春のエッセイ:「桜の咲くころ」 ― 2013年04月05日

桜が咲いて、かわいらしい新しい小学生が登校していく季節になると、いつも長男のときのことを思い出す。
3歳で自閉症の診断を受けた息子は、療育施設に4年間通ったあと、地元の小学校の普通学級に入ることにした。
入学式の翌日、息子の登校に、私もついていった。すると、学校に向かう道をわざとそれようとする。学校に着いても校門から入ろうとしない。挙句の果てに、しくしくと泣き始めてしまった。
新しい場所で、見知らぬ大勢の子どもたちがいて、彼には不安なのだ。
門の脇には桜の木が一本。はらはらと花びらが散る中で、ランドセルを背負ったまま寝そべって泣いている。なんと悲しい新入生なのだろう……。
なんとかなだめすかして、昇降口まで連れていき、クラス担任の三木先生に引き渡す。ベテランの先生は、気負いもなく、「心配いらないわ、お母さん!」と明るく言ってくれるのだった。
そんな日が1週間続いたある朝、息子は何の抵抗もなく校門を入り、昇降口に向かった。驚いていると、迎えに出てきた先生が種明かしをしてくれた。
どうやら、テレビで見たことのあるアコーディオンを実際に触らせてもらい、音を出してみたら、面白かったのだろう。その日からぴたりと、「学校には行かない」と口にしなくなった。それからしばらくのあいだ、音楽室に日参したらしい。
三木先生は、40人もの子どもたちを抱えながら、息子とも上手に関わってくれた。本当は大変だっただろうに、私にはそんなそぶりも見せなかった。
その後、息子は5年生のときにエレクトーンを習い始める。そして、26歳の今でも毎週レッスンに通っている。腕も上がり、レパートリーも増えた。
障がい者の息子が音楽の趣味を持てたのも、あのときの三木先生のおかげ……と今さらながら思っている。


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