ダイアリーエッセイ:図書館の新兵器?!2020年09月09日

 

私の人生、あまり図書館を利用してこなかった。

10年ぐらい前だったろうか。たまには覗いてみようかと、近くの図書館に行ってみた。その空気の悪さ、湿気とカビ臭さにぞっとした。手に取った本も汚れていて、気持ちがしぼんで、やっぱり足は遠のいた。

 

でも、最近になって、図書館を上手に利用している友人を見習い、お世話になろうと思い立った。高い本代もばかにならなくなってきたし……。

昨年の秋、市の図書館に登録すませ、新聞の書評欄で目に留まった本を借りようと、初めてネット予約を入れた。奥田英明著『罪の轍』。およそ300人待ちだ。すぐに読みたいというわけでもないので、気長に待つことにした。

 

そして、その本をようやく手にしたのが、今日の午後。なんと11ヵ月もかかったのだ。さぞや手垢で汚れているのではないだろうかと、特にコロナ禍の今は、心配になる。

が、しかし。

カウンターから出口に向かう途中、思わず足を止めた。

「除菌BOX」!!

大型の電子レンジのような機械で、中の棚に本を置き、扉を閉めて待つこと45秒。紫外線が照射されて、本が除菌される、らしい。

懐疑的な私も、ちょっとだけ安心して、本を抱いて帰宅した。



 


このマシン、以前からあったのですか。 

私は図書館の浦島太郎だったのでしょうか。

マシンの扉を開けたら、煙が出て、真っ白い髭が生えたりして……

 



終戦記念日によせて2020年08月15日

 

75年前のこと。86日に広島、9日には長崎に原爆が落とされ、日本は15日に敗戦を迎えました。

8月は、戦争と平和について考え、のちの世代に平和の尊さをしっかりとつないでいく時期でもあります。

 

現在の日本も新型コロナウィルスと戦っているとはいえ、まったく異質の、人為的な長い戦争のなかで、300万人以上の犠牲者を出したという事実だけをみても、比べようもない愚かな戦いだったのです。

 

私は戦争を知らない世代ですが、先輩がたから多くのことを学びました。

辛い思い出を書き留めたエッセイも、たくさん読んできました。

「戦争体験を書いてください」とお願いもしてきました。


 

さて、先日89日の朝日新聞に掲載されたエッセイをご紹介します。

(クリックすると拡大します)



 

ご記憶の方もおいででしょう。私のエッセイ仲間、河崎啓一さんの投稿です。「感謝離」のエッセイが大反響を呼び、本まで出版してしまったという90歳の男性です。

 

掲載の翌日、彼から届いたメールは、こんなつぶやきで締めくくられていました。


「あの日を振り返ってみれば、私は中学2年生。叔父の出征を大喜びする軍国少年でした」


90歳の彼が今、かみしめている万感の思い……。深く静かに、私の胸にもしみてくるようでした。




 


本日の直木賞のゆくえは?2020年07月15日

 

本日は、静岡県浜松市のカルチャースクールでエッセイ講座の日でした。

ご多分に漏れず、新型コロナウイルスの感染防止のため、3月から休講になって4か月、ようやく再開する予定だったのですが、昨日になって急きょ延期となりました。ここ1週間ほど東京圏の感染者数増大が懸念され、関東からの方は、講師も受講者もご遠慮ください……というわけです。いたし方ありません。

 

まる一日の暇ができて、ふと思い立ったのが、私の好きな直木賞のこと。今日が今年上半期の直木賞作品選考の日。すでに午後2時から選考が始まっているそうです。

そこで勝手に予想してみました。

残念ながら、私がすでに読んだ候補作は1編だけ。遠田潤子著『銀花の蔵』。初ノミネートとはいっても、受賞しても不思議ではないすばらしい作品でした。

順当にいけば、ノミネート回数最多の馳星周著『少年と犬』でしょうか。

でも、私は犬が得意ではないので、それよりも今熱中している戦国時代が舞台の今村翔吾著『じんかん』を読んでみたい。

というわけで、この3作のうちのいずれかが、数時間の後、受賞の栄誉に輝くのではないだろうか。私の希望的推測に過ぎませんので、あしからず。





 

 

ダイアリーエッセイ:自粛の日々が明けて2020年06月17日


 (スマホの方は、こちらでお読みください)

 東京アラートも消え、新しい生活様式で経済を回そうという時期に入った。

 昨日、3ヵ月ぶりに、電車に乗って買い物に出かけた。友人へのプレゼントの品を探して、大型ショッピングセンターに足を踏み入れる。平日の昼間とはいえ、客足はまだ半分程度。どの店頭にも消毒液が置いてあって、店を替えるたびに利用する。

美しく並んだ商品、それらを照らし出すきらびやかな照明。還暦祝いの赤い色を求めて歩いていると、心が弾んでくる。

小ぶりの花柄のバッグを手に取り、赤かピンクかと迷っていると、若い店員が精いっぱいの笑顔で寄ってきた。彼女も久しぶりの出勤を喜んでいるにちがいない。

「作家ものの手作りなんですよ」 

「どの柄も素敵ね」

売るほうも買うほうもマスク越しだけれど、ショッピングの楽しさを分かち合う。

その後、地下売り場の一角にあるお目当てのケーキ屋さんのコーヒーショップへ。このショッピングセンターに来ると、よくここで一息入れたものだ。やっとお預けだった楽しみが返ってきたのだ。

店内をのぞくと、明らかにテーブルの数が減っている。スタッフの数も少ない。入ろうとすると、止められた。

「手を消毒なさって、こちらにかけてお待ちください」

 マスクの上にフェイスシールドをつけ、青い手袋をはめたウェイトレスが、前の客の食器を片付け、丁寧にテーブルや椅子を消毒液で拭いてから、私を案内してくれた。

 香り高い熱いコーヒーと、さわやかな甘さのレモンタルト。ああ、おいしい……!

 透明のカーテン越しのレジで、レシートを受け取ると、思わず声をかけた。

「しばらくは大変でしょうけど、頑張ってくださいね。またいただきに来ますから」

「ありがとうございます。またぜひお越しくださいね」

泣きそうな笑顔が返ってきた。

 自粛の日々は明けた。感染を防ぎながらも、生の声をかけ合えることが何よりうれしいと思った。



▲客の出入りのたびに、てきぱきと消毒作業を繰り返すスタッフの人たち。

自閉症児の母として(63):今なすべきこと2020年03月14日

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新型コロナウィルスの感染防止対策で、テレワークや時差出勤が奨励されています。長男の職場も、930分の開始時刻が30分遅くなりました。

 

今お世話になっているグループホームからは、「この時期も福祉施設としてのサービスに努める」というお知らせがあり、ほっとしていたのですが、数日後には、

「電車通勤はリスクが高いから、しばらく会社には行かずに、同じ系列の生活介護の施設に通ってもらえないだろうか」という連絡が来ました。

 

息子は片道15分ほど電車に乗ります。とはいえ、手洗い、マスク着用など、普段から徹底しているし、体も丈夫で基礎疾患などもない。その点では一般的な社会人とほぼ変わりません。

グループホームの側からしてみれば、一人でも感染者が出れば、スタッフも利用者も全員が濃厚接触者となり、大変なことになるのは目に見えている。最善の策を取りたい気持ちもよくわかります。

その申し出に即答はできませんでした。

 

息子は世の中のニュースにとても関心を持っています。自閉症の彼にとって、この世界は混沌としている。だからこそ彼を取り巻く世界を、彼なりに理解し、把握していくことが、心の平穏を保つことにつながります。

ところが、現在の彼を取り巻く世界といったら、エレクトーンのレッスンもしばらく休止。大好きなJリーグも開催延期。大相撲も無観客で行われる。オリンピックさえも危うい。そして何より新型コロナウィルスはまだまだ感染の予測が難しい……。経験したことのない現在の状況のなかで、彼なりにやむを得ない事情を理解し、緊張しながらも耐えているのです。


そんななかで、大きな支えとなっているのは、日常のルーティンを続けること。グループホームで自立した生活を送り、時間は少しずれてもいつもどおりに出勤し、プライドを持って仕事を続けていくことだろうと思うのです。それなのに、未知の施設に通うとなると、それこそ彼の支えはなくなり、精神的な安定も崩れてしまうのではないだろうか。そう思えました。

 

一日考えて出した答えは、息子には今までどおり通勤を続けさせようということでした。そのため、電車通勤が心配ならば、その時間を少しでも短くして、リスクを減らすことに協力する。というわけで、その日34日の終業時から、息子を職場の近くでピックアップして、グループホームまでアッシー君を務めることにしたのです。朝の出勤時だけは協力が難しいので電車を使わせてもらう。それでも、週末の帰宅も合わせれば、電車の利用は半分以下になります。

苦渋の決断でしたが、グループホームには快く受け入れてもらうことができました。

 

もともと車大好きな息子は、新たなルーティンが気に入ったようで、車での移動には問題なし。

職場の昼休みにかならず電話をかけてきて、「いつもの駐車場で待ってるからね」という母の言葉を確認して安心するようです。

車内ではまず用意したおやつを食べ、それからくつろいだ様子でゲームを始めます。

私にとって、毎日夕方2時間近い時間を取られるのは、けっしてお安い御用とはいかないけれど、息子同様もともと車が大好き。西に向かうフロントグラスには、西日がまぶしかったり、たなびく雲がダイナミックだったりと、早春の空に意外な発見があって楽しめます。コーヒー片手にサザンを聴きながら、ストレス発散のためのドライブだと思うことにしました。

 

もっとも、毎日こんなことができるのも、私のエッセイ教室や趣味の集まりがすべて中止になったからです。

小中高の学校が休みになって、仕事を持つ保護者の皆さんはさぞやお困りのことでしょう。想像に難くありません。

私もいつまでアッシー君を続けるのか、そろそろ予定を決めていかなければ。予測不能の出来事が苦手な息子のためにも。

 

今日も、みぞれが降りしきる中、昨日からわが家に泊まっていた息子をホームまで送ってきました。

 


 


切ないひな祭り2020年03月07日


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1ヵ月のご無沙汰でした。

ご多分にもれず、私も新型コロナウィルスの拡大防止のため、たくさんの予定が、中止や変更になっています。

ところが、タイミングがいいことに、ちょうど2月の下旬から、家中の模様替えを始めたところで、出かける予定がつぶれるたびに、手を付ける箇所が広がっていくのです。連日朝から軍手をはめて、古い家具を処分したり、クロゼットの棚を片づけたり、さらには大型4Kテレビや新しい家具を買い入れたり……と、断捨離と大掃除にどっぷり浸かってしまいました。いまだに終わりそうにありません。

 

先日、都内に暮らす娘に、「たまには帰れないの?」と電話をしました。

「私たち若い人は発症しないだけで、もうウィルス持ってるよ。みんなそう思ってる。家に帰ったりしたら、うつしちゃうから、帰らないほうがいいでしょ」

なんだか悲痛な叫びに聞こえて、こちらも切なくなりました。

学校は一斉に休みになっても、企業戦士たちは感染リスクが高い満員電車で出社して、働き続けなくてはならない。テレワークや時差出勤を推奨されたって、そうはいかない職種もある。職場では社員同士でそういう話をしているらしい。

わが身の危険も顧みず、身を粉にして働いていた横浜港のクルーズ船の職員たちのようだわ、と思いました。

 

遅ればせながら、桃の節句の翌日、雛人形をクロゼットの奥からようやく運び出し、2年ぶりに飾りました。帰らない娘の無事を祈りながら。





 



帰国の翌日から2019年10月25日

 

103日の夜に成田から飛び立って、58日。クロアチアの旅を終えて、10日の夜、無事に帰国しました。

 

ところが、帰る前から「史上最強の台風が関東に接近している」という恐ろしい情報が入っており、半信半疑でしたが、予報どおりの現実となりました。

帰国翌日には、スーツケースの荷解きと並行して、夫と次男と3人で台風対策におおわらわ。買い出しに行く人、ガラス窓に段ボールを貼り付ける人、懐中電灯の明かりを確認する人、カセットコンロをチェックする人、ベランダの竿を外す人、それを室内で受け取る人……。

いつもは週末の朝に帰宅する長男も、金曜の仕事が終わったら帰宅させました。

 

翌12日、夕方になると、雨も風も激しくなってきて、不安と緊張が高まります。わが家は高台にあるので、水の心配はなさそう。怖いのは風。生垣に囲まれた1階とはいえ、何が飛んできてガラスを割ってしまうかわかりません。

家族4人一緒だし、備えも万全、きっと大丈夫……と思いながら、夕食をとっていると、ぐらりと揺れるではありませんか。

「おいおい台風と地震のコラボか。冗談じゃないぜ」と息子たち。

NHKテレビの画面は、台風情報と地震情報、青い額縁が二重になっていました。


 

食事もさっさと片付けて、鍋という鍋に水を入れました。浴槽もきれいに洗って水を張りました。わが家はオール電化なので、いったん停電すると、水道もトイレもガスも使えません。

9時を過ぎたころ、ふっと明かりが消えました。停電です。さっそく準備しておいた懐中電灯やスマホの照明が役に立ちます。でも、23分であっけなく復旧しました。……と思いきや、また停電。また復旧。3回繰り返した後は、長い停電が続きます。

 

することがない、と夫はさっさと寝てしまいましたが、息子二人と私は、寝るにはまだ早い。次男が珍しく部屋からギターを持ってきて、ポロンポロンとつま弾きます。3人でたわいのない話をしながら、いつもとは違う暗闇の中で、まったりとした時間が流れていきました。

家中の明かりがぱっとついてテレビの音が響いたのは、寝入った明け方3時半ごろでした。風はぴたりと止んでいました。

 

翌朝からは、各地の被害状況が刻々と伝わってきて、台風19号の豪雨災害の恐ろしさを知ることとなるのです。

神奈川県と東京都の境界を流れる多摩川も例外ではありません。慣れ親しんでいる地域が浸水し、同じ区内でも犠牲者が出ました。ご冥福をお祈りします。

その方はわが家と同じ「マンションの1階に住む60代の男性」ということで、たくさんの方に「あなたのご主人では?」とご心配をいただきました。


 

今なお、災害の傷痕深く、行方不明の方もいて、胸が痛みます。今日もまた大雨。報道から目が離せません。

そのかたわら、にわかファンとして、ラグビー日本代表チームの快進撃に大興奮。被災者のためにがんばる。勝って元気をあげたい。そんな彼らに、私もテレビの前で声援を送り続けました。

また、22日の天皇陛下ご即位の儀式にも、そのお言葉にも、大変感慨深いものがありました。

この半月ほどは、日本人だれもが、次々と心をつかまれるような出来事が続く日々ではなかったでしょうか。

 

長い前置きになってしまいました。どうしても書いておきたかったのです。

では、次回から始めます。

旅のフォトエッセイCroatia2019

どうぞお楽しみに!



 

 

ダイアリーエッセイ:この日にあたり、ごあいさつ。2019年09月29日



今日は、929日。長男の33回目の誕生日です。

「軽い自閉症ですね」と、小児科医に診断を下された日から、30年が経ちました。なんとまあ、長い歳月だったことでしょう。涙あり、笑いあり、苦しみあり、喜びあり。あらゆる思いがぎゅうぎゅうに詰まった30年間でした。

 

そして、この春、自宅を離れて自立の第一歩を踏み出してから、7ヵ月。

毎晩、夕食後に電話があり、その日の食事のメニューや、サッカーJリーグの試合結果、大相撲の勝敗などを報告してくれます。

毎週土曜に帰宅し、翌日にはホームに戻ります。

生活は順調で、小さな問題はあっても、本人が自立して暮らしていることにプライドを持ち、満足している。それが何よりも大切なことなのではないでしょうか。

 

昨晩は、家族5人が集まって、近くのレストランで夕食をとりました。

33歳の抱負は?

「ホームでの生活をがんばります」 

 



介護施設にお世話になっている母も、健康状態は良好。穏やかに過ごしているので、ここらでほっと一息、ついてもいいかな、と思いました。

そんなわけで、10月上旬、1週間ほど旅行に出ます。

 

今回も3週間ぶりのブログ更新になってしまいました。

旅行の前後がとても忙しいのは毎度のこと。「何も今じゃなくてもいいのに……」と思うような用事が、向こうから手を振ってやってくる。それをクリアしていくことで、旅行の喜びも増すというものですね。(強がり?)

次回は帰国後に、楽しい写真をご覧いただければと思います。

行き先は、クロアチアです。


 



ダイアリーエッセイ:熱帯の花たち2019年09月08日


今日は、ちょっとばかり骨休めに……


沖縄の海デ~ス……と言いたいところですが、東京都板橋区です。熱帯環境植物館に行ってきました。ミニ水族館もあるのです。

 

ここでバイトをしている家人から、

「世界で一番大きなランのタイガーオーキッドに花が咲いたから、ぜひ見に来て」と言われました。えー、この暑いのに、とブツブツ言いながら、1時間半も地下鉄に乗って出かけていきました。屋内はまさに熱帯環境“。

お目当ての花は、なんとなく地味で、名前どおりにトラ柄……というより、ヒョウ柄では? 

この株の背丈はせいぜい3メートルぐらいだけれど、高いものでは7メートルにもなるらしい。▼



 

それよりも、私は甘い香りのプルメリアが好きです。▼





▲中に、実が生っているものがあって、とても珍しいのだとか。ちょっとオクラのようなサイズと形の硬い実が2本ずつ、花の間から左右ににょきっと顔を出しています。

ドラえもんのタケコプターみたい。


▲甘い香りと言えば、オンシジウム・シャーリーベイビー。

このランは、チョコレートそっくりの香りがしました。

バレンタインの贈り物にもいいですね。チョコを食べなくても、香りだけで満足できて、ダイエット効果もありそう……?

 

ところで、昨年ここに来た時に、ひと目で惹かれた絵があります。ブラジルの画家が、アマゾンのジャングルを描いた大作です。そこに生息するさまざまな動植物が描かれていて、その色づかいも筆づかいも、とても繊細で観ていて飽きません。

▼遠くから撮れない場所に展示してあり、右4分の1ほど欠けています。ごめんなさい。


昨今、アマゾンが加速度的に焼失していき、大問題になっています。かけがえのない大自然を、人間の欲望だけで変化させてしまうことのないように、解決の道を探ってほしいものですね。



川崎市登戸の殺傷事件に思う2019年06月08日


事件発生から10日がたちました。次々と明らかになる犯人の素性や犯行理由を聞くたびに、暗澹たる思いが胸をふさぎます。

書かなくては次に進めない気がして、書くことにします。

 

528日の朝、テレビのニュース速報で、

「川崎市多摩区登戸で刃物を持った男が、通行中の小学生を……」

という文字を見た時、不安が走りました。わが家のある高津区に隣接する区で、息子のグループホームも多摩区内。そしてすぐに、「カリタスの子どもたちは大丈夫かしら」と思ったのです。

カリタス学園は、姉が中学高校と通った学校。私も子どもの頃は、毎年秋の学園のバザーのたびに、お祭りに行く気分で出かけたものです。どこよりもなじみのある私立学校でした。

 

やがて、さほどの時間をおかずに、カリタス小学校の児童が被害に遭ったという続報が入ります。不安は戦慄に変わりました。

他の学校だったら平気だったというわけではなく――

その日は偶然にも、ケベック・カリタス修道会のシスターとご一緒する予定になっていたからです。しかも、その80代のシスターは、カリタス学園のために長いこと尽力されてきた教育者でもありました。

 

朝、動転したままの気持ちで、修道院に迎えに行くと、シスターはいつもと変わりない様子でした。刻々と被害者の情報が伝わり、小学生が亡くなったという知らせにも、「私があわててもどうしようもないでしょ」と、平常心で私たちに接してくれました。

シスターの携帯には、ひっきりなしにメールや電話が入ります。冷静に対処するシスターに、頭が下がりました。その落ち着いた姿に、救われました。

 

翌日、所用で南武線に乗って川崎方面に出向きました。その帰り、疲れて眠っていた私は、乗り過ごしてしまいました。降りたのは、登戸の一つ手前の駅。頭上には現場を取材に来たのでしょう、ヘリコプターが飛んでいました。

引き返そうと反対側のホームに向かいます。目の前のエレベーターに乗り、階段を降ります。……が、まだ寝ぼけていたのか、やはり同じホームに立っていました。今度来た電車に乗れば、次は登戸です。事件の現場に行ってこようか。一瞬迷いました。呼ばれているのかもしれない、と思ったのです。

でも、家族のため、これ以上遅くなるわけにはいかない。今度こそ、反対方向の電車に乗って、帰宅の途に就きました。

 

自宅でも、事件に関する報道を見続けました。近くで起こった事件に、いたたまれない気持ちがさらに膨らんでいきます。

事件から2日目、花を手向けようと、思い切って登戸に向かいました。

前夜の雨で地面は洗われ、照りつける強い日ざしがあふれ、事件の生々しい雰囲気など皆無でした。2日前に救急車が列をなしていた車道には、いつもどおりの車の流れ。テレビで見るよりも狭い歩道には、硬い表情で人々が通り過ぎていきます。

そして、現場となったファミリーマートの駐車場には、ずらりとマスコミの取材カメラが並んでいました。気圧されて献花に近寄れない……。それでも、せっかくここまで来たのだからと、日傘で顔を覆い隠しながら、その場に近づき、ピンクとオレンジ色のガーベラを供えて、手を合わせました。この場だけは異様な静けさでした。

山のように盛り上がる献花。愛らしい色彩の花々は、亡くなった少女の笑顔のようでもあり、手向けた人たちの言葉にならない辛い思いを、吸い取って昇華させているようにも見えました。

 



数日後の日曜のミサで、くだんのシスターは、「ご心配をいただきまして……」と挨拶されました。よく通る声、凛とした姿。

「犯人を憎むよりも、あの加害者のように、今も暗闇の中で生きている人がいることに思いを馳せてください。あなたのことを心配していますよ、と心を寄せてあげてください」

そういえば、事件翌日の新聞にも、心理学者のコメントがありました。同じような事件が起きないようにするには、「社会の中で絶望を感じる人を減らすしかない」と。

 

これから何をなすべきか、少しずつ見えてきたような気がします。

けれども、私の気持ちが落ち着いても、犠牲者の遺族の悲しみは決して消えることはありません。

亡くなられたお二人が、天国で安らかに憩うことができますように。

そして、ご遺族の方々の悲しみが少しでも癒されますように。

心から祈りたいと思います。



 

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