自閉症児の母として(16):ジェットコースターに乗せられて②2013年10月24日



「お母さん、入院には付き添っていただけますね」
 初めての医師の診察を受ける時はいつも、問診票に「自閉症のためコミュニケーションが難しい」と書き込んでいる。今回の先生も、息子の様子で判断したのだろう。こちらから申し出るまでもなかった。
 個室に入れるというので、まずは一安心。

 それから、血液検査、心電図、レントゲン撮影などの検査を済ませ、病室へ。
 この市立病院を選んだ理由のひとつは、病棟を建て替えて2年という新しさが気に入っていたのである。受付前のホールには、ドトールのコーヒーショップまであるのだ。

 案の定、病室は、広いトイレも付いた、窓の大きな明るい個室だった。しかも、遮るもののない丘の上に立つ病棟の5階。雨模様でなかったら、窓の向こうに絶景が望めるはずだ。 
 
 息子を置いて、台風が接近する雨の中、自宅にとって返し、当座必要なものを準備して付き添い体制を整える。
 これまで2度の入院では、二人部屋を使わせてもらって、付き添いの私も患者用のベッドに寝ることができた。が、今回はまったくの個室。つまりベッドは一つ。私は簡易ベッドを借りることになる。幅70センチほどの折り畳みベッドと薄い布団。寝返りも打てそうにない。

 モトは、手術に備えて食事はなく、点滴で栄養を取っている。それでも、点滴を止めて、針先を刺したままの腕にビニールをまいてもらって、シャワーを浴びた。
 枕元にテレビもあるのに、わざわざワンセグでテレビを見ている。

手術前夜、ワンセグでいつものテレビ番組を見ていた。


 ときどきふっと手術のことを考えるのだろう、不安そうな表情になる。不安というよりも、緊張なのかもしれない。
「痛くないよ」
「眠ってしまえば、わからないうちに終わるから」
「終わったら部屋に戻るよ」
 ……今までの手術を思い出しながら、二人で何度もおさらいをした。
 安心させること。今の私にできるのはそれだけだ。

 モトは消灯時刻にはきちんと電気を消して、あっという間に寝顔になった。
 簡易ベッドは見かけほど寝心地は悪くなく、私もいつしか寝入っていた。
 ところが、うるさくて目が覚めた。夜半から雨は風を伴い、窓に激しく打ち付けてくる。竜巻が起きたら、この窓も割れてしまうだろうか。なるべく窓から離れるように、ベッドを移動させた。とはいっても、その距離1メートルではどうしようもない。
 見晴らしのいいはずの大きな窓が、今夜だけは災いしている。
 よりによって、台風の夜に入院だなんて……。

 眠れないまま、朝になった。
 台風は去ったのだろうか。雨は止んで、ときどき薄日が差しているようだ。
 カーテンを開けると、予想通りの絶景! 
 目の前には、武蔵小杉の高層ビルが並んでいる。その中央にそびえているのは、なんと半年前までモトが勤めていたビルだった。
 かつての同僚が応援に駆けつけてくれたようで、あたたかい気持ちになった。

病室の窓から。

                              (続く)

                              
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