ダイアリーエッセイ:偶然はおもしろい。2015年12月03日




西加奈子著『通天閣』を読んだ。

『サラバ!』と同じように、人生のどん底まで行ってしまうその一歩手前で、主人公はふっと顔を上げて、光を見る話。

彼女の本はまだ2冊目だけれど、ありふれた日常のリアルな描写に、ものすごい笑いのツボを感じることがある。例えば、スナックのホステス一人ひとりの個性。どれも「あるある!」と笑える。「サーディン」という店の名の由来も笑えたが、これは読んでのお楽しみ。

寝る前の読書タイムにはベッドの中で何度も声に出して笑い、明日、電車の中で読むのはやめようと、何度も思った。


極めつけは、母親の電話のくだりである。

 

お母さんはいつも電話を切った後、「言うの忘れてたわぁ」と、二度目の電話をかけてくる。しかも、言い忘れてたことは、全然大したことじゃない。

(あるある! ……と、世のお母さんたちはきっと思うだろう。特に、一人暮らしの娘のいるお母さんは。私もそう)

「近所のゆっこおばちゃんが再婚した」だとか、「新しい炊飯器を買ったらゴハンが格段に美味しい」とか……

 

ここで、私は大爆笑。

それを読んだ日、わが家は新しく炊飯器を買い替えたまさにその日だったのだ。そして、同じようなことを、家族と話していたのだった。

 

後日談。

昨晩、用があって娘に電話をした。受話器の向こうでは、ポリポリムシャムシャと遅い夕飯を食べているらしい。

用がすんでも、例によってだらだらと、どうでもいい話を二人で続けていた。

そこで私は、こっそり文庫本の付箋をつけた143ページを開き、さりげなく読み上げた。

「新しい炊飯器を買ったらゴハンが格段に美味しい」

「へえ、買ったの?」

「そうよ。ふたが壊れそうだったし、美味しいお米も取り寄せたから」

 娘は何も気づかない。


……と、フィクションを現実の世界に持ち込んでみた。

たわいないイタズラでした。

 


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コメント

_ kattupa ― 2015/12/09 05:59

Hitomiさま、炊飯器を買って、娘さんに電話
したが反応がない様子、面白いですね。
我が家でもそんな経験があります。『通天閣』
面白いタイトルですね。読みたいと思います。

_ hitomi ― 2015/12/10 23:15

kattupaさん、
『通天閣』は、面白いですが、賛否両論あるようです。直木賞作家にもいろいろいますからね。
さて、kattupaさんにはどう感じられるでしょうか。

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