新年のご挨拶 ~直木賞占いとともに~ ― 2026年01月03日

皆さま、明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
毎年、同じ言葉をつづっていますが、新しく年を迎えるたびに、その切実さを増しているように思います。
ブログをこのまま続けるべきか否か。
アクセス数ゼロの日が来たらやめよう。ぼんやりとそう思うこともありますが、大丈夫、私が最後の読者ですから、それはあり得ません、私の逃げ道です。
ところで、昨年の暮れは大変なことになっていました。
クリスマスイブの日に発熱し、検査の結果はインフルエンザA型でした。
12月はとにかく多忙だったのです。
12月1日には軽井沢に出かけ、1泊して帰りました。(どうしても見るべき展覧会があり)
高齢者のための運転講習にも緊張して行きました。(現役ドライバーですから、大したことはなかったのですが)
ゴスペルの発表会もありました。(発表会は必要なし、と思っていたのに、参加してみれば楽しかった~♪)
そして、自分の誕生日を迎え(何歳かも忘れた)、さらには一時帰国している娘夫婦の来訪もありました。(その日までに暮れの大掃除をやっつけて)
毎日のように栄養ドリンクを飲んで、何とか乗り切ろうと努力をしたのですが、とうとうクリスマスを過ごすところまで、もちこたえることができず、力尽きてダウン。万事休す……。
おせち料理はお雑煮だけは夫が作ってくれましたが、あとはデパートに予約しておいて大みそかに届けてもらった重箱。なかなか美味しかったです。
年賀状も、お正月になってから書いています。
ところで、インフルエンザは、あやしげな咳から始まりました。その次には発熱とつらい頭痛が2日も続いたのですが、薬が効いてくるとぴたっと止んでくれたので、これ幸いと読書三昧。
おりしも直木賞候補が発表になったばかりですから、私のiPad miniにはその電子本がすでにダウンロードしてありました。
さて、今日のブログの本題はここからです。
私の一押しはこれ、
『カフェーの帰り道』嶋津 輝著。

大正から昭和にかけて、戦前から戦後にかけてのカフェーの女給さんたちの群像劇に、静かな感動をもらいました。
いつの時代でも、女性はたくましく、そしていとおしいなあと、しみじみと思ったのでした。
ところが、もうひとつ読んだら、こちらも一押し! と言いたくなりました。
『白鷺立つ』住田 祐著。

時代小説、しかも、過酷な行に身をゆだねる比叡山の修行僧の物語だと聞いて、ちょっとばかり敬遠したくなったのですが、巧みな推薦文で、それならば、と読み始めました。
引き込まれてしまうのに、時間はかかりませんでした。
面白いのです!
文体こそ古めかしく感じますが、読んでいるうちに、まるで現代小説のように、登場人物は生き生きと動き、彼らの個性も人柄も、人間同士のかかわり合いも、映像を見ているかのごとく感じられました。
しかもこれが著者のデビュー作と聞いて、またまた驚きました。
1月14日に直木賞の選考会が開かれ、受賞作が決まります。
この2作のどちらか。はたまた、ダブル受賞というのも、ありなのでは。
年末の病のおかげで、今回の直木賞発表が、いつにもまして楽しみになりました。

2000字のエッセイ:「一人で行く旅のなぜ」 ― 2026年01月12日

ノンフィクション作家の川内有緒さんのエッセイを読んだ。一人旅のことをつづっていた。
「毎年一度は一人旅をしたい。何もしないで、ただ小説を読みふけるような船の旅がいいかも」
彼女は51歳。たくさんの経歴を持ち、海外でも暮らし、一人で娘さんを育てている。そんなパワフルな人だからこそ、のんびりした船の旅に憧れるのかもしれない、と70代に突入した私は思う。
私も一人旅をするが、旅に出たら、いや、出る前から綿密な計画を立て、時間を無駄にしないで、目的地を目指し、目的を果たすことに楽しみを見出す。私が元気でいられる時間は限られている。彼女との歴然とした年の差を感じてしまう。
なぜ一人旅をするの、と聞かれたことがある。とっさに答えが出てこなかった。しばらくそのことが引っかかっていたが、少しずつ答えが見えてきた。
最初のきっかけはコロナ禍だ。不要不急の外出は控え、人との交流も途絶えた。さすがに「一緒に行かない?」と誘える雰囲気ではなかった。それならばと、一人で出かけた。夫の休みがとれれば、一緒に行くこともあった。世の中ではGoToトラベルなどと旅行業界を支えるキャンペーンが盛んで、格安で旅行ができるし、どこへ行っても旅行客は少なく、むしろ快適な旅ができた。
コロナ禍でも、ミュージシャンのコンサートは人数制限を設けるなど、厳しい条件下で行われた。チケット入手は、別の意味でも厳しくなった。転売を防ぐために、本人のみならず同行者にも、事前登録と当日の本人確認が義務付けられるようになったのだ。
「一緒に行こうね」などと気軽に約束しても、万が一の時のキャンセルには手間がかかり、気やすく誘えない。コロナ禍をどう潜り抜けるかは、個人個人の状況や価値観に負うところが大きく、デリケートな問題だ。それならばと、やっぱり一人で行くことを選ぶようになる。
また、全国ツアーの場合には、首都圏よりも地方の会場のほうが当選確率が高いといわれる。そのチケットをゲットするためには、自分だけの都合で日程と会場を選ぶほうが気を使わないですむ。推し仲間と盛り上がるのなら、会場のロビーや近くのレストランなどで待ち合せて会える。会場の座席には、同じようにおひとり様が多く、お互い和気あいあいの雰囲気で寂しいことはない。
そして、翌日はライブの余韻に浸りながら、会場近くの旅を楽しみ、美味しい名物料理を食し、一人旅の醍醐味を満喫して帰っていく。私は、そんなふうに、浜松、名古屋、大阪での藤井風君のライブ&一人旅を楽しんできた。
ほかにも、一人旅の目的地を選ぶ時、参考にする本がある。
『日本の最も美しい教会』という写真集だ。
国内の61ヵ所のキリスト教会を紹介している。この本との出合いはコロナの少し前だった。2016年に発行されると、興味がわいて、アマゾンで購入。わが家に届いたのは日曜の午後で、その日の朝は、友人に誘われて都内の教会でミサにさずかってきたところだった。
梱包をほどいて驚いた。本の表紙になっている写真は、今朝訪れたばかりの碑文谷教会の聖堂内部だったのだ。この本に呼ばれている気がした。
そうだ、これらの教会を一つずつ、巡礼のように訪問してみようか。すでに訪れたことのある教会も少しはあるけれど、北は北海道から南は長崎まで、旅行のたびにチェックしてみよう。私ならではの楽しい旅の目的ができた。
弘前のお花見旅行のついでに2ヵ所、五島列島の旅で4ヵ所など、いくつか巡ってきたが、その後はコロナ禍に突入、教会も入場制限がかかるようになって、訪ねた数がなかなか増えない。
そんななかでも印象に残っているのは、たかとり教会だ。コロナの真っただ中、神戸に一人旅をした時、震災の被害が大きかった地域に足を延ばした。この教会も焼け落ちたが、震災後の復興の拠点となり、信徒たちの努力で再建された、と本には解説があった。しかも、私が幼児洗礼を受けた教会なのだ。
また、現在地元の教会の主任司祭をしている神父がここに赴任していた時期があり、掲示板には彼の若い頃の写真も貼ってある。教会のお世話役をしている中年の女性と、そんな話題でついつい話しこんでしまった。彼女はベトナム難民だったという。
今年はもう少したくさん巡ってみようかと、これを書きながら心が浮き立った。無理なく自由気ままに計画を立てる。初めての場所で知らない人と語らう。一人静かに祈りの時を持つ。それには、やっぱり一人旅がいい。
夫や友達と行く旅も楽しいけれど、一人で行く旅だからこその魅力が、そこにはある。


▲『日本の最も美しい教会』
八木谷涼子=文、鈴木元彦=写真
株式会社エクスナレッジ発行
祝・直木賞、『カフェーの帰り道』 ― 2026年01月16日
1月3日の投稿で、直木賞を予想して、『カフェーの帰り道』を挙げました。
見事大当たりでした。
著者の嶋津輝さん、おめでとうございます!


▽本日の朝日新聞朝刊のコラム「ひと」欄に、著者の嶋津さん登場です。

そして自分にもおめでとう!
私は、
《西暦2000年から現在までの直木賞受賞作を読破する》
という目標を自分に課して、読み続けています。半年に一度発表されるたびに、課題図書をクリアして楽しんでいるのです。
そして、その後、新たな目標として、
〈直木賞に選出される前にその作品を読了する〉
という課題も打ち立てました。1ヵ月前に候補作が発表になると、なるべくたくさん読んで占ってみよう、と頑張っています。全候補作を読めればいいのですが、とても忙しくてそれはできません。
今回は、女性候補から読んでみて、これがイチ押し! とほぼ決めていました。
もう一作『白露立つ』も、もうひとつのイチ押しでしたが、ダブル受賞とはなりませんでしたね。著者の住田祐さんはまだお若く、これから期待できそうです。
「なぜ直木賞なの」という理由は、2023年06月02日のエッセイにつづっていますので、ご興味のある方はぜひお読みください。
一緒に楽しんでいただけたらうれしいです。

テーマ「笑う」で書いたエッセイ:「笑っていいの」 ― 2026年01月31日

昨年の10月、神奈川県公安委員会からハガキが来た。もうすぐ運転免許の書き換えなのだ。小さな字でびっしり書かれたお知らせ事項の中に、持参する顔写真の説明図もある。
それを見て、もう一つの写真案件があったことを思い出した。エッセイ講師を務めるカルチャースクールから、「ホームページをリニューアルするので、この機会に講師のプロフィール写真も新しくしてください」というものだった。それほど古い写真ではないし、差し替えはいつでもできると言われ、のびのびにしていたのである。
そうだ、T写真館に行こう。
運転免許証は本人確認のため提示する機会が意外に多いのに、更新時に出向く警察署内の公安委員会で撮られる写真は、いつも不出来で気に入らなかった。しかたなく諦めてはきたけれど。
5年前のある時、新聞でT写真館の広告を目にして、免許証の写真もここで撮ってもらおうと思いつく。以前から、T写真館で撮った就活の履歴書の写真は内定率が高いという定評があって、地元では話題の店なのだ。
初めて店を訪ね、カメラの前に緊張して座る。男性カメラマンが「笑ってくださーい」と言う。え、証明写真なのに? と一瞬戸惑う。
「歯を見せなければ笑っていいんですよ。もっと口角を上げてみましょう」
そう言われて、ちょっと安心して微笑んだ。写真の出来栄えは期待以上だった。
その後、パスポート用の写真もここに依頼した。中国のビザ申請にも同じ写真を使おうとしたがダメだと言われ、その場で写された。悪意があるのかと思うほどひどい写真で、妖怪のような顔だった。
今年の正月5日、予約したT写真館へ。
ヘアメイクからお任せのフルコース。シミもしわも上手に消されて輝く肌になり、ヘアブローの後はスプレーで白髪も隠れた。
スタジオのカメラマンは、何枚か撮ってから、「笑ってみましょうか」と言った。今度は大丈夫、気負いなく、にっこり。
「ああ、いい表情ですよー。講師をなさっているから、自然な笑顔を作るのも慣れていらっしゃる」と、彼のリップサービスに、さらに乗せられて微笑む。
今月新しくなる運転免許証は、おそらく人生最後かもしれない。その写真も、今回撮ってもらう中から選ぶつもりだ。
メガネをかけ、テキストを手にして、講師っぽくポーズをとる。その1枚を新しいプロフィールとしてスクールに提出した。
「あら素敵! 生徒さんが増えますね」
「だといいですけど……」
実物を見てキャンセルされたら、それこそ笑えない話です。
