旅のフォトエッセイ:東松島へ(1)2013年05月17日


2011
年初めのころ。
当時の私には、乗り越えなければならない大きな挫折が重くのしかかっていた。
そろそろ答えを出すべき、行き詰まりの問題も抱えていた。
「具体的に書きましょう」と、いつもエッセイ教室では口にするのだが、上記の内容だけはお許し願いたい。 

そして、311日。東日本大震災。

あたりまえの日常があっけなく覆されるのを目の当たりにした。
これまでの価値観の修正を迫られた。多くの日本人がそうであったように。

明けて2012年。
何かしなくては。気持ちだけは突き動かされるのに、何をしたらいいのかわからない。
被災地と直接関わりのない自分は、何をすべきなのか。模索し続けているときに、友人を介して、東北の復興支援をするためのボランティアグループと関わるようになった。
2月から8月まで、月に一度、銀座で行われる「東松島物産展」の手伝いをさせてもらった。白状すれば、東松島市という存在さえ知らなかったのだが……。


大勢の仲間ができた。年齢的なギャップは多少の引け目だったけれど、それでも楽しく銀座に通った。
さらに、Facebookを通して、世界が広がった。
いつか被災地に行ってみよう。行かなくては、と思うようになった。

そんなある日、Facebook上の1枚の写真に吸い寄せられた。青い空に、青い鯉のぼりだけが泳いでいる。
そこで初めて、東松島市大曲浜の「青い鯉のぼりプロジェクト」を知ったのである。

それは、大曲浜に住んでいた、当時17歳の青年のエピソードから始まる。
彼は、祖父母、母、そして5歳の弟が津波の犠牲になった。がれきの中から見つかったのは、弟が好きだった青い鯉のぼり。家族の象徴であり、天に昇って竜となる伝説もある鯉のぼりだ。
彼は、その泥だらけの鯉のぼりを近くの川で洗った。やがて、次々と出てきた鯉のぼりを、母や祖父母たちへの思いも込めて、家の在ったあたりに空高く揚げた。
さらに、その年の55日には、全国から200尾以上の青い鯉のぼりが集められ、震災で亡くなった子どもたちのため、青空に掲げられた。
その年だけに終わらせずに、毎年311日から55日まで、青い鯉のぼりを泳がせよう。犠牲になった子どもたちの鎮魂のためにも、復興のシンボルとしても、続けていこう……。
それがこのプロジェクトである。

泣き虫の私は、二人の男の子を持つ母親として、涙が止まらない。
今すぐには無理でも、来年こそは、この鯉のぼりの下に立ちたい。
その願いが、私を被災地に向かわせるきっかけとなった。

願い叶って、今年のゴールデンウィーク、娘と二人、ついに東松島を訪ねることができた。5月3日、大曲浜の空に泳ぐ青い鯉のぼりたちを仰ぐことができたのである。

20130504 東松島市大曲浜の青い鯉のぼり


真っ青な空。強い海風。
津波に押し流されたたくさんの家々が在った場所。
近くにはまだ、家の中を波が暴れていったままの立派な住宅が1軒、撤去されず残っている。

残されたままの家


聞こえるのは、鯉たちが空に泳ぐ音だけ。
その向こうの空の高みから、子どもたちの走り回る歓声が、聞こえてくるような気がした。

去りがたかった。
翌日も、ここを訪れて、鯉のぼりを見上げて立ち尽くしていた。 

21030504 青い鯉のぼり

                        
                                 (続く)


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コメント

_ suzuking ― 2013/05/18 09:43

久しぶりに読み応えのあるエッセイでした。
何回連載になりますか?なるべく長編、
なるべく早めに次々アップ!お願いします。
楽しみにしてます。

_ hitomi ― 2013/05/22 16:52

suzukingさん、大変あたたかくて、厳しいお言葉、どうもありがとうございます。
胸にしかと刻んでおります。……が思うように時間の取れない怒涛の日々。いただいたコメントも、ようやく4日目に公開いたしました。ごめんなさい。
がんばりますね。

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