800字のエッセイ:「熱中症の記憶」 ― 2023年09月08日
もう60年近く前、小学校4年か5年の頃だったと思う。
体育の時間、強い日差しの校庭で、野球のバットの代わりに、ラケットを使うラケットボールをしていた。
ふと、「なんか、変」と感じた。目がよく見えない。見えてはいるのに、目玉がぐるぐるして視点が定まらないような感覚。周りの音も友達の声も聞こえているのだけれど、遠くの方から聞こえてくるみたい……。なんだかおかしい。
それでも並んで待ち、私の番になると、ボールを打って一塁の方に走った。記憶はそこで途切れる。
目が覚めた時は、保健室の白いベッドの上にいた。白衣の先生から、えんじ色の液体の入ったグラスを「はい、飲んで」と渡される。ごくりと飲むと、のどの辺りがかーっとした。
遠い遠い記憶だが、今でもしっかりと覚えている。
そして最近見たテレビ番組で、熱中症の症状として目が見えにくくなったり、聞こえが悪くなったりすることもある、という医師の話を聞いて、あれは熱中症だったのだと思った。当時は日射病という言い方をしていたけれど。
子どもはあまり自覚症状がなかったり、うまく訴えることができなかったりする。先日、熱中症で亡くなったお子さんのニュースには胸が痛んだ。
子どもの「なんか、変」を大人が素早くキャッチして助けてあげてほしいと思った。
それにしても、あのえんじ色の液体は何だったの?
今、私が大好きなアレだったのかな……
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