フォトエッセイ:花嫁の母として⑤ ― 2017年02月18日
「花束もお手紙もやめてね。泣かせの演出は必要ないから」
娘には、準備の段階からそう言い渡してあった。
今まで出席した親戚の披露宴でも、テレビで見るよその人の映像でさえも、感動して泣いてしまう私だ。まして、自分がその立場になったら、爆泣き必至であろうから。
あれほど釘をさしておいたのに、やはりご多分に漏れず、披露宴の最後に、娘から大きな花束を手渡されてしまった。うれしくないはずはないのだが……。
さらに、手紙も読んでくれたのだった。
そこには、これまで育ててきたことへのたくさんの感謝の言葉があった。
「心配ばかりかけてごめんなさい」
「毎日お弁当を作ってくれてありがとう」
そして……
障害のある長男のせいで、娘がつらい思いをしないように、
「気づかってくれてありがとう」
もういけない。こみ上げる涙を何度も指先でぬぐった。
それでも、泣き虫の私にしては上出来だったと思う。せわしないながらも、披露宴のお客さまとともに、ちゃんと楽しむことができた。
帰りは、母を乗せてタクシーで帰路につく。イルミネーションが美しいみなとみらいの夜景を堪能しながら、晴れ晴れとした気分だった。
「おつかれさま!」
とにかく喉がカラカラ。冷えたビールがいつになく美味しいと思った。
花嫁から贈られたブーケは、ピンク色のバラ、大輪のガーベラ、オフホワイトのカーネーション。今までにも娘からは何度か花をもらったけれど、これが一番きれいで、一番せつない花束だった。
〈最終回に続く〉
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