旅のエッセイ:「古希の大冒険に旅立てば」前編 ― 2025年08月31日

古希の大冒険に旅立てば
昨年夏に初めて南仏のコートダジュールを訪れて、すっかり魅了された。ニースへはそんなリピーターも多いと聞く。私も「また行きたい」と言い続けていたら、友人のカヨさんからお誘いがかかった。憧れのリピーターになるチャンス到来、夢のようだ。
二つ返事をした後で、詳しく聞いてみると、彼女は別の友人から、「イタリアに住む親類に会うため、一緒に行ってほしい」と懇願された。事情があって6月中には行くそうで、お役目を果たした後、イタリアからニースに寄りたい、ということだった。
日本からニースへは直行便がない。そこで私は、どうせパリ経由で行くなら、パリにも寄っていこうと思いたち、いつもの旅行会社で3拍のホテルを予約した。一人旅には慣れているし、大丈夫……と軽く考えてしまったわが身の浅はかさ。慣れている一人旅は日本国内のこと。ヨーロッパで一人旅をしていたのは、まだ怖いもの知らずだった20代の頃のこと。あの頃の私と今の私とは、もはや別人。体力も記憶力も判断力も順応力も、ことごとく劣化しているというのに。考えれば考えるほど、だんだんと不安が募ってくる。夜も眠れないし、体調不良の日が増えていく。
でも、もう後へは退けない。ワクワク気分を引き寄せようと、あれこれ情報を手に入れ、安全で楽しいパリの一人旅を計画していった。がんばれ、私……!
羽田をたつ便は早朝なので、前日は空港近くのホテルに泊まることにして、夕方出発。電車で10分の主要駅から空港バスに乗った。
バスが走り出して20分ほどたった頃、高速道路を走行中に、突然大音量の車内放送が響いた。
「緊急地震速報! 強い揺れにご注意ください。緊急地震速報!」
心臓がドキンと跳ねた。どうしよう、こんな場所で……。きょろきょろと辺りを見回す。しかし、高速道路上で揺れは感じられず、周囲の車も走り続けている。
しばらくして、ふたたび緊急放送が入る。
「緊急地震速報が、鹿児島県に発令されました!」
なぁんだ、と気が抜けた。人騒がせな、と思ったけれど、地震がどこで発生しても、この速報は日本中を駆け巡るのかもしれない。運転手も乗客も終始無言だった。
やれやれ、また不安と緊張が高まってしまった。とんだ旅立ちとなった。
(後編に続く)

▲空港に向かうバスは、海を見下ろしながら、順調に走っていたのに……。

▲その晩のホテルの窓からは、川の向こう岸に羽田空港が見えた。