ダイアリーエッセイ:明日はきっと晴れ ― 2022年05月06日
昨年、母を見送った頃の疲れが、今頃になって出てきたのか、ここのところ体調を崩し、体中が悲鳴を上げています。
せっかく友人が誘ってくれて3月に入団したコーラスも、どうしても続けられずに、悩んだあげく断念。がっくりの気分です。
こうなったら、とことん健康回復に努め、アンチエイジングに精を出すことにしよう。転んではただでは起きまい、と決めました。
今日も、整形外科のリハビリへ。1時間も待たされましたが、その間にたっぷり読書ができました。
そして、帰りには息をのむようにきれいな夕焼けに出会うことができました。
明日はきっといい天気。私にも明るい未来がきっと来るはず……!
そう思えた夕暮れの一瞬でした。
驚きの一冊、『非色』 ― 2022年05月11日
友人が絶賛して貸してくれた『非色』は、2020年11月に発行された河出文庫の一冊です。
当時、アメリカで黒人男性が白人警察官の不要な暴力によって命を落とし、BLM(Black Lives Matter)運動のうねりが世界的に高まったのでした。その後、コロナとウクライナ侵攻に報道番組が乗っ取られてしまったかのようですが、まだ記憶に新しく、根の深い問題として、人種差別とその抗議運動は、現在もなお続いています。
小説の主人公である日本人女性の笑子(えみこ)は、黒人と結婚してアメリカに渡り、4人の子をもうけます。その暮らしの中で人種差別を体験し、それはなぜなのかと自問し、理由を解き明かそうと苦悩するのです。
彼女と同じ境遇の女性たちが、実にたくましく生き抜こうとする姿には、感動を覚えます。
しかし、私の驚きの理由は、そこではありません。
タネを明かすと、この小説は1964年に書かれたもの。故人となった作家の有吉佐和子氏が、アメリカ留学後に執筆した作品だそうです。初めは角川文庫から出版され、すでに絶版となっていました。BLM運動が盛んになった2020年、河出書房新社がタイムリーに再文庫化したというわけです。
小説としても古臭さはほとんどなく、「どうなる? どうする?」と、どんどん読み進めたくなるおもしろさがあります。米国の複雑な差別問題が、令和の世に生きる私たちに問いかけられても、笑子と一緒に考えたくなる謎解きのようなおもしろさ……と言っても大げさではないでしょう。
今から半世紀以上も前に、有吉氏33歳の時に書いたというのですから、作家としての筆力と、先駆的な洞察力には舌を巻きます。
有吉氏の著作で思い出すのは、『恍惚の人』。まだ認知症という言葉のなかった時代に、「痴呆老人」の介護問題を投げかけて、ベストセラーになった小説でした。私はまだ高校生でしたが、同居していた祖母も同じような症状が進んでいたので、興味を持って読んだのを覚えています。
今では当たり前になった認知症の常識や社会福祉が、当時はまだ整っていませんでしたから、彼女の先見の明には本当に感服します。
改めて、ご紹介します。
有吉佐和子著『非色』河出文庫2020年。
おススメしたい一冊です。
1000字エッセイ:娘の上海事情 ― 2022年05月15日
☆ 娘の上海事情 ☆
娘は2021年2月、コロナ禍の真っ最中に、夫を東京に残して上海に単身赴任した。
その頃の中国は、厳しいゼロコロナ政策を取り、感染者数を抑え込んでいた。ところが、今年3月になると、上海市内の感染者数が急上昇し、ついにロックダウン。毎日のPCR検査以外は外出禁止で、娘の勤務はリモートワークとなる。
娘とはLINEでやりとりをする。込み入った用事があれば電話をすることもあるが、たいていはメッセージのみ。月に数回、仕事のじゃまにならないように、私にしては控えめな短めのメッセージを送ると、さらに短めの返信が来る。あまりおしゃべりな娘ではない。
上海の状況は、日本でも連日のように報道される。静まり返った街区や、PCRに並ぶ人々が映し出されている。
「検査の行列で、グレーのオーバーの女性、あなたにそっくりだったけど」
「残念、はずれ。今日は紺色のダウンでした」
ロックダウンは延長され続け、テレビニュースでは、「配給の食糧が届かない。餓死するよ!」と、ビルの窓から住人たちが叫んでいる。暴動まで起きているらしい。
もう子どもではないのだから、と思っても、さすがに心配になる。
「大丈夫なの?」と問えば、配給で届いた青菜やオレンジ、三十個入りの卵の写真などを送ってくる。一人では食べきれないほどの量だ。マンションで一括して取り寄せるという。欧米人の多く住む地域だから、優遇されているのだろうか。
五月初め、中国も労働節という五連休がある。久しぶりにのんびりと料理をした、と写真が届いた。
「トマト缶もオリーブ油もなくて、スープみたいだけど、ラタトゥーユです!」
トマト、ナス、マッシュルーム、ズッキーニなどの野菜が、お鍋いっぱいに入っている。買い物ができないので、香辛料もワインもないという。どんな味に仕上がったことやら。一緒に食べるはずの夫とも遠く離れて、それを一人寂しく部屋で食べているのかと思うと、母親としては切なくて涙が出た。
かと思うと、
「きのう、小麦粉と砂糖が来たから、今度はお菓子を作るね」
と、楽しそうなメッセージが届いた。
もともと娘は何が起きても動じないところがある。どこへ行ってもたくましくサバイバルするだろう。涙を拭いて応援しよう、と気持ちを切り替えた。
娘よ、がんばれ!