エッセイの書き方のコツ(34):「プレバト‼」から学んで2020年08月23日


「プレバト!!」という番組をご存じでしょうか。

俳句、水彩画、生け花などなど、タレントたちが意外な才能を発揮して創り上げる作品を、著名な講師が査定をして、順位をつけるというものです。

「俳句がおもしろいのよ」と、友人に勧められて、ようやく見るようになったのは、昨年3月に長男がグループホームに入居してからのこと。彼はテレビ番組へのこだわりが強く、家族が見たい番組を自由に見ることができなかったのです。

 

番組の俳句の師匠は、和服の着こなしも板についた夏井いつき先生。梅沢冨美男氏をオッチャン呼ばわりして毒舌を吐く先生だけれど、俳句のほめ方けなし方には温かみがあり、評も解説もじつに的確で、ほれぼれします。いっぺんにファンになりました。

 

昨年の夏の番組で、作者の男性が誰だったかは忘れましたが、こんな句が出ました。お題は、屋外の水飲み場の蛇口の写真で一句。

 

  1000本ノック浴びし日のレモン水

 

高校生の時に野球部員だった作者が、夏休みの練習を思い出して詠んだとか。しごかれた後に飲んだレモン水がおいしかった。作者は青春を振り返ります。

 

それを夏井先生は、こう直しました。

 

  1000本ノック浴びし日のありレモン水

 

どう変わったかおわかりでしょうか。

高校時代のレモン水が、2文字増やしただけで、現在の手元のレモン水となりました。作者は今、それを味わいながら、そういえば高校生の頃……と、青春を振り返っているのです。


「レモン水」は夏の季語です。

先生は、「季語の鮮度を保つのも大事」と言われました。

つまり、昔の思い出だけをまとめたら、季語のレモン水はセピア色。でも、手元にあるレモン水は冷たくて酸っぱい。生唾ゴックンとなりそうなほど、フレッシュな季語となって光っている。

そこから思い出が手繰り寄せられて、時間的にも奥行きが出る句となるのですね。

 

エッセイも同じだと思いました。

例えば、子どもの頃の雷の思い出をつづったエッセイ。「蚊帳の真ん中に寝れば大丈夫だからと言われた」。今ごろになって、なぜこれを書くのか、その動機が知りたくなってきます。

「今日は午後から雷が鳴りだして、……」のような現在の視点から書いてあると、今の作者の不安感や恐怖感が、子どもの頃の思い出をよみがえらせたのだ、と納得がいきます。

 

このようなエッセイの定型として、まず、現在のことを書いて、過去にさかのぼって思い出をつづり、また現在に戻って終わる、というものがあります。この構成を、私たち仲間内では「サンドイッチ型」と呼んでいます。サンドイッチのように、過去を現在で挟むわけです。

時間の流れがわかりやすいように、時制が替わる部分に一行空けを使うといいですね。

現在(一行空け)過去(一行空け)現在

 

たった17文字の俳句と、600字でも2000字でも字数の調節可能なエッセイとは、まったく別の文芸だと思われがちですが、日本語を用いて、日本人の普遍的な感動を表現するという点では、同じではないでしょうか。

夏井先生の切れ味の良い講評を聴きながら、エッセイとの共通点を発見しては、そんな思いを強くしています。


▲私も勉強しています。

 


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