頭痛が始まるのは目に見えている。私の三半規管は繊細にできているのだ。
 娘もそれがわかっているので、助手席に甘んじてくれている。

 ふと、聞いてみた。「この矢印、なんだか知ってる?」

路肩標識

 写真中央の下向きの赤白の矢印。
 娘は知らないという。
 ここまでが道ですよ、と教えてくれる路肩標識。つまり、冬には辺り一面雪が積もっている、というわけだ。想像力をかきたててみる。

富良野市街へ。

 富良野市街に入る。
 まず、目的地の新富良野プリンスホテルに車を止めた。

 
新富良野プリンスホテル



 〈続く〉 


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旅のエッセイ: 「トマム?」から「トマム!!」へ(2)2012年09月05日

 5時に起きてカーテンを開ける。雨は止んでいたが、まだ曇っていた。
 テレビをつけると、いきなり、大きな文字で速報が。
「現在、一部に雲海が発生しています」
 身支度を整えている間に、画面は、「きれいに見えています」に変わった。
 よし、行こう!

 玄関には、おおぜいの宿泊客がバスを待っていた。
 4棟もの高いタワーのあるこのホテル、星野リゾートトマムは、何百という客室があり、ウィンタースポーツはもちろんのこと、熱気球なども楽しめる大きな施設らしい。
 バスを降り、ゴンドラに乗り込み、頂上へ向かう。冬はスキー客を乗せるのだろう。

山頂のテラスへ上るゴンドラ。

 ゴンドラが上昇するにつれて、見下ろす景色が広がっていく。
 すでにホテルの玄関の辺りは白い雲に覆われていた。

ゴンドラからの眺め。


 そして、頂上に着く。しっとりとした心地よい風が吹いている。
 テラスからの眺めに、ただただ息をのんだ。
 確率50%といわれた雲海は、今、眼下の山あいを覆い、見事な景色を作り出していた。まるで、山の女神たちが白いうすぎぬをまとって、音もなくゆったりと舞いを続けているかような、たおやかで幻想的な眺め……。
 天の国のようだけれど、2本のホテルタワーが雲の上に突き出ていて、現実だとわかる。
テラスから見下ろす眺め。

 左の方にも、右手の方にも、両手を広げたその向こうに、壮大な景色がはるかに広がっていた。

テラスから。

テラスからの眺め。

左の景色も……。

この景色、独り占め。

 毎日、くよくよ、いらいらしていたことなんか、みんな大したことではない。
 この場所で風に吹かれていると、そんなふうに思えてくる。



 7時、山を下りるころには、雲海もはかなく消え始めた。
 やがて、朝食を済ませて出発の時には、うそのように雲が晴れ、タワーの向こう、秋の空が広がっていた。
 1週間前には名前すら知らなかったトマムで、運よく雲海を見て、素敵な朝のひとときを過ごせた。これからは、「トマム!! 最高!!」である。

タワーとタワーの間、アキアカネがアンテナに止まっている。


 アキアカネが飛び交っている。文句なしのドライブ日和だ。今日は、ここから北上して、富良野へ向かう。


〈続く〉 

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旅のエッセイ: 「トマム?」から「トマム!!」へ (1)2012年09月04日


 トマムと聞いて、ああ、あのトマムね!と言える人はそれほど多くはないだろう。
 もちろん私も知らなかった。

 娘が一人で北海道旅行をすると言い出したとき、あまりに心配で、頼りになる情報が欲しくて、近くの旅行代理店を訪ねた。アロハシャツの制服を着たカウンターの女性は、相談に来た私に、いやな顔ひとつせずに、いろいろと北海道旅行のあれこれを説明してくれた。
 北海道は車での移動が一般的なこと。道もすいていて、起伏も少なく、運転しやすいこと。バス便は今からでは予約できないこと。各都市への札幌からの所要時間……などなど。それらを聞いているうちに、さほど大変ではないことがわかってきて、少し気が楽になった。
「お嬢さん、一人で行かれるなんて、ずいぶんしっかりしているんでね。頼もしいですね」
 彼女が娘をほめてくれればくれるほど、また心配が頭をもたげてくる。
「じつは私も」と彼女は言った。「来週トマムに行くんですよ、友達とですけど」

トマム? どこですか、それ。
 札幌から東へ2時間ほど行った辺りで、「雲海テラス」というのが最近人気があるらしい。パンフレットの写真は、テラスのすぐ下まで雲が迫って、幻想的に見えた。
 

「気象条件によって、かならず見えるというわけではないんです」

私の気持ちが揺れた。

それは、娘に薦めてみようと思ったのか、自分も一緒に行く気になったのか、半月もたった今となっては定かではないのだが、トマムの雲海が私を招いたのは確かなようである。

 新千歳空港で予約しておいたレンタカーに乗りこむ。
 わが家は代々、ホンダ車しか乗らない。今回も私のたっての希望で、ホンダを選んだ。フィットのハイブリッドだ。女性向けだったのかどうか、あざやかな黄色。目立っていい。
 まずは私がハンドルを握り、ナビの設定を娘に任せる。
 しばらく走ると、ナビの画面から道路が消えた。カーナビなのに、なぜかリュックを背負ったヒトが、何もない所をてくてくと歩いている。娘が地図を見ながら道路を確認して、車を走らせ続けた。
一人だったら、困ったでしょ……と口には出さなかったけれど、ついてきてよかった、と思った。

ナビの画面によると、車は細い川のそばの何もない所を歩いている。


 

 今度は雨が降ってきた。時間的にはまだ夕方なのに、空はまっ黒い雲に覆われてしまった。土砂降りになる。この程度の雨なら、何回経験したことか。でも娘は怖がった。
 ほらごらん、一人だったら、ビビってたでしょ……と、胸の中。
 この雨は、天気予報のとおりだ。そして、明日からは晴れる予報。ついている。

ホテルでは、明日の雲海予報が出ていた。50%だという。
 きれいに見えることを祈って、雲海トマムビールで乾杯をした。
 

雲海トマムビール。あっさりしていて美味しい。


 テラス行きのゴンドラ乗り場までは、送迎バスが出る。朝4時からだ。
 そこまで早起きしなくても……と、5時に起きることにして眠りについた。

 
  〈続く〉 

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旅のエッセイ: 突然ですが、北海道へ。2012年09月02日


 この夏は、どこへも旅行しない覚悟をしていた。
 これまで勉強をしない高校生だった次男が、高3になってついについにスイッチオン。背水の陣を敷いて、毎日のように大学受験塾に通うようになったのである。母親としても、息子をほったらかして夏をエンジョイしている場合ではなかった。
 ところが……!
 社会人1年生の娘が、たった一人で北海道に遊びに行く、と言い出した。もう往復の飛行機のチケットは取れた。キャンセルはできない……と、出発6日前の事後承諾を願い出たというわけだ。
 それだけならまだしも、レンタカーを借りて走り回ると言う。のけぞった。
 娘は免許取得3年目とはいえ、どう見たって、エア初心者マーク付き。わが家の車だって1ヵ月に一度乗るか乗らないか……程度である。しかも親譲りの方向音痴。とてもじゃないけど、たった一人で、土地勘もない北海道で、レンタカーなど乗り回すことを、許すわけにはいかない。無謀すぎる。
 母親の直感だ。過保護と言われようとなんだろうと、ダメなものはダメ。
 事故でも起こしたらどうする。ナビもわからない場所に迷い込んだらどうする。クマに襲われたらどうする。二本足のオオカミに襲われたらどうする……。
 娘の夏季休暇がお盆明けの20日から1週間と決まったのは、ほんの1ヵ月前だった。あんなにたくさん友達がいても、そのころの休暇では、付き合ってくれる友達が見つからない。友人の多くは大学院生で、勉強に忙しい時期だという。
 私にもお声がかかったが、もちろん無理なことはお互い百も承知。
 一人でも安心な海外旅行のパックを探したけれど、どこも満席だったらしい。
 とはいえ、いかに理由を並べたてられても、首を縦には振れない。
 旅行代理店に出向いて、札幌からのバスツアーがないか尋ねてみた。やはり、それは現地の代理店でないと無理だと言われる。レンタカー代わりのバス便もあることはあるが、それも申込み期間が過ぎていた。とにかく今からでは、なにもかもが遅すぎた。
 諦める? 何をどう諦める? 娘の一人旅を許す? それとも娘を諦めさせる?
 私一人では決められない。親はもう一人いるのだ。夫の帰宅を待って、話を切り出すと、夫曰く、「お母さんも一緒に行ったら?」。 
 その選択肢!? 
 受験生はどうするの? 自閉症の長男は? 
 結局、一番可能性が低いはずの、その選択肢が採択されたのである。
 サラリーマンの夫が、4日の間、男3人の寝食をなんとかするという。息子たちの異存もなかった。あっけなく決まった。出発まであと5日しかない。
 娘には、「お母さんも一緒に行くから、早く帰ってきて、相談しよう」とだけメールをした。有無を言わせなかった。
 それから連夜、娘の帰宅を待って、2台のパソコンを駆使してネットに張り付き、私の搭乗券と、トマム・旭川・小樽のホテルと、レンタカーの予約を済ませた。土曜のエッセイ教室、日曜の銀座のボランティア活動も予定どおりにこなし、荷物を作り、月曜の昼下がり、快晴の空の下、羽田から飛び立ったのだった。

羽田空港。よく晴れた空の下、遠くにはスカイツリーが見えた。


 手のかかる長男と次男に挟まれた娘は、いつだって親の手を煩わせないようにと、しっかり者でいてくれた。そうやって、私が手を焼くこともなく、あっという間に社会人になってしまった娘に、私はどこか負い目を感じているのかもしれない。
 今回の無謀な旅の計画も、末っ子の次男にばかり手をかけている私に対する、娘なりの主張を感じとってしまった、といったら大げさだろうか。私の心の片隅に、次男と娘とが私を取り合っている綱引きが見えるような気がしたのだ。
 次男の勉強は、今は波に乗っている。しばらく大丈夫だろうと思うことにした。
 そして、なんてったって《北海道》の魅力に吸い寄せられたのは言うまでもない。
 私は、その程度の母親なのである。



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☆明日からは、たくさんの旅の写真を載せるつもりです。

  どうぞ、お楽しみに。


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