テーマ「笑う」で書いたエッセイ:「笑っていいの」 ― 2026年01月31日

昨年の10月、神奈川県公安委員会からハガキが来た。もうすぐ運転免許の書き換えなのだ。小さな字でびっしり書かれたお知らせ事項の中に、持参する顔写真の説明図もある。
それを見て、もう一つの写真案件があったことを思い出した。エッセイ講師を務めるカルチャースクールから、「ホームページをリニューアルするので、この機会に講師のプロフィール写真も新しくしてください」というものだった。それほど古い写真ではないし、差し替えはいつでもできると言われ、のびのびにしていたのである。
そうだ、T写真館に行こう。
運転免許証は本人確認のため提示する機会が意外に多いのに、更新時に出向く警察署内の公安委員会で撮られる写真は、いつも不出来で気に入らなかった。しかたなく諦めてはきたけれど。
5年前のある時、新聞でT写真館の広告を目にして、免許証の写真もここで撮ってもらおうと思いつく。以前から、T写真館で撮った就活の履歴書の写真は内定率が高いという定評があって、地元では話題の店なのだ。
初めて店を訪ね、カメラの前に緊張して座る。男性カメラマンが「笑ってくださーい」と言う。え、証明写真なのに? と一瞬戸惑う。
「歯を見せなければ笑っていいんですよ。もっと口角を上げてみましょう」
そう言われて、ちょっと安心して微笑んだ。写真の出来栄えは期待以上だった。
その後、パスポート用の写真もここに依頼した。中国のビザ申請にも同じ写真を使おうとしたがダメだと言われ、その場で写された。悪意があるのかと思うほどひどい写真で、妖怪のような顔だった。
今年の正月5日、予約したT写真館へ。
ヘアメイクからお任せのフルコース。シミもしわも上手に消されて輝く肌になり、ヘアブローの後はスプレーで白髪も隠れた。
スタジオのカメラマンは、何枚か撮ってから、「笑ってみましょうか」と言った。今度は大丈夫、気負いなく、にっこり。
「ああ、いい表情ですよー。講師をなさっているから、自然な笑顔を作るのも慣れていらっしゃる」と、彼のリップサービスに、さらに乗せられて微笑む。
今月新しくなる運転免許証は、おそらく人生最後かもしれない。その写真も、今回撮ってもらう中から選ぶつもりだ。
メガネをかけ、テキストを手にして、講師っぽくポーズをとる。その1枚を新しいプロフィールとしてスクールに提出した。
「あら素敵! 生徒さんが増えますね」
「だといいですけど……」
実物を見てキャンセルされたら、それこそ笑えない話です。
